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天体観測観測

BUMP OF CHICKENの「天体観測」の観測を

BUMP OF CHICKENのあたらしいアルバムが2019年の7月10日にリリースされる。
タイトルは『aurora arc』とのこと。“aurora”はオーロラで“arc”は弧や弓形を指す名詞、つまり弧状のオーロラのことらしい。
オーロラ、また宇宙だ。いや、オーロラって宇宙? 宇宙じゃないかもしれない。そもそもどこからが宇宙? でもとりあえず、BUMP OF CHICKENはまた(まだ)空や宇宙を見上げているということはわかる。

BUMP OF CHICKENはずっと宇宙を見てきた。いまさらことさら指摘するまでもないとは思うのだけど、このバンドはけっこう宇宙をみてきた。

Aurora、月虹、望遠、シリウス、Spicaとそのトラックリストからも宇宙があふれる新譜の発売を心待ちにしつつ、この文章では彼らの飛躍の一助となった曲であり、このバンドのテーマのひとつである天体の観測のそのはじまりのような曲である「天体観測」の観測を試みてみたいと思う。その観測によって何かが発見できるといいなと願いつつ。
 

「天体観測」はいまから18年まえの2001年3月14日にリリースされたメジャー2枚目のシングルになる。
当時のことを思い出せるだけ思い出してみると、前年にこのバンドのことを知り『THE LIVING DEAD』や「ダイヤモンド」をそれこそ毎日のように聴いていた僕は、日に日にこのバンドのことを好きになっていたころだった。ついでに云うと、最初の大学受験がうまくいかずふわふわしていたころだった。
期待のニューカマーによる半年ぶりの2枚目のシングル。タイトルが「天体観測」だと知ったときは、爽やかだし探求している感がかっこいいし四字熟語が曲名として存在感があるな。と思った。

そのジャケットは想像と予想に反してほぼまっしろ。一部だけが灰色でビルや電線を覆う町の夜空が表現されているように見える。
裏面はメンバー4人がサッカーボールで遊んでいる光景。なにかの映像でも観たことがあるけどほんとうにこの4人はこうやって遊んできたし、遊んでいるんだろうなという感じがする。

プラスチックのケースをひらくとジャケットとおなじ構図に思える町。こちらは昼間なのか、彩色されていてどこか懐かしさを誘う町の一角、床屋の回転ポールがカラフルできれい。

歌詞カードは一転して黒地に白抜きの文字。歌詞は手書きに見えるけどこれは藤原基央によるものなのだろうかどうだろうか。いまさら指摘するまでもないのだけれど、眺めているとやはり歌詞の文字数がとても多いなと思う。歌詞に物語性を付与するとおなじ歌詞を繰り返すことができないということがシンプルにわかる。
背景はちょっとSFっぽい街と月で、こちらは天体観測をそのまま彷彿とさせるデザイン。
ひさしぶりに「天体観測」の歌詞カードを眺めて、むかしのBUMP OF CHICKENってこうだったよな、そんなにスタイリッシュじゃなかったんだよなと、ちょっと懐かしくなる。

あとそうそう、変な絵が描かれたあまり意味のなさそうなカードもおまけでついてきていた。このバンドにはこういう変な遊びをするところがある。遊び心というよりはほんとうにただの遊びのようで、それをあえて言葉にしようとしてみると、現在の彼らにもつづく少年性のようなものが、当時はより色濃く感じられていたような気がする。

そしてケースを開いて歌詞カードの反対側、CDの印刷層には南関東一円を上空からとらえた、おそらく夜景の遠景。なので、無駄な妄想を働かせると、ディスク側からは天体観測をしていることになる。

音楽の話をするまえにパッケージ周りをあらためて眺めてみてふと、CDというフォーマットにはディスクを再生する以前にもいろいろな情報があったなと思う。

こういう話をするつもりはなかったのだけど、つい先日このバンドが過去の音源のストリーミング配信をスタートさせたことをふと思い出した。ストリーミング配信はネットを介してそのまま音楽のデータを手軽にダイレクトに各々の端末で再生することができるので、CD等の物理的な記録媒体が不要になる。つまり具体的な”物”を介さずに音楽を受けとることができる。
今後、音楽の聴き方としてより主流になる気がするストリーミング配信の利便性をここで否定したいというわけでは決してないのだけれど、こういったパッケージのおもしろさというのはCDをはじめとしたアイテムならではだったなと、今回じっくり確認してみてあらためて思う。
音源だけじゃなく手に取りさわることのできるジャケットや歌詞カードや印刷層の情報を眺めることができるというたのしさがそこには確かにあった。もちろん、ストリーミング配信をはじめとした新しい音楽の届け方にてそういったものの価値を超えることがきっとこれからもさらにできるようになるのだろうけれど。
 

