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遠藤ミチロウさん、あなたのことは忘れません。

私に沁み込んでいたパンクロック

元号が平成から令和に変わった5月1日午前0時。なんとなくツイッターを見ていたら、「新しい時代だ!」みたいな言葉が多数上がってきた。確かにそうだ。けど、元号が変わったからと言って急に何かが大きく変わるわけじゃない。変わるとしても少しずつで、少しの積み重ねの結果を後に「こういう時代だったね」と思い返すもので。それは元号が変わろうが変わるまいが常にそういうものなんだろうな…などと思っていたら、スマホに通知が入った。ミチロウさんの公式ツイッターだ。
「遠藤ミチロウは」…ん?…「永眠いたしました。」
「うそっ!」と思わず声が出た。
ご病気だとは聞いていたけど、まさか亡くなってしまうなんて思ってなかった。ショック。頭を抱えつつ布団に入り、眠ろうとしたけど眠れない。あのミチロウさんがこの世からいなくなってしまった。もう同じ世界にいないんだ。それが思いのほか重く乗っかってきて、涙が出た。
正直に言うと、最近はほかの音楽ばかり聴いていて、ミチロウさんの歌にはご無沙汰していた。けどその夜は、呆然となった。しかもそれが何日も続いた。夫から「どうした?暗い顔して」と言われたが、暗い顔している自覚もなかった。改めて、ミチロウさんが自分にとって大きな存在だったと気付いた。

令和を迎えると同時に、時代は大きく変わってしまった。私にとっては。

ミチロウは20歳の私を救ってくれた。あの音楽を聴かなかったら、今も深い真っ暗闇にいたか、またはこの世にいなかった。
私がミチロウに惹かれたのは、ザ・スターリンの過激なパフォーマンスや性描写の多い歌詞などではない。では何だったのか。考えてみた。はて…思い出せない。よーく考えてみた。

実家の最寄り駅のそばにレコード店があって、特に高校生の時は学校帰りによく立ち寄っていた。店に入る度に、ある商品ラックのインデックスの文字が、必ず目に入る。「驚異のバンド スターリン」。けどその頃は、そこに手を伸ばすことはなかった。
短大に入学・卒業したはいいが、私は就職に失敗した。いくつもの会社の試験を受けたけど、落ちてばかり。なんとか雇ってくれる会社に出会えたが、なんだか馴染めなくて、程なく辞めてしまった。再び仕事を探し、採用してくれた会社も数か月で辞めた。次に入った会社には解雇された。私自身は一生懸命、まじめに勤めていたつもりなのだが、何故か会社の人々、と言うか社会の人々は、私のことが気に入らないらしい。小さい頃から薄々気付いてはいた。私は不良品なんだ、欠陥があるんだ、何をやってもダメな人間なんだ。常々そう思っているから、よく「暗い」とバカにされた。しかし、どうしたらいいのか分からない。改善のための努力をどのようにすればいいのか。相談できそうな人もいなかったし、相談するという発想さえもなかった。とにかく何かにすがりたかった。あるいは自分を変えてくれるものが欲しかった。強い薬が必要だった。
八方ふさがりの私が救いを求めたのがパンクロックだった。もうパンクしか思い付かなかった。あのレコード店に行き、「驚異のバンド スターリン」を手に取った。

それは私の心を癒してくれた。
アルバム≪STOP JAP≫の1曲目≪ロマンチスト≫。最初のギターの音の衝撃、スピード感、畳みかけてくる遠藤ミチロウの声と言葉。求めていた薬に、こんなに早く会えるなんて!
歌詞も私を慰めてくれた。
<何でもいいのさ 壊してしまえば>…こんなことを言う歌は聴いたことがなかった。
ほかの曲でも、
<俺は世間の嫌われ者さ> (≪MONEY≫)…私だけじゃないんだ!
<吐き捨てることも あきらめることも 腐っていくことも 許されちゃいないのさ>(≪MISER≫)…そうか。じゃあ仕方がないな。
これらの言葉が、私にはこの上ないカタルシスだった。それまでの私は、心の中にある本当の感情や感覚を隠していたんだ。表に出すものではない、と思い。他人に嫌われないよう自分を小さくしていた。自分を抑えることが善だと思っていた。けれどもミチロウの歌は「違う」と教えてくれた。八方ふさがりの私に手を差し伸べてくれた。
アルバムをよく聴けば分かるが、ミチロウは何でも壊すことを推奨しているのではない。≪ロマンチスト≫の歌詞は、何でも壊そうとする人を批判している。ライブで裸になったり臓物をまき散らしたりしていたけど、実は理知的で聡明な方だ。それは歌詞からも、インタビューやエッセイからもうかがえる。もし私が10代でスターリンに出会っていたら、歌詞の意味を間違って解釈したかもしれない。<何でもいいのさ 壊してしまえば>を真に受けてしまって、不良品はただの不良に落ちていたかもしれない。20代だったからそれを避けることができたのだろう。
ミチロウが壊してくれたのは、私の弱い心だった。そしてやっと大人になれた気がした。

