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スターダスト☆レビュー 「木蘭の涙」

僕と祖父の約束

 僕と祖父の約束の歌である、スターダスト☆レビューの「木蘭の涙」。
 僕はこの歌を、一緒に住んでいる祖父に教えてもらった。でも、長い間、歌っている人の名前もタイトルも知らなかった。この歌は、僕の中ではずっと「おじいちゃんがよく歌っている歌」だったからだ。
 祖父がこの歌を歌うのを何度も何度も聞いているうちに、だんだん僕も歌詞を覚えた。「逢いたくて 逢いたくて」「いつまでも いつまでも」と同じ言葉を繰り返すところを真っ先に覚えたので、そこだけ一緒に歌うようになった。次に、「あなたを探している あなたを呼んでいる」のメロディが好きで、そこも歌うようになった。後の部分はあんまり気にしたことがなくて、なんとなくわかるところだけ歌ったり歌わなかったりしていた。
 ゴールデンウイークに、遊びに来たいとこ達と生まれて初めてカラオケに行った。そこで僕が「木蘭の涙」を歌ったとき、叔父に「よくそんな昔の歌知ってるなあ」と驚かれた。その時僕は、この歌が僕の生まれるずっと前に流行った歌であること、スターダスト☆レビューというグループが歌っている歌であることを知った。
 家に帰って、さっそくYouTubeで検索したら、出てきたのが男の人だったので、びっくりした。歌詞の中で「わたし」と言っているので、てっきり女の人だと思っていたからだ。聴き始めて、もう一回驚いた。サングラスのよく似合うおじさんが、男の人の声で女の人の歌を歌っているのに、まったくおかしいと思わなかったから。それどころか、その少しかすれた声が優しいメロディにぴたっと合っていて、聴きなれていたのと全然違う歌に聞こえた。
 僕は感動して、何度も繰り返し同じ映像を再生した。何回聞いても飽きることがなかった。言葉の意味も考えずにただ口ずさんでいた歌詞が、ドラマや映画みたいに僕の頭の中で映像になって流れていった。僕は、よく晴れた日に吹いた気持ちいい風や、ぐんぐんのびる草のにおいを確かに感じた。大切な人を失った主人公の女の人の悲しみまでまるで自分の事のように思えて、胸がきゅっと痛くなった。音楽が流れている数分間は、周りの景色もさっき食べたお昼ご飯も明日の学校も忘れて、僕は現実の僕から切り離された。祖父の歌ではこんな風になったことはないので、スターダスト☆レビューの力によって、「木蘭の涙」の世界に引き込まれた。単純に声がいいとか、音程があっているとかじゃなくて、歌によって人の心に魔法をかけられる人の事を「歌手」というのだと感動した。
 僕はすっかり興奮して、体験したことを祖父に話した。祖父は「心を動かされたと感じた出来事は大事にしたほうがいい。そういう出来事の一つ一つが将来へとつながっていくから」と言ってくれた。それから、「『木蘭の涙』はどういう歌だと思う?」と聞かれた。
 僕は、この歌の女の人は笑いながら泣いていると思った。恋人は死んでしまってもう二度と会うことができない、一緒にいることもできない。二人がバラバラになってしまった事が悲しい。とても悲しいのに、自分は生きているから嫌でも一日ずつ年をとっていって、どんどん恋人との距離は離れていく。悲しみの中にいながら、それは恋人のせいではなく仕方がないことだとわかっているので、「嘘つき」と言いながらも恋人を本当に責めてはいない。ただ、せいいっぱい無理をして、笑顔でサヨナラを言っている。そういう歌だと思った。
 そう言うと、祖父は「チビはよく考えているな。えらいえらい」と褒めてくれた。(祖父は僕の事をチビと呼ぶ)
 今度は僕が「おじいちゃんがこの歌をよく歌っているのは、おばあちゃんの事を思い出すから?」と聞いた。僕の祖母はずっと前に亡くなっていて、僕は祖母の顔を写真でしか知らない。父や母によると、とても仲のいい夫婦だったそうだ。今でも祖父は、祖母の月命日にはお花とお菓子を必ずお供えしている。
「歌で思い出すんじゃなくて、思い出して歌を聴いて、歌に救われているんだ」と祖父は答えた。
「大事な人が死ぬっていうのは本当にきつい。涙も出なくなるほど悲しいし、急にいなくなったことに対して勝手に怒りをもってしまったりする。いろんな感情が混じって、苦しくてのたうちまわって、死んだ人に対してもどうしてこんな思いをさせるんだってドロドロした憎しみすらわいてきてしまう。そんな時に、おばあちゃんの写真を穴が開くほど見て、この歌を聴くんだ。そうしたら、汚い感情がそぎ落とされて純粋に『悲しい』って気持ちだけになれる」
「歌に気持ちを添わせていくと、おばあちゃんとの楽しい記憶だけがポコポコ出てくる。憎しみとか怒りとかの嫌な気持ちがすっと消えて、ただ悲しみだけが残る。きれいな感情でおばあちゃんを思い出して、そしてその死を悼める」
「それが音楽の力だ。音とか、歌詞とか、声とか、全部ひっくるめて一つの世界を作り出して、そこに連れて行ってくれるんだ。その世界に、おじいちゃんは救われたんだ」
 祖父の話はよく分からなかった。僕はまだ親しい人を亡くしたことがないから、しょうがないのかもしれない。でも、同じ歌を聴いているのに、僕以上のものを感じている祖父がうらやましい。
 だから、僕と祖父は約束をした。
「きっとおじいちゃんはチビよりも先に死ぬから、その時に『木蘭の涙』を聞いてごらん。おじいちゃんの言っていたことがきっと分かる」
 祖父が死んだときに「木蘭の涙」を聴く。
 僕と祖父は、指切りげんまんした。

 その日が来たとき、僕はどんな気持ちでこの歌を聴くのだろう。二十年後か三十年後、それは避けることができない未来だ。今は想像もできないその日が来たとき、きっと僕は泣くだろう。
 その時に聴くスターダスト☆レビューの「木蘭の涙」は僕をどんな世界に連れて行ってくれるのか、今から少し楽しみだ。

 でも、それは、できればずっと先の事であったらいいなと、僕は思っている。

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