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あなたは月のようで。

柴田淳というアーティストへの手紙、のような。

あなたの声を初めて聴いたのは、もう17年も前のことでした。
あれは某番組の「CDシングル今週の50位~100位」みたいなコーナーで流れた「月光浴」。確か70位くらいだったから聴いたのは2秒かそこらで。
だけど確実に、その声に魂を摑まれて。逃げることが出来なくなってしまったのです。
まるで夜を照らす月の光のような。美しいだけじゃない、強く眩しい光。
 
 

全部初めてでした。
ちょっと聴いただけの曲のCDが欲しくて、翌日すぐに電車を乗り継いでタワーレコードへ行ったのも。
曲をかけてほしくて、FMラジオにリクエストのメールを送ったのも。
その声を直接聞きたくて、ライブへ行ってみたのも。
あなたは言わば、私の音楽の原体験みたいな存在だったのです。

声ってこんなに凄いものだったのかって。
人間の持つ力の大きさに驚かされたのです。

そんなあなたから一時期離れていたのは何故だったんだろう。って、今になって思います。
あなたの作る音楽が嫌いになったわけじゃない。もしかすると、高校生から大学生になって日常が変わっていったあの時期、単純に私のほうが変わってしまっただけなのかもしれません。
たまに思い出したようにライブ情報をチェックして、やってなかったり完売していたり。そんな日々の中に埋もれてしまったようで。

そんなふうにして、離れてしまってから15年以上。
あなたに再会したのは、またしても偶然でした。
別のバンドのアルバムを探して行ったタワーレコードで、たまたま試聴機の中にあった「ブライニクル」。
懐かしさのあまりに聴き始めて、気付いたら聴き終わっていました。
その声に魂を摑まれて、逃げることができなかった。そういえば、そんな経験は17年ぶりでした。
思わず買って帰ってしまいました。
当初買う予定だったCDのことは完全に忘れていました。

そんなあなたの全国ツアー。あなたは6年ぶりだなんて言っていたけれど、こっちだって15年ぶり。
あなたの曲を聴いたこと自体、15年ぶりだったから。今の自分がそれを受け止められるのか心配だったけれど。だけどそんな心配はいらなかった。あなたが作り上げる一曲一曲が、あなたが歌う一言一言が、時間なんて簡単に埋めてしまった。
あなたから離れていたようで、結局、全然忘れられてなかった。

あなたの曲の魅力は、『まるで自分のためだけに歌ってくれている』ように感じさせてくれること。
時には暗くなりがちな心情に寄り添ってくれる、そんな歌詞もそう。
シンプルだからこそ、すっと心に染み入ってくる作品の世界観もそう。
強烈に感情を込めた歌い方もそう。
だけど、それ以上に、ブレスみたいな雑音も含めてすべて隠さずに歌ってくれるから、まるで耳元で歌ってくれているように錯覚してしまう。あなたに近くでずっと歌い続けててほしいって。そう思うのです。

  この世でただひとりのような
  こんな毎日の裏側で生きてる
  僕がまた眠れるまで うたってほしい
   (――柴田淳「今夜、君の声が聞きたい」)

あなたにこそ、それをやってほしい。
距離なんて最初からなかったんですよね。初めてあなたの声を聴いた時からずっと、私の中心で歌っているのはあなたでした。15年、口に出してみるととても長いけれど。
 
 

本当は、ツアー初日の中野だけのはずでしたが。
思い立って、ファイナルのNHKホールにも行ってみたんです。
初日を観て、そのクオリティに圧倒されたから。という理由もありましたが、本当の理由は、初日のあなたが全くの空っぽに見えたから。
この6年間ですべてを失った。理由はわかりませんが、あの時、あなたは確かにそう言いました。きっと嘘ではないのでしょう。だって、あの時のあなたには本当に音楽しか無かった。ここで全てを歌いつくして、そのまま消えてしまうのではないかと思っていた。
あの瞬間、あなたの音楽は悲しみに彩られていた。確かにそれは美しいけれど、でもあなたという存在がどこにも見えなかった。だから本当に心配だったのです。

でもファイナルを見て安心しました。
たった5本のライブで、あなたは失ったものすべてを取り返したように見えた。
人の前で歌うことの素晴らしさとか、待っている人がこんなにも大勢いることの美しさとか。
そういったすべてを手にしたあなたの歌声は、やはり世界を塗り替えるに十分な力を持っていました。
昔あなたの声を聴いて抱いたそのままの感想を、17年越しにまた感じたのです。
あなたの歌声って月みたいだ。
昼間は見えないし、雨の日は隠れてしまう。
それでも、肝心な時に世界を明るく照らしてくれる。そんな美しい光。
多分、これからもずっと。

  淋しさも不安さえも何もかも
  疲れたなら いつでもここにおいで
  目を開いても 笑顔でいられるまで
  ここで私は待ってる
   (――柴田淳「嘆きの丘」)

ずいぶん長いことかけて、ようやくあなたはそんな歌詞を書いてくれた。
わたしたちはこれまで、ずっと待たされる側だったのだけど。
あなたがそう言ってくれるなら、わたしたちとともに歩みましょう。
その光を信じて歩くから、一緒に。これからもずっと。

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