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『やまないビート』は鳴りやんだのか?

ねごとの解散前最後のライブを観て

2017年3月24日 午後9時ごろ、私は多幸感に包まれすぎて目の前の景色がだんだんあやふやになっていくような感覚にぼんやりと覆われていた。
この年の1月、ねごとはバンドサウンドからダンスミュージックへと大きく舵を切った4th アルバム『ETERNALBEAT』をリリースし、そしてこの日はそのリリースツアーの最終公演だった。アルバムの表題曲『ETERNALBEAT』を本編最後に持ってくるセットリストからは、バンドがこの言葉、ETERNALBEAT (歌詞では“やまないビート”と訳されている)、に込めた思いをひしひしと感じた。その思いが具現化したかのように、この時披露された『ETERNALBEAT』は、ミラーボールと照明の演出も相まって、崇高だった。私はまるで天にも昇るような心地のまま、ライブを終えて舞台袖にはけていくねごとのメンバーを見ていた。去り際、ギターの沙田さんはマイクを引き寄せてこう言った。
「これからもっと大きな会場でもやりたいから、ついてきてね!」
会場中が、もちろん、と頷く気配をこの時確かに感じた。
このライブの会場は、Zepp DiverCity Tokyoだった。
そしてその発言を裏付けるように、この年のねごとのアグレッシブっぷりは凄かった。夏にワンマンフェス(誤字ではない。)を開催し、12月にはダンスミュージック路線をさらに深く追求した5th アルバム『SOAK』をリリースした。お気づきだろうか、1年間に2枚のフルアルバムをリリースしていることに……。
そんな大充実の2017年を経て、2018年の年末に、ねごとは解散を発表した。もうやるべきことはすべてやり切った、と言わんばかりで、不思議なことにその事実は、大きなショックを一度だけ私に与えたあと、すとんとそのまま胸に収まった。
発表の続きによると、ねごとは最後にベストアルバムをリリースし、全国ツアーを回るという。
ツアーファイナルの会場は、Zepp DiverCity Tokyoだった。2年前と同じく。

この文の主題はこの、解散前最後のライブのレポートである。上に書いてきた、ここに至るまでの経緯は、省いてもいいのかもしれない。むしろ最後のライブでメンバー全員が浮かべていた晴れやかな笑顔をただ霞ませるだけの余計な情報かもしれない。しかしここに流れる、私を、そしてもしかしたら貴方までも救うかもしれないストーリーを、どうしても知ってほしかった。
戦って、戦って戦って、12年間ずっと戦って、掲げた夢は叶わなくて、それでもねごとというバンドが確かなものを手に入れたという。

