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2017年6月5日

だーいし。 (22歳)
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音楽の裏側を知るという事の味わい深さ

尾崎世界観の『苦汁100%』から垣間見えたクリープハイプの裏側

音楽家には2種類に分けられると思う。
音楽を作る上で自身の苦労を見せる人と、見せない人。

BUMP OF CHIKENの藤原基央は『音楽から自分達の姿を探そうとしないで欲しい』というニュアンスの言葉を言っていた。
サカナクションの山口一郎は〈 エンドレス〉という楽曲での葛藤、苦労を生々しいドキュメンタリーでアルバムの特典と映像化した。

それが悪い事だとは思わない。好みの問題だ。
僕はどちらかというと、楽曲の裏側を知りたい派。
自分が大好きな曲がどのようにして生まれ育ったのか知りたい。
それは恋人の過去を知りたい気持ちに似ているような気がする。知りたいなら聞けば良いし、知りたくなければ見なければいい。
でも僕は知りたい。

っていう事を踏まえた上で、”尾崎世界観”はあまり自身の話をしない。
Twitterもかなり昔に辞めていて、彼の素性を知る機会はグッと減った。

だからこそ、『苦汁100%』の輝きがある。

尾崎世界観は尾崎祐介名義で『祐介』を出した。
読んでいて面白かったし、彼の素性が垣間見えたような気がした。
でもどこまでが本当なのかは分からない。
きっと一部分はノンフィクションだし、一部分はフィクションでしかない。
それはあくまで音楽家ではなく、作家として純粋な気持ちで向き合った結果だろう。

『苦汁100%』は尾崎世界観名義で発売された。
ここに綴られているのは尾崎世界観の日常だ。
小説では描かれず、楽曲には表せない所にある尾崎世界観の心の話。

ライブでは沢山の人を魅了しているのに、その1時間後ではホテルで静かに飯を食べている、華やかな世界に生きるバンドのフロントマンの”普通”が描かれている。

これを読んで僕が感じたのは、尾崎世界観の”音楽に対する真摯な姿勢”だった。
ライブに来てくれたお客さんを大切にしている様子や、お世話になっているラジオやテレビ番組に感謝をしている様子、バンドメンバーの事や、違うバンドと交流をしている事。
ここに描かれてある全てが、結局『音楽』に戻ってきてしまうのだ。
嫌い食べ物を残してしまったら今日のライブでバチがあるかな、とかそんな小さな瞬間でさえも彼は音楽の事を考えている。
どこまで真っ直ぐな人なんだろうかと思った。

ここ数年、というよりは少し前まで、尾崎世界観は声の不調に悩まされていた。
誰よりも繊細で不器用な彼の事だ、きっとネットの批判も上手く受け流せないのでは無いだろうか。
自身で全盛期だと話していたアネッサのCMソングに起用されていた頃。
そんな輝かしい過去が、調子の悪い尾崎世界観をより苦しめていた。
もがいて苦しんで、それでも簡単には辞められないから出口を探して歩き、途方に暮れ、ステージに立つ。
僕は、ファンは、そんな尾崎世界観の苦渋をどれだけ理解出来ていただろうか。
きっと半分も理解出来ていなかったと思う。

言わないから。彼は。
自身の苦労を。

アルバム『世界観』が発売された時に、僕はとんでもない興奮を味わった。
恰好いいも、情けないも、優しさも、喜怒哀楽の感情の全てがゴチャゴチャに詰め込まれた”クリープハイプ”らしいアルバムだったからだ。
僕はその時のツアー東京公演に居て、迷いから脱したような演奏、笑顔を見れて嬉しかった。
尾崎世界観はもう大丈夫だ、と思った。

『苦汁100%』では、その頃の事が描かれていて、
——
気持ち悪いくらいに調子が良い。
—–
ここ数年、歌を歌うときに、小節ごとに大縄跳びに飛び込む瞬間のあの嫌な体の強張りをずっと感じていた。それが全部解消された。
—–
これまでならここで崩れていたけれど、今回はしっかりと持ち直せた。納得のいく歌が歌えているから細かいミスに引っ張られることはない。
—–
と書かれていた。

僕はアルバムの興奮を思い出して、再生ボタンを押さずには居られなかった。
アルバムと出会った頃の興奮を2回も味わえる。
まるで食べ物を味を変えるみたいに、別の角度からも楽しませてくれる。

僕はこれからも尾崎世界観にクリープハイプに着いていこうと思う。
いつでも絶好調ではなく、不調も苛立ちもある、どこまでも人間臭い彼が好きだからだ。

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