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フジロックのフィールド・オブ・ヘヴンをまさに天国にした中村佳穂

2019年7月26日フジロックのライヴに寄せて

 僕の参加した2019年7月26日のフジロックは、女性アーティストのかっこいいライヴがたくさん観れた日だった。アン・マリーのEDMの曲アレンジの気持ちよさに負けない曲本来のメロディの良さと声の良さ。ジャネール・モネイの観ている者を圧倒、鼓舞する戦闘的で、でもエンターテイメント性溢れるダンスと衣装チェンジを含めたパフォーマンスと、曲のほとんどで鳴っていた身体の髄まで響く重低音に負けない力強くもしなやかで優しさのある歌声。
 その堂々としたオリジナリティ溢れるライヴにとても感動した。そんな女性アーティストの中でも僕がこの日最も楽しみにしていたのが、中村佳穂だ。
 彼女との出会いはASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカルの後藤が設立したAPPLE VINEGAR Music Awardである。彼女の『AINOU』がこの作品賞で大賞を受賞し、後藤との対談を読み、興味が湧き曲を聴いてみたいと思ったのだ。You Tubeに「きっとね!」のMVがアップされてたので観てみるとイントロから引き込まれ心も身体も踊りだしてしまうと躍動感と同時に琴線に触れるメロディがある、とても魅力的な曲だった。「きっとね!」以外の曲も聴きたくなり『 AINOU』を聴いた。1曲目の「You may they」出だしから耳も心も鷲掴みにされる程の音とリズムと歌声。歌い回しが個性的で、「食う寝る」という言葉をこんなに面白くかっこよくメロディに乗せる曲に僕は今まで出会ったことがなく、思わずニヤニヤしてしまった。『AINOU』の全曲が魅力的で中村佳穂の音が鳴っている。特に彼女の歌唱はメロディや歌詞の素晴しさに加えスキャットが大変特徴的で、僕はそこから開放感や自由を強く感じた。7月13日にYou Tubeで配信されたライヴを観たのだが、彼女の歌唱の自由さに加え、バンドのインプロや掛け合いの上手さに、この自由さや開放感が確かな技術力に支えられた力強い確かなモノであることがわかり、フジロックへの期待値が数倍に膨らみ、彼女の音楽が更に好きになった。
 そして、2019年フジロックのフィールド・オブ・ヘヴン。トップバッターとして中村佳穂バンドは、それまでの僕の彼女の音楽に抱いていた期待値を軽く超える最高のステージを朝っぱらから観せてくれた。
 天候は晴たり曇ったりでとても過ごしやすく、ステージ周りに飛ばされていたシャボン玉もフィールド・オブ・ヘヴン特有のゆったりとした天国感や祝祭感を演出していた。リハから中村佳穂バンドは、今日この日を誰よりも楽しむかのような姿勢で笑顔いっぱいで、でも時にシビアに細かなサウンドチェックをしていた。サウンドチェックで演られる曲の1コーラス1コーラスがチェックの段階だとしても観ているこちらのワクワク感を何倍にもしていく。そう感じたのは僕だけではないだろう。リハ後の中村佳穂の挨拶で開演10分前のフィールド・オブ・ヘヴンでは大歓声が起こった。
 本番。中村佳穂もバンドメンバーもリハとは違う本番用の衣装で登場(中村佳穂は上半身部分の衣装をジャージで隠していた)。たかが衣装チェンジと思うかもしれないが、ライヴ衣装も演出の1つで表現の1部であると僕は思っている。中村は上が赤と黒と白の刺繍が印象的なシャツと下が白と黒のスカートという衣装でビシッと決めていた。
 1曲目、キーボードで自己紹介と今回のフジロック出演への喜びを弾き語りをしたまま「口うつしロマンス」へ。そのピアノの旋律と歌のメロディが聴こえると僕はその純粋で美しい音に涙を流した。彼女の鳴らす音に誘われてトンボが飛んできて彼女のマイクに止まる。それに気づいた彼女も微笑む。こんなちょっとしたフジロック特有の素敵な出来事も僕の心を満たしていく。初っ端からすごい多幸感である。曲が後半になるとバンドの演奏が加わり曲がグワーっと盛り上がる。僕の心も身体も爆発して、歓声を上げずにはいられない。「アイアム主人公」の中盤では、中村佳穂のオーダーしたカウントに合わせてバンドがキメをキメるパートになる。これはYou Tubeで配信されたライヴでも観ていたが実際に観てみると、本人たちは軽やかに楽しんで遊んでいるようで、すごい技術的なことをしているんだなと身体全体で感じることでできる。今回は最高47回のキメをバンドは息を合わせてズレることなく時に細かなフィルを入れながらしっかりとキメていた。ただただすごい。その後の曲たちの演奏でもバンドは、技巧的な演奏を軽やかに、自然に演奏をしていた。僕はそこから、バンドメンバー個人の才能に加え、練習量の多さやバンドとしての結束力をすごく感じた。僕は楽器をやるのでそれがよく分かる。高い技術力があるからこそ、こんなにも音の中で自由に踊れるのだ。本当に音楽を愛しているんだなということがすごく伝わってくる演奏と音だ。その姿勢がとてもカッコイイ。
 そう。中村佳穂バンドはカッコイイのだ。中村佳穂バンドの音には自由で開放的な中にも一本の強い芯があり、曲展開も表現もライヴ展開も他に似たようなバンドが見つからないくらいの圧倒的なオリジナリティがある。表現は違えど、そうした部分がビョークとかぶる。それに僕はカッコよさをすごく感じる。そして何にも媚びていない自由な音とライヴにすごくロックを感じる。音が歪んでるとか激しいとかそんなことではなく、音から感じる生き様に、姿勢に。
 歌詞でも中村佳穂にロックを感じる部分がある。今日のライヴでも演奏された「忘れっぽい天使」は、弾き語りが主体のしっとりとした印象の曲だが、憂いを帯びた歌声で歌われる歌詞は「天使は寂しそうだね」「街の上に正論が渦巻いてる」である。その部分だけでも僕は中村佳穂が見ている現実のある部分に対して悲しみや憂い以外にも憤りやノイズを感じる。それを感じれるってとてもロックだと思う。
 ライヴ終盤にはホーン隊も加わり、僕と中村佳穂の音楽との出会いの曲である「きっとね!」が演奏された。まだ中村佳穂の音楽に触れて半年くらいだけど、今日のフジロックまでのストーリーが一気に込み上げてきて幸せすぎてまた泣いてしまった。
 ライヴが終わって周りを見渡してみると、僕以外にも「良かった〜」と言いながら泣いている人が何人もいた。同じ気持ちや感情で泣いていなくても、中村佳穂の曲が、中村佳穂バンドの音が、人の心を強く突き動かす表現だということだ。なんだろう。僕はとてつもない多幸感に包まれていた。大好きなフジロックで、自分の中の伝説的なライヴがまた1つ生まれたこと、中村佳穂の音楽に出会えたことを音楽の神様に感謝した至福の50分だった。

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