開演前の会場の雰囲気は、いつもと変わらないように感じた。落ち着いたインディーロックと、観客の控え目なざわめきが満たしていた中、突然照明が落とされ、するするとステージの幕が開いていく。
メンバーはすでに全員ステージ上にスタンバイ済みで、その中央、頭上からスポットライトで照らされた先で、ボーカルの蒼山さんが鍵盤を弾きながら『インストゥルメンタル』の冒頭を歌い上げていく。いつもと同じくその声は、遥かな高みへと続くように伸びやかだったけれど、少し震えているように聞こえた。しかしその意味を脳が処理するよりも前に、ギター、ベース、ドラム全パートが一斉に入っての強烈なバンドアンサンブルが始まり、ああこれから数時間は幸せが支配する空間にいれるんだ、といういつもの安心感に浸った。
曲が終わった後、蒼山さんの「こんばんは、ねごとです!」という掛け声のあと続けられた『透き通る衝動』は、私がねごとにハマるきっかけになった、最初期の曲だった。曲名通りにエモーショナルに演奏されたその曲には、多様なジャンルを取り入れつつも芯の部分では常にバンドサウンドと真正面から向き合ってきたねごとの歴史が詰まっていた。
次は、陽気なシンセサイザーのメロディでスタートする、ねごとのもつポップさをそのまま爆発させたような曲『DESTINY』で、これまで単色だった会場が一気にカラフルに塗り分けられていくような感覚だった。跳ねるようにメロディを歌っていく蒼山さんの声は、もはや微塵も震えていなかった。
上がり切った会場のボルテージをさらにブーストさせるかのように、沙田さんがギターを掻き鳴らして『sharp #』が始まる。体幹を揺らされるようなノリの曲が多いねごとの中では珍しく、飛び上がりたくなるような縦ノリの曲だ。沙田さんはtwitterで当日開演前に「いつもどおりやるよー」と投稿していたが、ギターを高く掲げながら掻き鳴らすその姿は、いつも以上にギターヒーローだった。
全力の4曲が終わった後、マイク越しに上がった息を整えているのを感じながら、本日最初のMCで蒼山さんが話し始める。短めだったけれど、今日は楽しみましょう、いつものように、ということを一番伝えたいのだとわかった。
いつものように、という部分を強調するように、次の曲はもっとも多くライブで演奏されたであろう曲、『ループ』だった。ねごとがバンドとして、はじめて作ったオリジナル曲とのことだけれど、きらめくようなメロディが迸るこの曲は、自分たちの鳴らしたい音のイメージをなんとか表現したい、という思いをバンドがずっと持ち続けていたことを、ずっと体現し続けてきた曲だ。
続いて、クリアなギターのフレーズで始まる『greatwall』。『カロン』のヒットの後にねごとが最ももがいてなんとか目の前の壁を越えようとしていた時期の曲だけれど、そんな過去もひっくるめて肯定するような、力強い演奏だった。
ここで一旦客席の照明が落とされ、手拍子とカウントアップと共に『透明な魚』が怪しい雰囲気の中始まる。幾筋ものレーザービームが飛び交い、不思議な夢の中にいるような気持ちにさせられた。
照明は暗いまま、地を揺るがすようなベースの轟音で『真夜中のアンセム』が始まる。どの曲でもきらきらしたメロディが前面に出ているせいで普段は明確に意識しないけれど、このバンドには、オルタナティブロックの血が確かに流れていることを、太いギターサウンドを聴いて思い出す。
会場がお台場に位置するZepp DiverCityだったことにちなんで、MCではバンドのデビューの直接のきっかけとなった、同じくお台場で開催された『閃光ライオット』の話が持ち上がったけれど、会場に行くりんかい線に飛び乗って知らないおじさんに怒られるという事件を、そんなこともあったねえと面白そうに話すあたり、感傷に浸る感じではなかった。やはり解散前最後のライブとあって、ライブが始まった直後はどこか固い雰囲気だった客席の雰囲気がここに至って完全に緩んだと思う。
MCが一区切りしたところでまたしても、中央の蒼山さんだけにスポットライトが当たる。1音1音を大切そうに鍵盤を弾きながらゆっくりと歌い始められた『ふわりのこと』が、会場を優しく包み込んでいく。あるがままの日常の幸せを歌うこの曲は、普段抽象的な歌詞を使うことが多いねごとだからこそ言葉が音を通して抵抗なく胸に入ってくる。一方で次の曲、『シリウス』ではステージ後方に、星が降るような光の演出がなされた。初めから終わりまで、ねごとの異次元的な音のイメージを分かりやすくし、世界観を構築してきた大切なモチーフである、宇宙を思い起こさせる。一曲ずつにコントラストのある演出だった。
怒涛のようだったライブもそろそろ折り返しかと思ったあたりで、三拍の手拍子が聞こえてくる。『シンクロマニカ』はねごとのキャリア中盤にどっしりと構える、間奏に入った途端にいきなり全パートがそれまでの300%くらいの出力で暴れ出したりするところが非常に“っぽさ”を感じる、これぞねごとの真骨頂ともいうべき曲だ。その次の『Fall Down』では落ち着いたリズムがキープされ、最後の頂きへ向けて足の裏に徐々に力を込めていくような雰囲気を感じた。
キャリア後期の曲を演奏するとき、ねごとのフォーメーションは変わる。蒼山さんがスタンドマイクからハンドマイクに替わり、ベースの藤咲さんが脇のシンセベースの前にスタンバイする。視覚的にもこのバンドが途中で大きな転換を果たしたことがダイレクトにわかる瞬間だけれど、ではそうして変わることで、同時にそれまでを捨てることで、ねごとが得たものはなにか?夜に沈む高層ビルの風景を背に『サタデーナイト』を、土曜日の夜(いいですか、平日の夜ではなくて土曜日の夜、ですよ)に憂鬱な気持ちに襲われる人を勇気づけるためにつくったというこの歌を、全身を使って歌い上げる蒼山さんの姿を見れば、ああ、それは「強さ」だったんだ、とシンプルにわかるような気がする。そして今度はステージ後方の映像が海の中へ替わり、幻想的な光景の中演奏された『水中都市』。たっぷり時間をかけて激しさを増していくギターに誘われるように、ゆっくりと、どこまでも奥深く、普段は幾重にも覆われていて顔を見せることのない、バンドの根源のところで渦巻いていた深淵の中へと引きずり込まれていく。
曲が終わって口を開いた蒼山さんは、バンドがこの瞬間を迎えられたのは、こうしてライブを観に来てくれるみんなのおかげです、と話した。その真っ直ぐな口調には、自らの終わりを自分たちで決めた、想像もつかない覚悟が滲んでいた。ライブはいよいよ終わりへと加速していく。
「まだまだ行けますか!?」
掛け声とともに始まった『メルシールー』ではこれまで以上にバスドラが響き渡り、ベースは自由自在にうねりまくる。『シグナル』ではサンプリングパッドを使った独特すぎるビートで会場全体を揺らし、続く『nameless』ではゲームの効果音のような電子音とギターが意味不明に絡み合う。その後『憧憬』ではサビで獅子のごとく吠える圧巻の歌唱。自分たちの音楽的多様性を、惜しげもなく晒していくその姿は、自分たちがやり残したことはないかを丁寧に確認していくようでもあった。
照明がこれまで以上の輝きを放ち、歌詞通りミラーボールを回しながら、『ETERNALBEAT』が、音楽のもつエネルギーをそのまま昇華させたような空間を作り出していく。こんな夢のような時間が、嘘ではなく人の力で作り出されていて、またしてもぐにゃぐにゃになってきた頭で辛うじて気づいたところだと、ドラムの澤村さんがここぞというタイミングで打ち込みのビートとシンクロするようにダンスビートを叩くところとか、その他の色々を積み重ねて奇跡的に成り立っているのだろう。
一瞬のきらめきさえあればそれは永遠に残る、とその眩い音楽はなによりも雄弁に語っていた。
“もっと揺らしてこのまま
きっと踊れるはずでしょ
あの光は今だけの光
(『ETERNALBEAT』歌詞より)”

