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ミスチルのドームツアーが終わった

Dome Tour 2019 “Against All GRAVITY”を観て

映画のようなライブだった。

2019年5月25日、ナゴヤドーム。1曲目、Your Songの冒頭のシャウトを聴いた時点で思った。この日の桜井の声はいつもと違う。高音域に声量がなく、絞り出す表情も厳しい。2017年のツアーでは、同じ名古屋で、桜井の声の変調から公演中断を余儀なくされたことが記憶に新しい。不安な気持ちで迎えたオープニングだった。

「いつもと違った」というのは不正確かもしれない。僕はかれこれ20年、ミスチルのライブに通っているけれど、この数年で、桜井の不調の頻度は確実に増えた。ドラムを叩くJENの表情を見ていて、辛そうだなと感じることも多くなった。彼らも今年で50歳である。2017年に70万人を動員したDOME & STADIUM TOUR “Thanksgiving 25″に臨むにあたり、メンバーは食事を細かく管理し、体を絞り、万全の調整を行ったという。彼らが全員揃ってドームのステージに立つこと自体、既に当たり前のことではなくなっている。

翻って、この5年間のMr.Childrenの活動は、我々古参のファンにとって驚きと感動の連続だった。2014年に発売されたシングル「足音 〜Be Strong」のクレジットは、“Produced by Mr.Children”。デビュー以来、全ての作品に必ずクレジットされていた小林武史の名が消えていた。「新しい靴」を履いたMr.Childrenは、「アルバムリリース → ツアー」のルーティンを破り、アルバムに先立って映画“REFLECTION”を公開し、ツアーを敢行する。映画館でバンド4人の息遣いをびしびし皮膚に浴びたあの時の新鮮な感覚が忘れられない。「こんなミスチルが見られるなんて。」そう思ったファンは多かっただろう。ツアー最終日にようやくリリースされたアルバム“REFLECTION”を手に取ったとき、40半ばの「モンスターバンド」が、なお現状に甘んじず、セルフプロデュースという賭けに出て、結果大成功を収めたことに、武者震いを覚えずにはいられなかった。

“REFLECTION”をリリースした後、彼らはホールツアーを回る。アコーディオンとホーン隊をフィーチャーした「同期なし」(ステージ上の演者が奏でる音のみ)のライブで、これまた初めての試みだった。音響に優れた会場で、メンバーの奏でる一音一音のニュアンスまで嗅ぎ取れるようなライブ。長年の夢が叶った瞬間だった。

2018年、新作のリリースが公表された。“REFLECTION”という傑作を作り出した彼らが、それを超える作品を世に送り出すことができるのか。そんな勝手な心配をよそにリリースされた「重力と呼吸」は、“REFLECTION”で僕らを驚かせたロックで骨太なMr.Childrenを更に煎じ詰めてドリップしたような内容だった。唖然としているうちに48分が終わってしまう。コンパクトディスクにパッケージされていたのは、メンバーの確かな自信だった。

話をナゴヤドーム当日に戻そう。この日のステージも、予定調和という言葉とは無縁のものだった。ミスチルのライブでは定番となっていた映像によるオープニングはなく、田原が一人で登場し、静かに奏でるギターのノイズに2つの鍵盤が螺旋状に絡み合い、Your Songのイントロに昇華される。自由に形を変える巨大な背面スクリーンにも、地面からせり上がる花道にも意表を突かれて思わず笑ってしまう。「重力と呼吸」の陰の立役者である世武裕子の鍵盤はスリリングで、コーラスワークにも唸らされる。音響はドームとは思えないような高解像度で、ギターの一弦一弦、タムの一音一音を聴き分けることができる。ドラムの音像は限りなくタイトだ。日進月歩の音響技術と、アルバムの肌感覚を追いかけるスタッフの執念を感じた。

そんな新しいステージの、短いMCの中で桜井が紡ぐ言葉は、最近のMr.Childrenの活動から僕らが感じていた「何か」に確実に呼応していた。

「ツアータイトル“Against All GRAVITY”の“GRAVITY”は実はメタファーで、その人が願っている方向と逆の方向に引っ張る力を“GRAVITY”と呼んでいる。年をとりたくないと思っている人にとっては、時間こそが“GRAVITY”だ。」

「変わった方がいいものと変わらない方がいいものがあるけれど、Mr.Childrenはそのどちらなのかいつも自問自答している。」

「著名人が亡くなったり、引退したというニュースを見るたびに、果たして自分はあとどれくらい続けられるのだろうかと考える。」

有限な時間を共に過ごしている。自分があと10歳年をとれば、ミスチルは60歳になる。2,3年に1度アルバムがリリースされて、ツアーが開催される、そんな当たり前のルーティンがいつまで続くか分からない。あと何回、こうやってライブを観られるだろう。そんな僕たちの漠然とした不安に、Mr.Childrenは言葉では答えなかったけれど、ステージで答えてくれた。

序盤には不調と思われた桜井の声は、中盤には復調した。いや絶好調となった。バンドの演奏はこれまでで一番ロックでパワフルだった。このライブでMr.Childrenは、彼らが彼らの“GRAVITY”に抵抗する姿を聴衆に見せ付けたのだ。そして僕らは1つのステージに彼らの生き様と決意表明を見た。今回、沢山の観客が泣いていたのは、僕と同じメッセージを黙示に受け取って、感極まったからであろうと想像する。

ツアーを終えた彼らはレコーディングのためにロンドンに向かうという。彼らにとっては約20年振りの海外レコーディング。小林武史から離れた後の彼らの作品を大切に聴いてきた僕たちには、何が彼らをロンドンに向かわせるのか、明確に理解することができる。

この日、桜井は、「実は一番好きな曲」であるとして、2000年の佳曲「ロードムービー」を演奏した。19年間この曲を愛し続けてきた僕たちは、なお変化を続けるMr.Childrenの手から届けられるこの曲のエバーグリーンな装いに、「変わっていくけれど変わらないもの」が確かに存在することを理解した。

Mr.Childrenの生き様を追いかけている僕らにとっては、彼らこそがロードムービーであり、今後もこの映画に続編があることの幸せを噛みしめながら、自身とMr.Childrenの「もう1つ次の未来」を待ちたい。

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