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2017年6月14日

ケンタ (20歳)

その目に魅せられて

リアムギャラガーというロックスターと、マンチェスターの街

 oasis。21世紀を代表するイギリスのマンチェスターが生んだモンスターバンド。フロントマンのリアム・ギャラガーとリードギターのノエル・ギャラガーの2人が兄弟ということはあまりにも有名であるが、2人の仲の悪さや度重なる暴言、多方面へのお騒がせな行動でもあまりにも有名だ。2人のやんちゃ兄弟が結成したバンドは、2人が当初想定していた規模を遥かに超えるほど大きくなり、それが原因で2人の間に軋轢が生まれ、やがて燃え尽きた。2009年、日本ではFUJI ROCKの公演を最後に兄ノエルが脱退を表明した時、イギリスのカルチャーの一つが歩みを止めた。

 僕が初めてoasisの曲を聴いたのは高校生の頃だった。某レンタルcdショップで4,5枚適当にロックのアルバムを選んでは家に帰って聴くという事を当時楽しみにしていた。お金も限られているので厳選に厳選を重ね、毎度iphoneのメモを見ながら店内をウロウロしながら借りていた。ある日借りたのがオアシスのベストアルバム2枚組だった。家に帰り、パソコンに取り込んで聴いた曲は「supersonic」。シンプルな8ビートのイントロが印象的なオアシスの代表曲だ。しかし、初めて聴いた時は正直何だか退屈に感じた。ビートも単調だし、ボーカルも気怠くて何だか覇気が感じられなかった。この借りたベスト盤はそのままitunesのライブラリの底に眠ったままだった。

 それから数日後、古本屋へ行くとCDコーナーでオアシスのライブ映像が流れていた。僕は立ち止まって画面に映る壮大な光景を目の当たりして、絶句した。何の変哲も無いスポーツジャージを着てセンターマイクの前で群衆を睨みつける弟リアム。その目に映るのは沸き立つ数万人の大観衆。美しいチェリーフィッシュのgibson es-355を抱え、どっしりと構える兄ノエル。cd音源よりすこし速めのbpmの8ビートをドラムのクリスが叩くと、スタジアムの底が抜けてしまうのではないかと思えるほどのジャンプが巻き起こる。曲は「supersonic」。ほどなくしてノエルが爪弾くおなじみのイントロが鳴ると、割れんばかりの大歓声が起こった。僕は思わず立ち尽くしてその映像に見入ってしまった。度肝を抜かれたのだ。cdをパソコンで聴いた時には感じなかった初期衝撃が、映像を通して初めて伝わった。単調に感じていた8ビートも、重ねるごとにグルーブが増していき、ベースのシンプルなルートとノエルが弾くギターソロとの絶妙な絡まりがダイナミズムを持つバンドサウンドになっていき、見ていて次第に身体が熱くなっていった。特に目を引いたのは弟のリアムの姿だった。マンチェスターの労働者階級と同じ格好をし、後ろに手を組んで気怠そうに歌う姿が印象的だった。サングラスをしていて正面からでは見えないが、カメラが横からリアムの顔を映すと、サングラスの隙間から目が見えた。何かに憤りを感じている様な、思慮深い鋭い目つきだった。何かを訴えているようにも見えた。僕はその目つきに心を奪われた。

 その日を境に、僕はoasisに夢中になった。もとい、リアム・ギャラガーに夢中になった。とりあえずベストアルバムを借りておけばという当時の僕の浅はかな固定概念をぶっ壊してくれたのが1st album「definitely maybe」だった。これが本当にバンドを始めて一枚目のデビューアルバムなのかと耳を疑うほどの大傑作だ。特に一曲目の「Rock ‘n’ Roll Star 」は僕のこの先の人生においても特別となるであろう一曲になった。僕は高校時代あらゆる場面でこの曲を聴いた。これを歌うリアムの映像も繰り返し繰り返し観た。「今夜、俺はロックンロールスターさ」と高らかに歌うリアムの姿は、いつ見ても僕の背中を押してくれた。リアムみたいになりたくて、モッズコートを買った。リアムが影響を受けた音楽を調べて、色々聴いた。おかげでイギリスの音楽が好きになった。イギリスの音楽が好きになり、イギリスの映画も沢山見るようになった。そして、イギリスの文化に興味を持ち始め、次第に僕はイギリスという国が好きになった。全部リアムのおかげだった。

 そんな大好きなイギリスで、悲劇が起きた。

 2017年5月22日、世界を震撼させるできごとがマンチェスターで起こった。アリアナ・グランデのコンサート会場のすぐそばで自爆テロが起こり、たくさんの犠牲者や負傷者が出たのだ。祝祭会場だったコンサート会場は、一瞬にして悪夢に染まった。そこから数日、マンチェスターの街は不穏な空気で満ちていたと思う。一体何を信じたらいいのか、何にすがればいいのか、市民は絶望の淵に立たされていただろう。
 
 2017年6月5日、被害者を追悼するためのチャリティーコンサートがアリアナ・グランデの声掛けにより、マンチェスターで行われた。アリアナも自身のコンサートでの悲劇であったということもあり、相当な思い入れと精神力が問われたと思う。その様子がtwitterに上がっていた。思わず目を疑った。
  
 リアム・ギャラガー、サプライズゲストで登場。
 
 いてもたってもいられずそのままリンクをタップして、youtubeに飛び、その一部始終を観た。便利な世の中だとつくづく思う。思わぬゲストの登場で沸きまくるマンチェスターの大歓声に包まれて、オレンジのコートを着たリアムが、ステージに立っていた。同じ目をしていた。僕が心を奪われた、あの物憂さげな、思慮深く鋭い目つきで観客を睨んでいた。
歓声は鳴り止まなかった。鳴り止まないまま一曲目のイントロが鳴った。
「Rock ‘n’ Roll Star 」だ。
熱狂するコンサート会場の様子を見て、僕は確信した。リアムは本物のロックスターだと。マンチェスターが生んだ、世界に誇るロックスターだと。
Rock ‘n’ Roll Starの歌詞に、こんな一文がある

You’re not down with who I am
きみは俺みたいな人とは落ちていかないだろうけれど、

Look at you now, you’re all in my hands tonight
見てみな 今夜みんな俺の手の中にあるんだぜ

Tonight I’m a Rock ‘n’ Roll star
今夜、俺はロックンロールスターさ

 いつまでも悲しんでいては前に進まない。マンチェスターよ、俺を見ろ。悲しみも憎しみも今夜は全部俺が背負ってやる。俺はロックンロールスターさ。まるでそう言っているようだった。僕が心奪われたリアムの目には、鋭さの中に愛するマンチェスターの街を思いやる気持ちと優しさが溢れていた。

 今年の夏、リアム・ギャラガーが日本に来日する。どんな目つきで日本の観客を睨みつけるか、今から楽しみでしょうがない。震えて待つ。

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