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ナードマグネットに賭けてみたいみたいなところがある

ロックバンドはどん詰まりなんかじゃないと思いたい

舞城王太郎の小説に『ビッチマグネット』という名前の物語があって、この題はどういう意味かというと主人公の弟がそういう女性を引き寄せてしまうので、友達からおまえはビッチを吸い寄せる磁石つまりビッチマグネットである、と命名されたところからきている。

ナードマグネットというバンド名を目にしたとき、まっさきに前述の小説のことを思い出した。ああ、ナード(nerd:内向的なおたく)を引き寄せる磁石なのか、と思って、そのバンドの名前だけで聴いてみたくなる。
試聴もせずにそのころ発売されたばかりだった一枚目のアルバムである『CRAZY,STUPID,LOVE』を買って聴いてみてちょっと笑う。ほんとうにナードのマグネットだったからだ。

再生して一曲目、「ぼくたちの失敗」の大サビでは以下のフレーズが合唱し連呼される。

  こんなはずじゃなかった
  こんなはずじゃなかった
  こんなはずじゃなかった
  こんなはずじゃなかったのにな

この時点ですでに最高だなというか、一曲目でもうこれなのがすごくいい。
ほんと“こんなはずじゃなかった”だよ、これは大声で合唱したくなる、なるほどナードマグネットだよな。みたいに思ってしまい、笑ったついでになぜだかうれしくなってしまったことをよく覚えている。

歌詞がすごくよくて、同時に一行一行耳が痛い。

  これもう何万回も思い描いたシーン
  のどが渇いて死にそうです
  「ぼくたちの失敗」

  思い出すたびに消え失せたい
  I’m in love I’m in love
  I’m in CRAZY, STUPID, LOVE
  「C.S.L」

  27で死ぬはずのガキはここにいて
  根拠のない自信だけいまだに持ってる
  「BOTTLE ROCKET」

のどが渇いて死にそうになるし思い出すたびに消え失せたいし27で死ぬはずなんて引っ張ってきちゃったら好きにならないわけないだろ! とつい虚空に向けて叫びだしたくなる。
リスナーの心情を云い当てることが歌詞の仕事ではもちろんないのだけれど、ここまでピンポイントにつついてくるのはなぜなんだろう。

歌詞の引用ついでにもう一曲、大好きな曲でありかつ歌詞でダメージをもらってしまったのが五曲目、「アフタースクール」のこの一節。

  誰のせいでもない
  僕のせいなんだけど
  悲しかったのは
  左手の指輪

突然ですがあなたは“君”の左手の指輪をみて悲しんだことがあるだろうか。
僕はあります(僕のせいなんですけどね……)。

……まあこれは個人的な事情であり感想なのだけれど、ほかにも膝を打つしかない言葉がつづいて、聴いていて痛いところをつかれまくってしまい、つい苦笑いを浮かべてしまう。ナードのマグネットはもちろんナードのことをよくわかっているので、痛いところをつかれるのは仕方がないことなのかもしれない。

このバンドの音楽をはじめて聴いてみてまず連想してしまったのはWeezerで、歌詞の青く甘酸っぱい感じはGOING UNDER GROUNDも想起させて、つまりこのバンドを好きにならない訳はなかった。ちなみにゴーイングにもウィーザー感は含まれているからこの流れは滑らかだし、ナードマグネットに出会ってから一年後にこのバンドがゴーイングの名曲「グラフティー」をカバーしたときはほらやっぱり! と興奮することになるのだった。

もちろん歌詞だけじゃなくてサウンドも最高だった。深く歪んだギターをザクザクと刻んでいくのだけど、決してマッチョにならないそのさまはやっぱりWeezerを思わせるし、意識してそういったアメリカのパワーポップだったりオルタナティヴロックに近づこうとしているように思えた。
もちろんメンバーたちが志向するところはわからないのだけど、「Mixtape」のMVにてロックの名盤をつぎつぎにパロディしているさまをみると、この推測はあながちまちがってはなさそうだ。

ちょっとへなちょこに情けない想いを、重すぎないパンク寄りの演奏にのせて、あくまでもポップでエバーグリーンなメロディを歌い上げる。そこには風貌や歌詞とは裏腹にロックバンドとしてのストレートなかっこよさがつまっていた。ドラムとベースとギターとボーカルだけで表現しようとするストレートなロックバンドのかっこよさが。
 

