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2017年6月8日

桐嶋碧穂 (35歳)

咎人たちの悲しくも美しいメロディー

lynch.『SINNERS-EP』

悲しい。こんなにも悲しくて息が苦しくて心が痛くなるメロディーを私は他に知らない。
lynch.の新作『SINNERS-EP』。
自らを「咎人たち」と名付けたこのタイトルセンスを、私はただ素直にカッコ良いと思った。咎人たちはどんなメロディーを聞かせてくれるのだろうと期待した。しかし私のそんな想像は恥ずかしくなるぐらい期待を遥かに超えていた。
昨年末にベーシストの明徳が脱退し活動自粛していたlynch.の復活作とも言えるこの『SINNERS-EP』。なぜ明徳は脱退することになったのか、lynch.は活動自粛していたのか。そういったことは他のメディアでメンバーがさんざん答えているのでそちらにまかせたい。私は読んでいて何度も胸が苦しくなった。
彼らはよくインタビューで5人のlynch.を「完全体のlynch.」と呼んでいた。しかし現状4人になってしまった。そのことをボーカルの葉月はあるメディアでこう答えている。
「今のlynch.は不完全」
その不完全体のまま、4月18日、新木場STUDIO COASTで彼らは未来へ歩き出した。5人のlynch.にあったものを何とか4人で見せたい。この言葉を読んだとき、私は息が苦しくなった。うまくいきますようにと願った。でも実際は半信半疑だ。6月9日から始まるツアーは4人のサポート・ベーシストが代わる代わる回るという。でも、じゃあその先は? その先どうなるかは分からない。もしかしたらメンバー自身も分からないのかもしれない。
そこへ5月31日、届けられたのがこの『SINNERS-EP』だ。
そこにはインスト曲を含め6曲が収録されている。6曲入りのEPでありながら、これまでのlynch.の作品にはないほど緩急がしっかり付いている。
そこには人間の怒りや悲しみといった感情がまるで荒々しい台風のように渦巻いている。
さらに驚くことにこの作品には5分超え、それどころか6分を超える曲まで収録されている。葉月は以前のインタビューで「かったるいのは嫌」と答えていたのでこれは劇的な変化だ。
その中で強く歌われているのは「欠落」と「喪失感」だ。大切な仲間を失ったことへの喪失感。
中でも『KALEIDO feat. T$UYO$HI』と『SORROW feat. YUKKE』にそれらが強く表れている。
とくに『SORROW feat. YUKKE』の歌詞は葉月が明徳の心情を想像して書いたものだという。しかし私には葉月自身の心情にも私たちファンの心情にも思えた。
また今作はЯyo TrackMakerことex.ギルガメッシュのЯyoがエンジニアとして参加しミックスも手掛けている。そのためか重く激しい音はよりタイトに、綺麗なメロディーはより綺麗に聞こえる。ラテン語で意味は「怒りの日」だという『DIES IRAE feat. YOSHIHIRO YASUI』や『SORROW feat. YUKKE』でそれは顕著で、Яyo TrackMakerの本領発揮と言える。
とにかくベーシストが代わると曲の印象もこれだけ変わるとは新たな発見だった。
また、前作『AVANTGARDE』からその兆候はあったが、インスト曲の『SIN』はlynch.の遺伝子とギルガメッシュの遺伝子が曲の中で融合しているように聞こえた。
さらにギターの悠介作曲の『SORROW feat. YUKKE』ではMUCCのミヤがエンジニアとして参加している。
言うなればこの『SINNERS-EP』はlynch.が仲間に支えられてできたEPだと言えるだろう。
この『SINNERS-EP』は人間の怒りや悲しみを埋め込んだまるでパンドラの匣のような作品だ。
しかしそのパンドラの匣に最後に残っていたのは希望であるという。
もしかしたらlynch.は自身たちで希望という未来をこじ開けていくのかもしれない。

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