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スガ シカオの歌詞が暗くならない理由

「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」と歌う「ひたむきさ」

スガ シカオの歌詞は独特の雰囲気がある。
歌詞だけ読むと屈折した心情を吐露していて、ヌメッとした肌触りがする。

「バースデイ ケーキを つくってきた女の
ストッキングにドロがはねて
虫がわいているみたいになった(たいくつ/ゆううつ)」

「今日 母親がかってきた 赤くて大きなブラインドは
午後の日射しをさえぎって 部屋中を赤くぬりつぶした
誰もそんなこと望んでるわけじゃないのに…
赤い 赤い 流れる血より赤い(日曜日の午後)」

「昨日の深夜に出したハイ・スコア
迷い込んできた誰かのカゲグチのメール
死んでしまった友達の写真
流れてる血をうつさない臆病なRock’n Roll
誰のせいにしよう(カラッポ)」

「体のうすい粘膜を 直接ベタベタと触られるような
あなたのその無神経な指も ゾクゾクして嫌いじゃなかった(サナギ)」

思わずゾワっとするような、ねちっこく暗い情念が感じられる。
しかしこれをスガが歌うと、不思議と陰鬱な感じがしない。
それどころか、朗らかさすら感じてしまう。
文字としての歌詞と、耳に入ってくる歌詞の感触があまりに違う。
なぜそうなるのだろうか。
そこにはスガの人生観と生き方が大きく関わっている気がする。

スガの略歴を確認してみよう。
スガはミュージシャンを目指して楽曲制作を開始するも、思うような曲が書けず、大学卒業後、制作会社に就職する。
数年間会社員として勤めたのち、再度ミュージシャンを目指し退職、貯金を取り崩し、生活費を切り詰めてせっせと楽曲制作に励む。
インディーズでデビューした後、メジャーデビューが決まると、それからは上り調子。
SMAP「夜空ノムコウ」の作詞を機に自身の作品でもヒットを飛ばす。
ところがあるとき、メジャーレーベルとの契約を解除してしまい、インディーズでの活動に移行する。
インディーズでの制作は苦労が絶えなかったと本人も方々に語っていた。

こうしてみると、スガの歩みは順風満帆とはいえず、挫折や艱難辛苦を幾度も味わってきたのがわかる。
スガの作る楽曲は、苦悩や葛藤、挫折を繰り返した人の経験則がにじみ出ているのではないだろうか。
そのことが、わずかな光を求めてあがいている感じになっているのではないかと思う。
何かに落ち込んだり疲弊したりして暗い気分に陥っていても、諦めていない。
絶望していない。
心根がポジティブなのである。
だから暗くじめっとした感じにならない。
常に幸せを求める意思、どん底に落ちても這い上がろうとする健全な精神がそこにある。
屈折した表現が見受けられるが、暗い穴にハマっても懸命に出口を探している。

さらにそんな思いで作られた楽曲は、スガの音楽的ルーツであるファンクが骨格となっている。
ファンクの躍動感あふれるグルーヴが、楽曲に活力を与える。

躍動感はスガの歌にもある。
たとえばアルバムタイトル曲「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」の「光合成」の部分。
コウゴウ「セイ」とスガは歌う。
「セー」でなく「セイ」と発声することによってグルーヴの躍動感が高まると同時に、切実な祈りのようなニュアンスが加わる。
またスガの歌はピッチにほんの少しズレがあり、このズレが聴く側にひたむきな印象を与える。
スガの歌の訴求力の高さと暗さを打ち消す雰囲気の秘鑰は、ピッチがパーフェクトでないところにあるのではないだろうか。

スガの作品には、楽曲制作と歌う態度に誠実さ、ひたむきさが貫かれている。
だからスガの歌詞は字面の印象とは違った聴こえ方をする。
そしてスガのひたむきな歌が耳に入るとき、それは聴き手にとっての鏡となる。

「ずっと探していた 理想の自分って
もうちょっとカッコよかったけれど
ぼくが歩いてきた 日々と道のりを
ほんとは“ジブン”っていうらしい

世界中にあふれているため息と
君とぼくの甘酸っぱい挫折に捧ぐ…
“あと一歩だけ、前に 進もう”(Progress)」

アルバム「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」は、すでにそのタイトルにうしろ向きな気配が感じられるが、ここに収録されているのはまったくそんな楽曲ではなく、むしろひたむきに日常を生きるすべての人のための「主題歌」である。

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