さて肝心の音楽の話。「天体観測」は4分24秒のギターロックで、ドラム、ベース、ギター、ボーカル以外の音は使われていない。ただ、シンプルとはちょっと云い難いほどにアレンジが凝っているなという印象を受ける。

ドラムの升秀夫によるリズムパターンはエイトビート(ドチタチドドタチというやつです)と4つ打ち(ドチドチドチドチというやつです)を使い分けていいとこどりをしているのだけど、直井由文のベースがこれまた凝っているというか情報量が多いというか、いろいろと動いてスピード感をうまくコントロールしていて、テンポのわりにそこまで速さも単調さも感じさせない。
このリズム隊の仕掛けによって特殊なギミック抜きに4人の演奏だけでも3回あるサビがどれもすこしちがって聴こえるようにデザインされていておもしろいし、たぶんこういう工夫は物語が進むタイプの歌には不可欠なんじゃないかなと思う。話が進んでいるから、まったく同じ演奏はできないのだ。

そして増川弘明と藤原基央による、曲を牽引するギターについて。この曲はほんとうにギターがかっこいいし効果的。まずイントロが最高というか、非常に多く重ねられたエレキギターがドラマチックだし「天体観測」の名にあるように流れ星のようなきらめきをそこに感じてしまう。
曲中にてパートやコード進行を問わず、随所に繰り返されるこの曲の象徴ともいえるギターリフ(たららららーたらららーたららーというやつです)を筆頭に、このバンドはほんというにテクニックというよりはアイデアで曲を見事に彩るなとリスナーながら感心してしまうし、このギターが巧妙に絡むアレンジこそがBUMP OF CHICKENの音楽の肝だなと思う。

そこに藤原基央の歌。あらためて、このひとの歌声はなんて形容すればいいんだろうか。訴求力がものすごくある、みたいな間抜けなことしか云えない。
それでも何かを云おうとすると、この曲においてはAメロのメロディの低いところが特にいいなと思う。声を張り上げられない箇所での表現力になにか温かさや近さみたいなものを感じてしまうし、だからこそサビでの高さが生きてくる。この抑揚も歌詞に物語性を付与しているからこそ、なんて評するのはこじつけになってしまうだろうか。

これらの演奏の特徴(リズム隊の工夫、ギターでの彩り方、ボーカルの表現力)は「天体観測」に限らずBUMP OF CHICKENの音楽に通底するものだと思う。もちろんこの曲のリリースから18年が経っていて、いまのバンドのサウンドとは変わっているところもあるのだけれど、でもこの曲はいまでもライブのいいところにて4人の出す音だけで変わらずに演奏されていて、それを観ているとついうれしくなる。
ほとんど最初から、それこそスタジアムで鳴ってもドームで鳴っても遜色のない開けたスケール感が、このバンドの曲には備わっていた。

最後に歌詞。間奏もギターソロも設けずにイントロとアウトロ以外は終始歌いっぱなしという大胆な構成を持つこの曲のいささか長い歌詞。ひさしぶりにじっくり読んでみて、十代のころに僕が抱いていたぼんやりとした印象をけっこうクリアにすることができた。
これらは私見に過ぎないのだけど、あらためていくつか思ったのは、過去形をほどいていくとこの曲の“僕”の視点の時制はひとつであること、つまり2つの“イマ”があるということ。“天体観測”がメタファーとしても機能しているのだということ。そして、もちろんこの曲のテーマが“天体観測”をすることにあるのではないということ。
ふだんはついつい聴きながしてしまっていけない歌詞だけど、ちゃんと読みながら聴いて気づくことが恥ずかしながらあった(なんか、なに当たり前のことを云ってるんだみたいな感じですけど、なかなか歌詞にしっかりと向き合うってできないじゃないですか)。なのでこの曲の歌詞のその質感は思いのほかほろ苦く、青い過去の痛みの歌でもあるんだなと、その認識をよりつよくすることができた。
というわけでこの文章(観測)での発見は、とてもとても平凡だけれど、「天体観測」は(やっぱり)天体観測の歌じゃなかった。ということにしたい。
 

この曲がリリースされて、夜中のチャート番組で順位が落ちず逆にじわじわと上がっていくさまをみて僕はよろこんでいたのだけれど、「天体観測」をひとつのきっかけにバンドは当時からは考えられなかったところまで飛躍していくことになったし、この曲はこの国のロックの景色もすこし変えてしまったんじゃないかなとひそかに思っている。
バンドにとってこの曲がどういう曲なのかを十全に知ることはできないのだけど、僕にとってはずっと聴きつづけてきた大切なバンドの大切な曲になった。
さっき天体観測なのに天体観測をしているわけではないみたいなことを書いてしまったけれど、3年ぶりのアルバム『aurora arc』にて今度はどんな天体観測をみせてくれるのかはすごくたのしみにしている。
あるいは、天体観測にかこつけてなにを描いてくれるのかを。

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