私はほかにもアルバムやカセットブック、書籍などを買い漁った。雑誌で、スターリンが解散したことを知って残念に思った。歌詞の中には時々イヤな部分もある。理解できない部分もある。それでも、マイナー調の曲、サウンドの迫力、歌声、言葉の強さ、知性に惹きつけられた。何より、彼の歌詞の根底にあるのは「悲しみ」と「違和感」だと私は感じた。ミチロウも、自分の欠けている部分や、世間との隔たりが悲しくてどうしようもないのではないか。だから暗い。その暗さが私には安心感だった。
カセットブック≪ベトナム伝説≫の中で彼は「負(マイナス)のポップスをやりたい」というようなことを仰っている。すでにやられているではありませんか!とお返ししたい。「負のポップス」の最高峰でしょう! だからこそ私は癒されたのだ。マイナスかけるマイナスはプラスである。私は彼の音楽でプラスになれた。プラスの音楽ではプラスになれなかったのだ。

何年も経ってから分かったことだが、就職に失敗したのは自分に自信がなかったからだ。自信のなさが表情や声や態度に表れて、面接官に伝わってしまったからだ。
スターリンを聴いて、自分の中に閉じ込められていたものが解放された。「それでいい」と、初めて自分の存在を肯定してもらえた。
その後、ある会社に採用された。接客業だった。初めはつらいこともあったけど、ミチロウのお陰で強くなっていた。働き続けるうちに会社の方々は私を認めてくれたし、信頼してくれるようになった。少しは明るくなれたのだろう。結婚相手も見付かった。

スターリン解散後も様々な形で歌い続けたミチロウさん。ソロワークスも好きだった。ゲイノーブラザーズのアルバムは毎日何回も聴いた。ビデオ・スターリンもパラノイア・スターも良かった。平成元年に始動した3つ目のスターリンも最高に楽しかった。ポップでありながらもドロッとまとわりつくような歌声が心地良かった。札幌でのライブで私は友と二人、最前列に並んだ。入り待ち・出待ちもした。手紙も書いた。ゲスト出演するFMラジオ局にも追いかけて行った。オフステージのミチロウさんはとても穏やかで低姿勢で優しい方だった。

時代は変わりゆく。
バンドではなくお一人でアコギライブをするようになったミチロウさんを、何回か夫と観に行った。夫もミチロウさんが好きだった。静かなライブハウスでギターを殴るようにかき鳴らし、叫び、うめきながら歌うアコースティック・パンク。スターリンとは一味も二味も違う、暗さと悲しさ。地獄に吸い込まれるような気がした。ミチロウの中にある真っ暗な地獄に再び。この頃のミチロウはなお一層、歌に強さを増し、唯一無二の存在感を呈していた。

平成23年、東日本大震災による福島の原発事故。日本中がひっくり返った。NHKのニュースで記者会見をする遠藤ミチロウを見た。故郷・福島を再生させようと起ち上げた「プロジェクトFUKUSHIMA!」。涙しか出ない。

遠藤ミチロウが言葉を紡いで、声を絞って教えてくれたことは、自分を信じること。私の中にはないものだった。それが私を救ってくれて、今につながっている。

以上、私が遠藤ミチロウさんについてよーく考えた結果である。ただの思い出話でもある。最初に「[ミチロウに惹かれた理由]を思い出せない」と言った、その答えである。また、[思い出せなかった理由]も分かった。今の私は20歳の時より幸せだからだ。最近あまりミチロウを聴いていなかったのも同じ理由。健康な人に薬は必要ない。

あと、これも言っておきたい。ミチロウさん、かっこよかった!

これからミチロウさんのいない時代に生きていかなければいけない、と思うと気が重いけど、きっと大丈夫。大人にしてもらえたから。強くしてもらえたから。低姿勢を保ちながらも、むやみに自分を見下したりはしないから。ミチロウさんのお陰で、ちょっとやそっとでは動じない自分になれたから。
いつかまた私の心に欠けが生じた時は、ミチロウにすがると思う。アコースティック・パンクが痛すぎるほど沁みて、癒され、満たされるんじゃないかな。

気になっていることがある。公式ツイッターでのご逝去の報告が、令和になって間もなくの0時30分だったのは、何故なんだろう。単なる偶然なのか。スタッフの方の意志なのか。それともミチロウさんの遺志なのか。分からないけど、ただ、令和初日の発表によって、この時代にも遠藤ミチロウの名前が刻まれたことは事実。令和も、その後の時代も語り継いでいかれるための起点となった。こんなに情報網が発達しているのだから、遠藤ミチロウの名前がこの世から消えることはない。そう信じている。

遠藤ミチロウさん、ありがとうございました。ご冥福をお祈り申し上げます。

あぁ…今頃あなたは天国で…地獄ではなく天国で、新しい時代になったこの国を、どんな言葉で歌っていらっしゃるのでしょう…。

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