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これは化けの皮を被ったヒップ・ホップだ

宮本浩次の「解き放て、我らが新時代」を聴いて

 宮本浩次の2作目となるソロ曲「解き放て、我らが新時代」。一聴したときに感じたのは、エレファントカシマシの2000年代初頭の頃の作品。この時期の彼らといえば、宮本のソロ・ワーク的な作品が続いていたが、そんな『good morning』(2000)で特徴的な打ち込みのドラムや、『DEAD OR ALIVE』(2002)を形作る、冷たくて硬質なストラト・キャスター的なギター・サウンドがこの新作でも感じられた。そしてなにより、デモ音源のような整理されきっていない雑な感じ。とにかく、ボーカルのボリュームが大きくて、ギターのサウンドに負けまいとこれでもかというくらいに主張してくる。そのせいか、近年のプロデューサーを入れ、きっちりとミックスを施す以前の頃の作品である、『生活』(1990)のような時期の混沌としたような雰囲気まで感じるのだった。

 シンプルなギターと打ち込みのトラックに散文的なリリックが乗せられるというのは、「ガストロンジャー」を彷彿させる。ただ、この楽曲は純粋なヒップ・ホップの文脈というよりは、そこからロックへと派生した、1990年代のインダストリアル・ロック、あるいはラップ・ロックの影響が色濃く出ていた。トラック全体を貫いているのは、Rage Against the Machineの「Guerrilla Radio」のような荒っぽいサウンドであり、さらにリフの部分では、The Stone Rosesの「Driving South」の印象的なリフがオマージュがされている。そうかと思うと、楽曲のフックとなる部分ではThe Doobie Brothersの「Long Train Runnin’」を彷彿させるフレーズも見られ時代やジャンルを幅広くクロスオーバーさせている。その意味で、「ガストロンジャー」はエレファントカシマシの中でもかなりサンプリング的な要素が強い作品であるといえるだろう。

 一方「解き放て、我らが新時代」の方は、同じサンプリングでも、「ガストロンジャー」のように、1990年代のインダストリアルなサウンドの引用というよりもむしろ、かつての自身の作品のリリックのサンプリングという部分が特筆すべき点であるだろう。今までも同じ単語や、文節が歌詞に入れられることはたびたびあったが、ここまで長い”引用”はなかったように思える。

〈Yo! Yo! 陽気なる逃亡者たるキミへ
そろそろ本気になろうぜ Dive!
大胆にもっと Jump! 傷ついて
何度でも立ち上がれ Let’s dance〉

また、そのサンプリング元の曲を見てみると、

〈陽気なる逃亡者たる君へ言う
疲れた時には孤独になれ〉
(「クレッシェンド・デミネンド-陽気なる逃亡者たる君へ-」)

〈でも見てみなよ 見てみなよ
太陽は昇りくる
何度でも立ち上がれよ
更に大きなぶざまを掲げて行け
何度でも立ち上がれ〉
(「何度でも立ち上がれ」)

といずれのサンプリングも、『DEAD OR ALIVE』に収録されている作品であることも興味深い。というのも、この頃は先ほども書いたように、バンドとして活動はしていながら、ソロ活動へと埋没していた時期である点で重なる。ただ現在は、その当時とは世間からの評価も大きく変わり、何よりもソロ活動という大々的な解放までも果たしたという点において、全く異なっている。〈しばられるな! 解き放て、理想像〉というリリックにもあるように、宮本はこの期に及んで、かつての楽曲のサンプリングすることで、”当時の理想の達成”を宣言しているのかもしれない。

 2000年代初頭のエレファントカシマシの楽曲を彷彿させるギターと打ち込みのループに、かつての楽曲のサンプリング。そして、歌われる言葉はどこまでもシンプルで、メッセージ以上に音の響きが重視されているように思える。宮本は、ビートに本能を委ねるかのようにして音に乗る。当然ながら、そこからはカウンター的な思想や、ヒップ・ホップの文脈の要素は感じられない。では、これは“化けの皮を被ったヒップ・ホップ”なのだろうか。いや、そんなことはもはやどうだっていい。たとえそれが、借り物でもなんだっていいのだ。宮本浩次という人間が歩んできた道というのは決して揺ぐことはないからだ。「解き放て、我らが新時代」は、彼のこれまでの生涯、そして20年前追い求めていた”理想”の伏線的な回収が宣言されている。それに気がついた瞬間から、この曲はヒップ・ホップとはまた別の、強いメッセージ性を帯び始めるのであった。

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