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同世代に捧ぐ『PAGES』という選択肢

平均年齢22.2歳のSexy Zoneによる肯定

 生きている内に何度も実感しているのだが、時間が過ぎるのはあっという間である。きっとこれからも何度でも実感するのだろう。
 気付けば私たちは学生ではなく、就職した会社でよく分からないまま仕事をし、家に帰って最低限の家事をして夕食をとりぼんやりテレビを見て風呂に入って寝るだけの生活をしている。主語を大きくしてしまった。少なくとも私はそんな生活をしている。もっと意義ある平日を過ごしている人は多かろうが、現在、私の人生は休日にのみある。
 何度も、何度でも学生時代に戻りたくなる。恵まれた事に、私は楽しい幸福な学生生活を送ってきた。記憶の中で美化されている事ももちろんあるだろうが、今の色のない平日に比べてなんと眩しい日々だっただろう。どう頑張ったって戻れないんだから、今の生活を楽しく幸福にすればいいのだと頭では分かっているつもりだが、平日の大部分の時間を物理的に奪う勤労が私の邪魔をする。楽しく幸福な勤労ができれば解決なのだが、それができるなら最初から苦労していないとふてくされていた。

 話は変わってSexy Zoneである。ずいぶんインパクトのある名前なのと、デビューしたのがいやに早かった(調べたら当時平均年齢14.2歳だった)のが印象に残っている人は多いだろう。現在、彼らは平均年齢22.2歳である。同世代なのにもう8年も働いていて偉いな、と単純にも思う。えらく早く自分の人生を見定めたものだ、と感嘆する。同世代、というか私より年下のメンバーのほうが多いのに、こと勤労に関しては彼らは大先輩だ。弊社の8年目の社員は、もう結構重要な仕事を任されているから。
 だから、彼らが2019年3月13日に発売した6thアルバム『PAGES』に、同世代らしい迷いと、人生の先輩らしいメッセージを見つけた時、私は勝手に嬉しくなってしまった。私と同じような生活を送る人がCDを手にとるきっかけになるかもしれないので、以下にとりあえず3曲だけ感想を残しておきたい。“”内で歌詞を引用している。

 先にアルバムの概要だけ説明すると、『PAGES』は「Photo Album / Gathered Emotion / Sexy Zone」の略だという。その名の通り、フォトアルバムのように「恋」と「人生」に関する感情を切り取ったような楽曲が並んでいる印象のアルバムだ。今回は取り上げないが、「恋」の様々な場面を描いた楽曲群も魅力的だし、単純にポップスとしても良質なので、是非全編聴いてみてほしい。
 

M2『恋がはじまるよーー!!!』
 ギターとシンセのアンサンブルが印象的な、これでもかと華やかかつアップテンポな曲調。 基本的には、「恋に恋する少女のエゴイスティックを、少女目線で全力で肯定する」といった感じのハイテンション恋愛ソングに聴こえるのだが、それにしては引っかかるフレーズが散りばめられている。

 “そうよ 父母(ちちはは)には 愛情を 注がれながら ワガママ
  すぐに 一人じゃ 生きていけない--”
 “悩み多き人間て 自分のことだよ、と思える”

 ああ、同世代だなあ、と感じる瞬間だ。かなり幸せな部類の。
 この曲でハイテンションに描かれているのは、少女世代の恋への憧れだけではないように思う。親に愛され、甘やかされて育ってきた、もう一人で生きていかなくてはいけない年齢の人間をも描いているのではないだろうか。幸福感溢れる曲調も相まって、“悩み多き人間”と言われても「いや幸せそうじゃん」と説得力は皆無なのだが、Sexy Zoneはそんな甘ったれ人間の事も肯定してしまう。

 “自分100パーいいと思う ンな人メッタにいないでしょう?”
 “2番目の君に決定しますー!!! 恋がはじまるよー!!!”

 100%納得できなくていいのかよ。1番じゃなくていいのかよ。確かに会社では100%納得できる事も、1番になれる事もあまり無い。全力で現状を妥協し、“恋がはじまるよーー!!!”と全力で叫んでくれる人は現実世界にはそうそういない。Sexy Zoneによる肯定が止まらない。

 そうして辿り着いたCメロにおいて、少し落ち着いたキーから始まり徐々にクレシェンドしていくフレーズの中で、力強くこう宣言される。

 “人生はパレード 自分が主人公 いつでもスポットライト 浴びなくちゃ 意味が無い!!!”

 人生と自己の肯定をここまでシンプルに断言した歌詞に、私は初めて出会った。
 「どんな人間の人生もそれぞれに尊く、肯定されるべきものだ。だから私の人生も肯定されるべきだ」という理想は常に私の頭の中にある。だが年齢を重ねるにつれて、実際は怒られ注意され否定される事のほうが多いものだと学んできたし、まあそんなものだよな、と諦めるのが大人らしい態度だと思っていた。
 そうじゃないのだ。“人生はパレード”で、通り過ぎたらもう戻ってこない。諦めた態度は“意味がない”とまで断言された。この曲を聴いてからというもの、「私は今“スポットライトを浴び”ている、と思えているか?」と自問するようになった。別に注目を浴びなくてはいけないわけではないので、「自分を肯定する『何か』に照らされているか?」と言い換えればいいのだろうか。そのうち、この自問が人生の指針になりそうだ。

