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死にたかった私が繋いでくれたもの

挫・人間を好きになってから今までの話

 
人生惑わす病気 希望って言うんだってさ
挫折で始まるストーリー
最初からクライマックスだぜ!!!!!!!!
〈絶望シネマで臨死〉

  この歌を聴くと、私は昨年の死にたかった日々を思い出す。
  昨年の梅雨頃、私は新卒で入社した職場に合わず三ヶ月足らずで退職した。入社したその日から毎日毎日辛くて辞めたくて消えたくて、毎夜、SNSで毒を吐き出しては眠れずに朝陽を拝まされた。その後、色々と頑張り私は忌々しい職場から退職することに成功するのだが、安心したのも束の間、無職になった私は、再び辛くて死にたくて堪らなくなってしまった。
  社会に所属していないという不安と罪悪感と自己嫌悪で大好きなバンドのチケットも取れず、毎晩とりあえず近所の山を歩いた。何かしないと気が狂うし、何かしてても気が狂う。SNSで同級生の煌びやかな生活を見ては吐き気がし、そのうちツイッター以外はログインしなくなった。死にたくなくて仕事を辞めたのに、仕事を辞めたら、より死が近づいていた。
  そうやって徐々に心が死んでいく中、唯一手元にあったチケットが挫・人間の人間合格ツアーの大阪公演だった。当日の朝まで迷ったが勿体ない精神が勝ち、電車に飛び乗った。
  開場時間が近づくごとに帰りたくなる心を引き止めるべく、私はお洒落な雑貨屋で可愛いレモンの便箋を買い自分を励ますような気持ちでボーカルの下川さんへファンレターを綴った。書けばなんとかなる気がした。ジャンルを問わず、オタクは気持ちを吐き出すのが好きだからだ。
無職で死にたいですが挫・人間に救われてます。なんとか生きられています。毎日聞いています。
書きながら、嘘だな、と思った。間髪入れずに私を見ている私が追い打ちをかけてくる。
無職になってからは音楽も聴けなかっただろ、お前。責められるような気分になるから何も受け入れなかったじゃん。音楽が救いとか、普通の人間みたいな事ほざくなよ。今日楽しかったら明日はもっと辛くなるぞ。そもそも楽しむ資格なんてないんだから。
我ながら最悪な合いの手だ。
  最悪の気分のまま開場。私の目の前では男女二人組が楽しみだね、なんて言っていた。
挫・人間の音楽を逢瀬の合間に聴くつもりか!?この歌たちを入れる隙間は無いだろお前たちの心には!と理不尽に憤っているとパッと照明が灯され、ライブが始まった。
  それからは怒涛、怒涛、怒涛だった。数時間前の苦悩など忘れるくらいには最高で、最強で、かっこよかった。
その中でも私の脳裏にこびりついているのは、冒頭で記した絶望シネマで臨死だ。
汗が私の顔に飛ぶほどの距離で叫ぶ(彼に関しては歌う、ではなく、叫ぶの方が近い表現だと個人的には思う)下川さんから目が離せなかった。手を伸ばしたらそれをグッと握られて生きてる!と細胞が叫んだ。
帰りの電車待ちの間に母に電話をした(友達がいないので)。「楽しかった!また行きたい!」と言う私。あまりに滑稽だ。死にたかったくせにまんまと、私は元気になってしまったのだ。帰り道に、先ほどの男女を見て微笑むことができるぐらいには心は健康になった。
  希望を病気だと歌う彼らの歌が、私にとっては希望になってしまった。いっそのこと希望なんて持たない方が楽なのを知っているくせに、あんな事をいうくせに、ダメ人間に希望を持たせてしまう挫・人間、狡い。
狡いとか書いてしまったが、そもそも挫・人間は死を肯定しているバンドとかでは全く無い。下川VS世間では下川さんの脳内に巣食う世間の皮を被った自意識相手に、自殺しそうになりながらも 下川さんは「僕」を受け入れ、初めまして、と挨拶をするし、セルアウト禅問答では、苦しみながらも音楽を、人生を続けながらあなたにストレートに愛を叫ぶ。どの曲でも彼らは痛みの中の生を選んでいる。

地獄ですらもないとしても 自分の孤独を受け入れろ
痛みが怖いだけとしても ぼくらは一応生きていよう
恐怖をぼくの力にしよう 人生の意味を踏み躙ろう
どんどん頭が狂っても どんどん頭が狂っても
〈下川VS世間〉

それでも君に本当を伝えたいんだ アイラブユー
〈セルアウト禅問答〉

この二曲に限ったことではないけれど、過激な歌詞の最後の最後に、本当を歌う挫・人間の歌は、とても優しいと思う。
しかし、歌はあくまで歌でしかない。そして挫・人間の歌は、誰の歌でもない。挫・人間、そして下川さんの歌で、あの歌は彼が彼自身を救う為の歌だ。
私は、彼のように何かを作ることは出来ない。容姿も体型も頭脳も人並み以下で自尊心は低いくせに、インターネットで培った無駄に高いプライドは心の中でドロドロに煮詰まって、もう元の心の色も分からない。そんな私だ。周りは大人になっていくのに、私だけは同じ場所で足踏みして、ずっと先の繋がってない通信ケーブルの付いたゲームボーイを握りしめているだけの、惨めな人生。
そんな時にふと挫・人間を聴くと、曲の中では同じ様に苦しみ、泣き喚き、たまに発狂しながらいつかの、もしくは現在の下川さんがいる。怖くて可愛くて少し滑稽で、寂しい。そんな歌の中に私と同じように、まともな生活の中で苦しむ誰かがいる事は、地獄にすら行けない私のような人間を救いはしないけれど、突き放しもしない。同じドロドロの中で一生懸命喚いている。
肯定してくれているのかも分からない。それでも彼の歌う一方通行で、身勝手で、熱くて、痛くて、ピュアな愛の歌は私の心の端っこを掴んで離さない。汚くても、惨めでも、人を愛せなくても、愚かでも、バカでも、クズでも、挫・人間は私を否定せず、そこにいる事を許してくれる。
ここまで書いていて気付いたけれど、やっぱり私は、挫・人間に救われてしまっているらしい。

あれから一年、私は別の職場で毎日働いている。辛い事もあるが、それなりに頑張れているし、稼いだお金でこの春には初めて一人で東京に遠征したりもした。遠征先にはまた挫・人間がいて、大阪の時には聞けなかった曲も聴くことができた。あの時も死ぬほど楽しかったが、やはり楽しい。あぁ、生きててよかった、と心の底から思えた。
帰りの夜行バスでは一年前には無かったOSジャンクションをリピートし続けた。優しい声が鼓膜で震える。

あー繋がり合い  その他沢山の すべてと
つー響き合えば  いつか抱きしめあえる
アイラブユー ウォーアイニー
一度は憎んだすべてと 笑いあうために
〈笑いあうために〉

何にも誇れることがない私だけれど、あの時生きる事を投げ出さずにこんな優しい歌に会わせてくれた私の頑張りは、ちょっぴり好きかもな、と思った。

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