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海について歌う岐阜県出身cinema staff

海に憧れて、海を目指す理由

2019年6月1日から始まった3年振りのワンマンツアーが、本日7月21日に横浜で終了する。2ヶ月弱の間に10本。
週に1~2本のゆったりしたペースで週末に開催されていたため、仕事を休むことなく参加することができた。本日を除いて。
10本のうち9本観たのだから最後も観たい気持ちと、チケットが当選しなかったし見つからなかったのだから、生配信でも観れるし、明日も仕事があるのだし、と諦めモードの間を行き来する。
すぐにTwitterで検索してしまう。あと3時間ほどで開演。新幹線に乗れば、充分間に合う。開演が早いから今日中に帰ることもできる。
諦められない気持ちをなんとか落ち着けようとする。
画面越しに観るのもいつもと違って新鮮だろう。メンバーが見えないなんてこともないだろう。
いや、でも、同じ空間でその場で演奏された音を直接スピーカーから浴びる感覚も捨てがたい。

cinema staffを初めて観たのは、当時彼らが所属していたレーベルのイベントだった。他の所属バンドを観たくて、まだ心斎橋にあったときのクアトロに行った。ステージと客席後方の小さなスペースを使い、10バンドくらいが交互に演奏していたと記憶する。
初めて観たcinema staffは、生真面目な印象でとにかく声が心地よいと感じた。爆音の演奏の隙間を縫って聴こえる声に必死に耳を傾けた。
これまで好きなタイプの歌声のバンドばかりを観ていたつもりだったが、全く私の好みとは違う、その声に一瞬で惹き込まれていた。
あの、見つけてしまったというような不思議な感覚は後にも先にも味わったことがない。
その日は出ていなかったが、同じレーベルの先輩バンドのTシャツをメンバーのひとりが着ていたことも、その感触を後押ししていたかもしれない。

あれから10年近く経つ。
関西で観れるときはライブハウスへ行き、シフトが出ればすぐライブ日程を確認した。
今も変わらず、私の耳はあの歌声を待ち望んでいる。
聴けば、深く染み渡り、確実に満たされていく。救われる。

昨年、cinema staffはインディーズデビュー10年を祝って多くのライブやツアーを企画し、それに加え恐らく誘われたライブ、イベント、フェスなどもほとんど断らずに出ていた。
アルカラとスプリットCDを出し、10数本のツアーをすると同時に、東名阪クアトロ対バンツアーを4ヶ月連続で行い、合間にフェスにも出ていた。

年末に、飯田の喉の不調でしばらくライブが行えないと発表されても、正確な期間が発表されなかったこと以外はあまり驚かなかった。
ところどころ掠れてしまう声を聴くのは、本当に悔しかったし、かなしかった。
せっかく望まれて出演したライブで、自分たちの周年を祝う場で、思ったように歌えないという葛藤や後悔は想像するのも痛ましい。
その結果、数本のライブをキャンセルしたり中止したりして、安静の日々を送らなければ、歌えない日々を乗り越えなければいけないなんて、とても耐えられない。
私自身がライブを観れないこともつらかったが、歌えない期間がいつまでなのかわからないほどに疲弊していた原因がライブだということを考えることが、本当につらかった。

複数のバンドが出るイベントは、辻が他のバンドのサポートギタリストとして参加したり、年末のイベントにはライブ映像が流されたりと、完全にキャンセルになった訳ではなかったが、それも理解してくれる出演バンドやスタッフがいたからこそできたことだった。
同じイベントに出ていたアルカラは空いたシネマの時間も出演し、サポートした辻の代わりに稲村が状況を説明したり、スプリットCDを出したことに対するお返しだと話したり、感謝を口にしていた。
アルカラとのツアーに関しては、延期にしたというのに、まるで違うお祭り騒ぎのような代替イベントを仕立て上げて、かなしい状況だというのに笑いの溢れる空間に変えてしまった。
これまでシネマが築き上げてきたものを、別の形で目の当たりにする貴重な体験ばかりだった。

3ヶ月の休養を経て、ライブ活動を再開する。
と同時に発表されたのが、進撃の巨人のエンディングテーマを担当することだった。
ライブで新曲を披露する。明るく覚えやすいサビ。オーシャンと繰り返されるそれがエンディングテーマかと思っていたら、アニメ放映が始まった日に流れた曲は静かなピアノ曲だった。
タイトルが「Name of Love」と発表されていたから、オーシャンと歌っていた曲ではないことも予想できたが、前回6年前のエンディングテーマだった「great escape」のような激しい曲を想像していただけに、その振り幅に驚いた。
MVでは飯田がピアノを演奏している。休養期間にピアノを猛練習したという。
そして、綺麗な海の映像が印象に残る。

私は、進撃の巨人についてあまり知らない。赤い巨人が人間を食う漫画だというくらいの認識しかなかった。
今回のワンマンツアーは、「Name of Love」リリースツアーである。
MCで進撃の巨人について、簡単に解説をしてくれていた。
壁に囲まれた世界で暮らす村人たちは壁の外の世界を知らない。ただ、壁の外には大きな塩水の湖があると知って、海に憧れる、海を目指す物語だ、と。
「great escape」にも壁という言葉が使われているが、そういう意味だったのか。
私たちの日常を思い返すときも、その壁はすぐそこにいつの間にか迫っているではないか。

カップリングの「OCEAN」「さらば楽園よ」もアニメのタイアップが決まってから書き下ろされた新曲で、進撃の巨人のために合計で10曲作ったという。
いくら好きな漫画でも、そこまで熱意が持続できるかと問われれば、私はとてもできないと即答するだろう。
使われるのは1曲とわかっているのに、全く違うタイプの曲を断続的に生み出していたかと思うと、言葉は少し悪くなるが、無駄が多いとか生産性が低いとか、思わざるを得ない。
ほんの少しも、手を抜かず、気を抜かず、最善を目指したとしても、やはり生真面目な損な性分を抱えていることに苦笑が漏れてしまう。

初日の渋谷公演後にセットリストが公開された。
今回のツアーはほぼ同じセットリストなので、新曲が最初と中盤とラストに配置されているのは変わらない。
また、進撃の巨人と同じように海をテーマにした曲が多めに組まれていることもわかりやすい。
岐阜で結成されたcinema staffにとっても、海は憧れだったのだろうか。
海が見えるところを描写した歌詞は、海のない、生まれ育った岐阜を出てどこかに向かう途中、または向かった先にある景色だろう。
そこで誰かと言葉を交わす。話をしたいと切望する。
海はコミュニケーションの場であるのかもしれない。
唯一、自分を解放する場に海が選ばれているのかもしれない。
日常と切り離した場所で誰かと対峙する。または、自身に問いかける。

少し遠回りをしたけれども、彼らは彼らなりに熟考を重ね、今日を迎えている。
思う通りにいかなかったこともあるだろう。
それをバネに、毎日を着実に一歩ずつ進んできたんだろう。

<僕が探してるものはきっとそこにあるだろう。
あなたのようには歌えないかもしれないけれど、
まだやれるよ。
また会えるよ。>
「シャドウ」
 

その成果がようやく花開く気がしている。
本日の生配信を多くの人が目にすることを、更に先に進んでいくcinema staffに私は期待していたい。
私の心を癒してくれたように、これからも勇気付けてくれる存在でいてほしいと願う。

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