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スガ シカオは「令和」時代を生き抜くロールモデルだ

独立後の変遷とアルバム『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』から考える

新元号「令和」の時代が始まって、はや1ヶ月。「れいわ」という音の響きにも慣れ、長く我々と歩みを進めてきた「平成」は過去の記憶となりつつある。

しかし、平成の最終盤にあたる2019年4月17日。とある作品がリリースされて以来、令和となった現在も含め、じわじわと反響を呼んでいる。アルバム・表題曲のタイトルは『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』。あまりにも言葉のインパクトが強く、十数年間ファンを続ける筆者でさえ戸惑わせたそのアーティストとは、シンガーソングライター・スガ シカオだ。

スガ シカオといえば、SMAPのヒット曲『夜空ノムコウ』や、NHK制作のドキュメント番組主題歌『Progress』を手掛けた人物として、一般には知られている。他方、彼を取り巻く環境がここ10年で目まぐるしく変化した事実を知る人は、案外多くないのではないだろうか。

上述の通り、自身で歌った楽曲のみならず提供曲までもヒットを飛ばしながら、彼には表舞台から姿を消した時期があった。2011年10月、当時の所属事務所を退社・独立したことを契機に、インディーズへと活動拠点を移していたのである。

デビュー以前の在り方だった「裸の表現者」像を再び追い求め、安定した地位を捨て、新たな一歩を踏み出したスガ シカオ。だが、想像以上の苦難が彼を待ち受けていた。
独立当初はマネージャーすらおらず、LIVE会場のブッキングや設営をはじめ、公演中の細かな指示を記した文書作成も行うなど、曲づくりに専念できると言い難いほどの雑務を強いられた。さらには、独立前後のタイミングで右耳の突発性難聴を発症してしまう。彼の音楽人生において、最も危機に瀕した出来事であったのは間違いなかった。

置かれた境遇と格闘するなかで、スガは2014年にメジャーフィールドへ完全復帰する決断を下す。自らの裁量で生々しく楽曲を発信できる利点がある一方、プロモーションの難しさというインディーズ活動の欠点を補いたかった状況に、現在所属するレーベルからのラブコールが重なったのだ。
突発性難聴との付き合い方を模索しながら、ここから二度目となる『前人未到のハイジャンプ』(※デビューアルバムにおける1曲目のタイトル)を見せる。

「50歳までに、スガ シカオの集大成になるようなアルバム」を完成させたいと、独立以後たびたび公言してきた彼は、50歳を目前にした2016年1月に10thアルバム『THE LAST』を発表し、有言実行してみせた。
また、デビュー20周年を記念したイベント「スガフェス!」と海外公演をいずれも成功させた2017年は、真の意味で復活を印象づけた1年といってもよいだろう。

これらの紆余曲折を経てリリースされた作品が、冒頭で挙げた『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』(以下、今作)なのである。今作では、スキャンダラス性や刺々しさを謳った前作の『THE LAST』とは異なり、エバーグリーンな言葉選びに徹した楽曲群が並ぶ。筆者が選りすぐって紹介することにしたい。

表題曲『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』は、ともすれば誤解を招きかねないタイトルで、無意識に聴き手の関心が向く。このキラーフレーズを携えた1曲が、いきなり先頭に据えられたのだから、おそらく戦略的な曲配置のはずだ。
ここで注釈したい点を一つ挙げるなら、最後まで聴いて初めてメッセージ性が不足なく伝わる楽曲だということである。至極真っ当な話かもしれないが、繰り返し触れてきた「労働なんかしないで…」の文言は、さほど曲中でカギを握る表現となってはいない。

“ねぇその幸福って よくわかんない
ねぇその幸福って 思い込みじゃなくて?
例えば人から見たらめちゃくちゃに不幸な奴がいて
でもその幸福って そこにきっとあって
ねぇその幸福って  まだよくわかんない
ねぇその幸福って そこにきっとあって
ねぇその幸福って”

サビを全て歌い終え、続く最後の一節でスガが発する問題提起に、聴き手の多くはハッとさせられるのではないか。この箇所こそが、途中まででは辿り着けない曲の核心というわけだ。
「幸せ」について考えたとき、実際のところ不明瞭かつ実体のないものでありながら、とかく他者と自分を比べては、一喜一憂する指標になっているように思う。幸福の尺度はあくまでも人それぞれで、仕事漬けの毎日に幸せを覚える人もいれば、プライベートの充実が幸福感に直結する人もいる。たやすく優劣を測れるものではないのだ。

“そこにきっとあって”とシャウトしながら歌う彼から、ほかの誰でもない自分に幸福の在り処があるんだと、熱く人生の手ほどきを受けている気がした。

スガ シカオは、こうした日常生活のエトセトラが根底にある楽曲をたびたび発表している。先んじて取り上げた表題曲を除いた今作収録曲でも、例外ではない。

“ぼくらが失くしたり おし殺した自分を
悔やむことはない いつか取り戻しにいこう
君が話してくれた 内緒の未来へ
道は続いてる 君の足下から 続いてる”(『遠い夜明け』)

周囲からバカにされるのを恐れ、秘めた思いを胸にしまった経験はないだろうか。
人格やプライドを傷つけられるも、歯向かえず悔し涙を流した経験はないだろうか。
つい抱えてしまうネガティブな感情を理解したうえで、励まし寄り添ってくれる歌詞は大きな魅力だ。

対照的に、挑戦的な歌詞を盛り込んだ楽曲もある。

“おれこう見えて作戦なしで 出たとこ勝負の20年
安全地帯でぬくぬくしてるの 一番苦手なタイプ”(『ドキュメント2019 feat.Mummy-D』)

彼自身の音楽人生を引き合いに出し、現状維持でも構わないとする人々へむけて、“苦手”だと冗談交じりに突き放すシーンを今回引用したが、曲調は全体を通してむしろ爽やかだ。一見すると角が立ちそうな物言いも、メロディラインに打ち消されて違和感なく溶け込む点も、スガの楽曲にまま見られる作風である。

今作を紹介するにあたり、実は筆者が設定したテーマを基準に、とりわけ相応しいと判断した3曲をピックアップしていた。そのテーマとは「人生の指針になり得る楽曲」だ。
ストレスフルで刻々と移ろう現代社会を生きる、我々に必要な心構え。スガ シカオの詞世界には、そのヒントが詰まっているように感じる。
他者に左右されず、自らが望む幸せのカタチを求め続けること。過去に縛られすぎず、未来を見据えること。変化を恐れず、常に前進しようと試みること。今作だけをみても、実践的でバラエティー豊かなメッセージが揃っている。

“あと一歩だけ、前に 進もう”

13年前に制作した『Progress』でそう歌った彼は、のちに独立という茨の道を選び、ありのままの「スガ シカオ」を表現しようと、日々奮闘している。まるで、彼が生み出す音楽を体現するかのように。その姿はまさしく、現代日本の「ロールモデル」ではないだろうか。

「令和」の時計針が動き始めた今、我々も“あと一歩だけ”でも歩みを進めないわけにはいかないはずだ。

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