話は変わって最近、もうロックバンドの時代じゃないとか、エレキギターは時代遅れだとか、そういった言説を耳にしたり目にしたりすることがいささか多い。べつに全世界ポピュラー音楽協会みたいなものが(ありませんよ、そんなもの)公式見解を表明したりしたわけではないのだけれど、たしかにそういう向きは、すこし感じる。
特に海外のロックフェスのラインナップやヒットチャートを見やると、シンプルな編成でエレキギターをギャーンと鳴らすストレートなロックをやります、みたいなバンドだったりアーティストだったりは少なくなってしまったように思う。
もちろんロックミュージックは様々なジャンルの音楽性を貪欲に取り込んでいくフォルムなので、いろいろな音楽的要素を取り込んで転がりつづけている訳なのだけど、たとえばR&BやEDMやHIP-HOPなどなど移り変わりの激しいトレンドに追いやられ、いわば旧態依然としたシンプルなロックバンド感というのはその訴求力を失いつつあるように思う。あるいは00年代までの遺物として語られてしまいつつあるように思う。

で、これを前置きに何が云いたいのかというと、ナードマグネットみたいに90年代のバンドとかを進んで下敷きにしようとするバンドが出てきたりすると、そしてエレキギターをこうやってラウドに鳴らしてくれたりすると、音楽はこうやって繋がっていくし続いていくし、エレキギターはまだまだギャーンと鳴るべきだしまだロックバンドはどん詰まりなんかじゃないよね。と、なんだかうれしくなってしまうし、信じたくなってしまう。

そんな想いは大げさかもしれないし、勘違いかもしれないし、そこに懐古主義ではない新しさがあるのかと問われると即答できずちょっと時間をくれみたいになってしまうのだけれど、でもロックバンドが示せるかっこよさはまだまだあるって言い張りたくなる。ナードマグネットを聴いているとそう思える。
 

今年の6月にバンドは二枚目のアルバム『透明になったあなたへ』をリリースする。おなじく試聴もせずに買って聴いてこれまた笑う。歌詞には謎の耐性ができている(かかってこい)のだけれど、ではどこが笑いどろだったのかというとそれはサウンドで、1stより参照というか引用というか、海外のバンドの音にこれでもかと寄せてしまっていて笑ってしまった。
たとえば「COMET」のアレンジはまんまJimmy Eat Worldの「Sweetness」だし、これはカバー曲だけど「I’m Not Gonna Teach Your Boyfriend How To Dance With You」のイントロはもちろんNirvanaの「Smells Like Teen Spirit」に思いっきり寄せているし、この調子だと僕が気づけていないだけで他にもいろいろあるんじゃないかなと思う。オルタナ通り越してなんだかグラムロックみたいな曲もあるので、この二枚目はよりサウンドの面でロックのかっこよさを掘り起こしあらためて伝えようとしているような意志を勝手に感じる。
だから、こういうギターがうるさいロックを、偉大な先輩たちへの敬意たっぷりに2019年にこうやって鳴らしてくれることが個人的にすごくうれしい。
さっきこのスタイルに新しさはないかもしれないみたいなことを書いてしまったが、これはすごく陳腐になってしまうのだけれど温故知新で新しいだろみたいなことも主張してしまいそうになる。

あと歌詞ももちろん効いた、身構えていてもちょっと痛かった。

  隅っこでいつも笑っていたい
  君の好きな歌は僕には必要ないから
  「FREAKS & GEEKS」

  アイツのキスのくだり
  さっき聞いたし
  もう帰っていい?
  「バッド・レピュテイション」

  あれから時間だけが過ぎて
  気付いたら大人になっていた
  「Song For Zac & Kate」

隅っこでいつも笑っていたいしもう帰っていい? ってしょっちゅう思ってるしあれから時間だけが過ぎて気付いたら大人になっていたよ! とつい虚空に向けて叫びだしたくなる。
 

僕はじぶんのことを“おたく(ナード)”と呼ばないように心がけている。それは何故か? 自称するとそうなってしまうからだ。と、村上春樹がエッセイで書いていたからだ。
でもやっぱり抗いつづけるのは無理があるなと思った。ナードマグネットにこうも惹かれているじぶんを見ると、それはもう無理があるなと思った。

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