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余裕と滲みと

DENIMS makuake に思いを寄せて

 
たまに挨拶を交わすくらいのものだ。近所に住むお兄さんと顔を合わせるのは。
なんだかいつも気負わずに軽い足取りで街へ繰り出している。その肩肘張らずに風を切る姿を見る度に、なんとなく自分の背中を押されるような気がしている。

そんなお兄さんが4人集まってやっているようなバンドがDENIMSだ。
そんなDENIMSの2ndアルバム「makuake」がつい先日リリースされた。サブスクリプションで先行配信された「さよなら、おまちかね」を聴きながら毎日リリースされるのを、三軒隣の家まで届くくらい首を長くして楽しみに待っていた。「さよなら、おまちかね」を初めて聴いた日に友人に「やっぱりいいね」と思わず連絡してしまった。この最高な気持ちを一人だけのものにはしておけなかった。友人も「私も聴いていた」と返信をくれ、それだけで世界中がハッピーであふれたような気持ちになった。

アルバムの最初のナンバー「INCREDIBLE」の耳元で弾けるギターの音粒がmakuakeを知らせる。メンバー四人がライブで演奏しているところが既に目に浮かび、ライブで相当化けそうな一曲だ、と一曲目からため息が出る。
2曲目に続くのは「Marching Band!!」だ。
「不敵に笑ってまた歩き出す 照らし出した光に希望を持つ朝 血が沸き立つ歌が今欲しい ホーンズアップしてマーチングバンド」
朝起きて顔を洗い、朝ごはんを食べ、家を出る。家を出て電車に乗るまでの道、電車の中。その普段のすべての光景がいつもより「楽」に思える。DENIMSのリズムに取り込まれ、カマチューさんの軽やかだが軽すぎない声に踊らされる。リズムを刻んで歩いているのは周りにはばれたくないところだ。この曲を聴いていないで、険しい顔をして電車に乗っている人たちに「このバンド最高なんですよ」と教えてあげたい。
3曲目「さよなら、おまちかね」は先行配信で何度も何度も聴いていたが、アルバムを構成する一曲として聴いた時、明日もこのアルバムを聴いて過ごそうと思った。三曲目になってDENIMSに対する安心感がどんどん増していくのを感じる。どんどん好きになってしまう。押し付けない、ある程度の距離感がわたしたちを安心感で包んでくれる。
「夜にとけて」を聴きながらライブハウスで楽しかった時と、少しこもった空気から抜け出て家路に着くまでの時のことを思い耽る。楽しかった後のどこかもの寂しいが、その一方で満たされたような気持ちとリンクする。
「夜に溶けた吐息も 誰にも届かないこんな気持ちも 今だけしか味わえないから 消えてかないよう しまってたいの」
空気に溶ける音が、歌詞がゆっくりと夜を連れてくる。
まるでインストバンドかのようなきめ細やかなリズムの「Swimmy」では
「大体選択肢は安全じゃない方が 面白くなる さよならしたから出会えた新たな危険も 乗りこなして」
と歌われる。
人生は選択の繰り返しと何処かで聞いたことがあるが、その選択を全て肯定してくれているようだ。「面白くなる」というのは、間違ってないよ、きっとうまくいくよ、というような安易な励ましより何倍も励まされる言葉だ。迷いを吹き飛ばす、明日が待ち遠しくなる魔法の言葉だ。
歌詞のある曲たちの中にすんなり溶け込んでいるインストの6曲目はDENIMSの演奏力の高さを改めて感じ、耳が惚れる。そしてアルバムの第2幕が上がろうとしている。
アップテンポでスタートダッシュ勇ましく始まる「SPACY SURF」。そうだ、DENIMSはこういうはちゃめちゃに楽しい感じが真骨頂ではないか、と思い直す。
おかゆさんが作詞作曲を手がけている「W.S.J.H」はアルバム全体を通してとてもいいアクセントになっている。例えるなら、居酒屋でブリの刺身を注文したらわさびだけではなく、もみじおろしも準備されていた時の「もしかしてこのお店、至れり尽くせり?」というような気持ちだ。言葉を受けて光景が目の前に浮かぶような、水のように流れる言葉はまるで細野晴臣を思い出させる。その中にDENIMSらしいギターロックも顔を覗かせる贅沢な一曲だ。
ここまで8曲を流れるように聴いてきて、肩の力がとてもいい感じに抜けてきた。その肩をほぐしきるかのように「Rocinante」が続く。
「世界に唾を吐いて拗ねてみても お前のことなんて見ちゃいないのさ 誰も」
おだやかな曲調の中にある芯の強さはDENIMSの強いところだ。その中には余裕がある。歌詞の中で端々に見える余裕は、決められたところに収まらないストレスフリーのリラックス状態を頭の中に作り出してくれる。それは歌詞が全面に出るのではなく、音に溶け込ませることですんなりと聴き手のよしとするところに全てが引き寄せられるように入っていくことで作り出されているように思う。
ラストを飾る「虹が架かれば」では「貴方だけに歌を送ろう」と賑やかなコーラスが向かいから歩いてくる。そして手を引かれ、また1曲目の「INCREDIBLE」に舞い戻る。「やっぱりこれしっくりくる」。

船で旅をしていたらイルカが並んで泳いでいた。しばらくするとカモメが飛んできて水面近くの魚をつまんでいる。もしかしたら珍しいクジラも見れてしまうかもしれない。このワクワクを胸に、何回でもこのアルバムを聴いてしまうだろう。

底抜けに明るいわけでも、しんみりするでもなく心の隙間にすっぽりと収まりじんわりと染みるとこもあれば、無条件に嬉しくなるところもある最強のバンドだ。前作「DENIMS」でもその全貌は見えていたが、今作makuakeでは前作とはまた別のベクトルの「よさ」が出ている。根底には変わらない「よさ」がある一方で、どこからともなく別の味わいが滲み出ている。それは言葉で表すことはできない上に、もし表現できたとしてもその言葉はあまりに陳腐になってしまう。ここまでなんだかんだと書いてきたが、結局のところ聴けばわかる、というのが本心だ。

梅雨が来る前にリリースされた今作は、じめじめした季節すら楽しませてくれるかもしれない。梅雨の晴れ間は虹を架けるかもしれない。なんとも絶妙な時期のリリースだ。感謝。そうこうしているうちに関東は梅雨入りしたそうだ。濡れた空気を変えてくれる、雨に濡れることすら喜びに変えてくれる一枚だ。

DENIMSの余裕のある背中を、胸があつくなるライブを今年も見ていたいと思えるアルバムだった。

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