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無意味のイメージ

プレイボーイ・カルティの跳躍

プレイボーイ・カルティのキャリアはSir Cartierとして始まった。
2012年頃に発表されたSir Cartierとしての音源は、しかし、今の彼とは似ても似つかない。それは、当時流行のOdd FutureやRvidxr Klvnの模倣的な試作とでも言うべきもので、プレイボーイ・カルティの独自性がはじめて表出したのは、やはり、2015年に発表された“Broke Boi”においてだろう。メランコリックでチルなビートの上で浮遊するかのようにたゆたう彼のライミングは、唯一の個性を放っていた。とはいえ、彼の個性は彼一人で編み出したものではなく、当時彼と親しくしていたUno the ActivistやThouxanban Fauniなどと共に形成していた一つの潮流のようなものであっただろう。もちろん、現在の彼がそこからさらに徹底を推し進めており、もはやUnoやFauniと同列に語ることのできないところにまで到達していることは言うまでもない。

カルティの革新は、その徹底した「言葉の解体」にあると考える。
ラップというものがその始まりから「言葉の解体」的な装置であることは言うまでもない。もともと関連性の薄い言葉を、しかし、韻を踏んで並べることで、言葉がもともともっていた「意味の文脈」から解放し、「音の文脈」の中へ位置づける。このカタルシスは言葉遊びとしてのラップがはじめから持っていた本質的な性質だ。
しかし、このとき「音の文脈」の中へ位置づけなおされた言葉は、その中で必然的に新たに「意味の文脈」を形成する。むしろ、それが巧みに為されれば為されるほど、所謂上手いラップとされてきた。すなわち、ラップの持っていた「言葉の解体」装置としての性質は、あくまで言葉の意味性にとらわれて機能していたと言えるだろう。
カルティは、しかし、この構図から跳躍した。

例えば、彼の直近の楽曲、“Pissy Pamper”のヴァースをみてみよう。

They tryna be cray’ (Mm, yeah)
They tryna be cray’ (Mm, yeah)
She wanna meet Carti (Huh, Carti)
That bitch is a Barbie (Yeah)
I’ma fuck these hoes (Ooh)
I’m on 730
Got a brand new pack like Kid Cudi (Brand new)
I smoke dope like Kid Cudi

見てわかるように、カルティは同一の単語で韻を踏むことが多い。それは彼が巧みなリリシストでないからということではないので、むしろ彼の徹底をここにみるべきだ。カルティは、同一の語を淡泊に反復することで、言葉の意味性を解体する。ここには、意味に依存した上手い言い回しなどはなく、文字にすると損なわれてしまう音楽的なリズムとニュアンスのみがある。

また、カルティのリリックについてもう一つ特筆しておくべきは、用いられる言葉自体のイメージの淡泊さだ。これは、彼と同じくマンブルラッパーとして一世を風靡しているリル・ウージ・ヴァートと比較しても明らかだろう。リル・ウージ・ヴァートが友だちは皆死んだと憂鬱に歌っているとき、カルティは何を歌っているか。ハッキリしたイメージが浮かばないのは、彼がパンチラインを持っていないからではない。むしろ彼は、パンチラインをもてはやすような構図自体を破壊しているのだ。彼のヴァースで印象に残る言葉をあえて挙げると、whatやbeepといったアドリブであるが、これらはそれ自体としては淡泊な言葉である。しかし、カルティのリズムで、ニュアンスで唱えられたとき、それらは全く動的なイメージへと転換する。

あらゆる情報が文脈を無視して濁流してくる現代において、カルティの無意味で執拗な反復は、心地よいリズムを与える。もちろん、リズムとしての純粋さにおいては単なるインストにかなわない。しかし、カルティにインストにはありえない魅力を与えているのは、その無意味な言葉の反復が、言葉としての必然によって、やはりイメージを紡ぐためである。そこにあるのは無意味のイメージとでもいうべきものであり、それはカルティの自在のリズムとニュアンスによって言葉それ自体の本来的なイメージとはかけ離れた、特有の形で表象する。また、そのイメージは決して確かなものとして結実せず、曖昧な輪郭を変形させながら浮かんでは消える動的なイメージである。僕がプレイボーイ・カルティを聴き続けずにはいられないのは、このストイックな不確かさのためである。

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