 ちなみにこの曲は、ソロでの歌唱パートがない。全編どの箇所も複数名で歌っており、とにかく歌にパワーが溢れているのだ。全力で何より。

M4『CRY』
 落ち着いたテンポとしっとりした歌い出しで「バラードか?」と思わせておいて、Bメロから感情に突き動かされるようにサビへとなだれ込む、なかなかドラマティックな楽曲である。そのBメロの出だしは、以下のようになっている。
 
 “誰か この痛みの理由(ワケ) 名前を 教えて”
 “曖昧な日々 虚ろな夢に 何か見失いそう”(1番)
 “もしも 迷路を抜け出せなくても 大丈夫”
 “ふと立ち止まり 壁を蹴破り 新しい道をつくろう”(2番)

「涙を流す側の人間」「それを見つめる側の人間」両方の視点が曲中に混在している事が分かる。同世代かつ人生の先輩であるSexy Zoneのずるいところだ。同世代として涙を流し、先輩として寄り添ってくれる。このフレーズをきっかけに、曲は加速していく。そしてサビで、涙を流す事を肯定してくるのだ。

 “泣きたいならCry Cry Cry 思いきり Cry Cry Cry 泣いていいさ”

泣いていいのかよ。今会社から帰る電車の中だぞ。上司からのパワハラと言って差し支えない配慮のない言葉と態度に耐えなくてもいいのかよ。恥ずかしながら、そう思って本当に涙腺が緩みかけた事が何度かある。
 しかし電車の中で泣くとさすがに不審者なのでぐっと我慢するのだが、そんな私の事も隙なくSexy Zoneは肯定してくるのだ。

 “優しさはいつも近くにある だけども素直になれない 僕らは Cryng in the Rain 流した 涙をそっと Wow-o-o wow-o-o 抱きしめてる”

 素直に泣けないのすらバレているし、サビの最後にはとどめに“Love yourself”と囁かれる。同世代の感情など、先輩であるSexy Zoneにはお見通しだ。自己を愛せ。徹底している。

M6『イノセントデイズ』
 2018年にシングルとして発表済の、ピアノとストリングを中心とした穏やかなバラードである。
 歌い出しからいきなり同世代の帰り道だ。

 “最終電車に 色褪せた景色に 溢れる何か”
 “今日もコンビニの袋ぶら下げて 見上げた月 笑ってた”

最終電車までいかなくとも、残業はつらい。早く家に帰りたい。それが私たち世代の割と共通認識だ。そして早く帰れたとしても所詮平日の家での時間など限られているので、手っ取り早く摂取できる幸福としてコンビニスイーツはかなり需要が高い(少なくとも私は)。この十数秒に、同世代の帰り道の光景が凝縮されているのだ。
 そして私は残業するたびに、「学生時代に戻りたいなあ」と思った。学生時代は帰りが遅くなるのは、基本的には自分の意思によるものだった。業務の都合上しょうがなく、なんて事は、アルバイトでの数少ない例外を除いてなかった。アルバイトもいつでも辞められるもので、あくまで自分の意思で続けていた。バイト先の仲の良い友人たちと遅くまで残るのも、サークルの友人たちと活動後に遅めのラーメンを啜って帰るのも、全て楽しかった。わざわざコンビニスイーツなど買って家で食べなくても、娯楽や幸福は全て家の外で満たせた。
 今のつらさを、そうやって過去を振り返る事で紛らわしていた私は、このアルバム『PAGES』が発売されるより前、シングルでこの曲を手にとった。つまりまだこのアルバムで、Sexy Zoneに自分の存在と人生を肯定されていなかった頃だ。
 サビまで聴いた時、そうか、と思った。

 “振り返ることじゃなくて 未来を描き続ける光 イノセントデイズ”

 “イノセントデイズ”は、私にとっては友人たちと過ごしたあの学生時代だ。その過去は、振り返られる対象ではない。深夜にラーメンを啜っていたあの時間が描き出した未来が、今の私なのだ、とSexy Zoneは歌う。
 今は学生時代が愛おしいけれど、もし今の私が“未来を描き続け”たら、未来の私が振り返った時、同じように愛おしく思うのかもしれない。学生時代と同じように、今の私も尊いものなのかもしれない。そう純粋にメッセージが染み渡ってくる、素直な歌い方だった。
 その後、私のこの感想を肯定するように2番では、

 “それでいいさと 憂鬱も愛していこう 僕なりの現実(いま)を”

と続く。「現在」ではなく「現実」に「いま」とルビを振っているのが興味深かった。きっとSexy Zoneにとっては、「いま」と相対するのは「理想」なのだ。同世代の緩やかな焦燥を垣間見た気がした。
 そしてCメロでは、こう歌われる。

 “風の匂いも 瞬間(とき)の速さも やがて変わり続けてくから”
 “今を 君と 強く 手と手 繋ぐ いつまでも”

 生きているうちに何度も実感しているのだが、時間が過ぎるのはあっという間で、年々その速度は増していく。
 だから、「自己」の「今」の「人生」を肯定してくれるSexy Zoneというアイドルをこのタイミングで知って、選択肢として持っておけた事は、私の人生において間違いなく良かった。同世代の皆様、いかがでしょうか。

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