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東京とは

サカナクション NEWアルバム『834.194』リリースに寄せて

 「思い出した ここは東京」 (サカナクション『ユリイカ』より)

 小さい頃から、東京が好きだった。外から見る東京は、とてつもない魅力を放っていて、格好良くて、憧れの街だった。新幹線でここに来るたび、車窓から眺めるビル群に、東京タワーに、東京暮らしへの夢を膨らませていた。

 東京の大学に入学し、三年目に入っている。あの頃感じていた「東京らしさ」は、どこへいったのだろう。ここが生活の地になった今、普段は東京で生活している実感がほぼない。ふと開いたスマホのマップをピンチインして、現在地が故郷から遠く離れていることを認識しては、ここが東京なのだと思い出す。
 確かに、今でも東京が好きだ。しかしそれは、欲しいものがすぐ手に入るとか、行きたいライブにすぐ行けるとか、そういう意味で好きなだけなのだと思う。以前は「東京」という街そのものが好きだったのだ。

 東京とは、何だろう…。

 中学三年の頃、ちょうど将来の東京暮らしに夢を膨らませ始めた時期、サカナクションに出会った。マジョリティの中心を行くような音楽のみを浴びるように聴いていた自分が、ちゃんと見てもいないTVから流れてきた『僕と花』のイントロに引き寄せられるようにして、自分の意志で聴き始めた最初のミュージシャンだった。
 根拠はないが、この時このバンドの音楽に「東京らしさ」を感じたのだ。当時の最新アルバム『DocumentaLy』は、今でも最も思い入れの深いアルバムだ。この一枚は、2011年という時代に「今」を歌うというコンセプトの下で作られていて、リード曲『エンドレス』を中心に、アルバムの産地である東京の空気がそのまま閉じ込められているようだった。『モノクロトウキョー』や『仮面の街』では東京のネガティヴな面も歌われているのだが、それでも、いやそれをも含め、このアルバムの空気感を直に感じられる大都会への憧れを強めた。
 今思えば、この「東京らしさ」とは、Vo.&Gt.山口一郎さんが最近よく口にする「作為性」だったのだと思う。マジョリティの感覚に寄せていった結果生まれた楽曲に、流行の発信地である東京を感じたのだろうか。

 六枚目のアルバム『sakanaction』のリリース後、内向的なシングルが二作続く。その中で、違った形で東京を感じさせられた印象的な一曲がある。『ユリイカ』だ。この曲では明らかに故郷に意識が向いていて、故郷と照らし合わせて見えてくる東京という街が描かれている気がする。山口さんはこの曲について「郷愁感」ということを話しているが、ここで「東京と故郷」という対立する二項が並べ立てられる。そしてこの曲は、紅白出場まで果たし、有名になっていくバンドの立ち位置と、地元札幌時代にやりたかったこととの乖離を感じ、上京後から『sakanaction』までの作為的な曲とは対照的に「無作為性」、作りたいものを作っていくという姿勢から生まれた一曲だという。
 サカナクションのこの「作為性と無作為性」という二項対立に、今の心境を勝手に重ね合わせている自分がいる。作為的に大きくなっていくことに違和感を持ったサカナクションと、あの頃の憧れの東京を保ち続けるため、あえて東京を好きであり続けようとすることに違和感を持ち始めた自分。

 これからサカナクションは、無作為性をどう作為的に作っていくか、というスタンスをとっていくという。自分も同じだ。これからも東京に魅力を感じながら生きていきたいが、もうすでにこの街は無邪気な憧れの対象ではなくなってしまった。その中で、いかにして生きたいように生きていくのか。初心を忘れず、というありふれた言葉が合っているのかわからないが、あの頃の東京観、故郷での生活と照らし合わせることで、この街が、今が鮮やかに見えてくる。

 もう間もなく手に入る七枚目のアルバム『834.194』。テーマは「東京と札幌」。作為性を身につけた東京時代と、無作為に曲を作っていた札幌時代を、二枚のディスクに分けて表現しているという。東京と故郷との物理的、時間的距離をコンセプチュアルにまとめた渾身の作品となっているに違いない。自分に先立って上京し、この大都会と故郷とを描き出してきたこのバンドに、強い思い入れがある。東京で手にする初めてのオリジナルアルバムであることも相まって、今回のアルバムへの思い入れは一層強い。故郷との対比の中で、いかにして東京で生きていくのか、このアルバムがヒントを与えてくれる、というのは言い過ぎだろうか。

 東京とは、ローカルの集合体である。

 山口一郎さんの言葉だ。今や自分もその一員である。「東京」なんて、地方の人々の憧れ、夢が創り出した虚構に過ぎないのかもしれない。それでも自分は、ここでいくらでも好きなように生きていける。今、確かに東京にいる自分を強く意識しながら、これからもこの大都会で生きていく。もちろん、サカナクションの音楽とともに。

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