幸せな時間が、今日はいつもより長く続いてくれた。
一際美しい、『endless』イントロの同期音声が流れ始める。焦らすようにじわじわと時間をかけて各パートが熱量を上げていき、最後の大サビで爆発する。1分で盛り上がりに到達する曲が大多数となった邦楽ロックシーンの中で、この構成の曲をあろうことかアルバムのリード曲にもってくるのだ、ねごとは。自分たちが本当に対峙すべきは音楽シーンではなくて、音楽そのものだ、と胸を張って言っているような姿勢が、私は本当に好きだったのだ。
盛り上がりから間髪入れず蒼山さんがステージ中央、客席の目の前に立ち、ねごとが最後にリリースした曲『LAST SCENE』を高らかに歌い上げていく。曲名から受ける印象とは真逆の、未来をまっすぐ指し示すような、一際凛々しい曲だ。この日のMCでは、「湿っぽくならずにやりたい」とは直接言葉にしていなかったけれど、アウトロのロングブレスまで途切れずに力強く歌い切る姿勢で、その気持ちは確かに伝わった。
「最後の曲です!」そう叫び、蒼山さんが例の青と赤に交互に発光する物体を片手に掲げ、ダンスミュージックど真ん中の、『アシンメトリ』のイントロが流れ出す。何度となく聴いても毎回このイントロを新鮮と感じるのは、あの硬派(そう)なBOOM BOOM SATELLITESの中野さんとねごとが曲を共作するという、予想だにしなかった突然のアナウンスを初めて聴いたときの衝撃からまだ完全には醒めきっていないからかもしれない。中野さんから受け継ぎ、今では見事にバンドの血肉となったダンスミュージックのエネルギーを思うまま存分に爆発させたようなパフォーマンスを見せ、片時も力の緩まる隙のなかった本編が終了した。

拍手に応えてアンコールで出てきた四人は、楽器を構える前に、順番にそれぞれの思いを語り出していく。今まで支え続けてくれたことへの感謝と、そしてこれからもねごとの音楽を聴き続けてほしい、という願いは全員に共通しているようだったけれど、それぞれの思いの切り取り方に、この期に及んでもどうしようもないほど個性が出ていた。
聴き手と向き合うこと。
音楽を愛すること。
マイペースに楽しむこと。
信念を貫くこと。
どれ一つとして捨てることなく、ねごとは今日、ここに辿り着いた。
語り終えた四人は思い思いに楽器を構え、『雨』と『彗星シロップ』を演奏する。前者はベスト盤までずっと音源化されていなかった曲、後者は初期のシングルのカップリングだった曲だ。ただ昔を懐かしむためというよりは、静かな情熱と、どこまでも膨らむイマジネーションを頼りにここまで来られたことを誇るような選曲、そして一音一音に魂の入った演奏だった。
ここまできたら、最後の曲がなんであるかはもはや会場の全員が気付いた。果たしてその期待は裏切られることなく、蒼山さんの鍵盤は、『カロン』のイントロを弾きだす。ああ、この曲が終わったら本当に終わるんだ、あとほんの数分で……。
その時突然、銀テープが打ちあがり、驚くのも束の間、ステージ後方に四分割されたカメラの映像が大きく映し出された。そこに映っていたのは、晴れやかな笑顔を浮かべて、今まで観たことがないほど楽しそうに演奏する、四人全員の姿だった。歓声が響き渡る中、バンドは最後の一音へ向けて走り抜けていく。この最後の数分間、会場は、素晴らしい音楽が鳴っていることへの純粋な喜びだけに支配されていた。まさに、音楽の魔法だけが成せる業だった。

楽器を置いた後、笑顔をお互いに見せ合いながら四人は前へ出て横一列になって並び、肩を組んでお辞儀をした。割れんばかりに鳴っていた拍手が、より一層強くなった。
ねごとの最後は、凛々しく、清々しかった。

この文の最後に、少しだけ私事を書かせてもらいたい。
ねごとが解散することを知った時、私は転職活動の最中だった。解散はもちろん悲しかったけれど、バンドがしたその決断は、自分はなにを求めて生きていくべきかという、向き合わざるをえない自分に対しての問いから逃げたくなっていた私の背中を、見えない手で押してくれた。
そのおかげもあって私は今、新しい場所でやっていっている。
どこへ行っても、ビートは、やまない。

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