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スティル・オン・ハイウェイ

新作「ウエスタン・スターズ」でブルース・スプリングスティーンが証明したオン・ザ・ロード・ナウ

ノースリーブのシャツ、隆起した上腕二頭筋、汗、拳を突き上げる力強さ。

スプリングスティーンとの
強烈な初対面が頭を離れず、彼のイメージとなった。
一過性のイメージ=ミュージシャンの停滞、つまり「死の罠」。
彼の作品から名フレーズを借りることもなく、
「一体いつの話をしているんだ」
これに尽きるわけで、ファンとしては失格の烙印を押されることになる。

スプリングスティーンに対する印象は言うまでもない80年代、
怪物「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」とその背景にあったMTVの隆盛で育まれた。
フェンダーを抱えた一瞬の跳躍。
シャウトで歪む顔、流れる汗の雫。
ステージ上、右から左へ駆け、全身で転がり回る5時間超えのコンサート。
数万の熱狂がスタジアムを埋める。
アルバムから強力なシングルが次々とカットされる度に、
またか、と思う感情が増幅するほど、ただただ舌を巻いた。
赤白の横縞とブルージーンズで表現したジャケット。
彼こそが時のスターであり、すべてがトゥ・マッチだった。
「グローリー・デイズ」がシングル・カットされた。
いきなり見てしまった頂点。
セールスで示せば、それは最高潮の時。
ハイウェイ「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」の疾走は眩しかった。

私には、
ティーンの時に体験したブルース・スプリングスティーンが
あまりに強烈な残像として残っている。
 

あの時の友達はまだスプリングスティーンを聴き続けているだろうか。
 

「久し振りだ、元気か? スプリングスティーンのこと、まだ聴いているか?
俺はあれからずっと聴いている。
昨年の暮れにライヴ盤『オン・ブロードウェイ』が出たんだ。
NYの狭い劇場で、1年以上続けたライヴの記録さ。
俺たちのよく知っている曲を、
その背景にあった経験を語りながらアコースティックで演っている。
ギターの音色が素晴らしくて、俺の感情を揺さぶるんだ。
2019年、まだ半分を過ぎたところだけれども、今年の愛聴盤だ、
車でずっと聴いている。
移動する景色を眺めながら、
助手席にスプリングスティーンがいて俺に語る、まるで夢の様な体験さ。
父や母のこと、故郷のこと、
バンド・メンバーとの友情や愛、青春、そして希望。
そういったものが作品のコアになっていることをカミングアウトしている。

想い出話? とんでもない。
鬱陶しく纏わりついてくるノスタルジーなんてご免だ。
今の年齢相応のムード、いや、色気。
ピアノで弾き語っている時は色気を感じる。
そういった、新しい『雰囲気』が生まれたことが
清々しく、感動的なんだ。

きっと魔法さ。
’00年以降のアルバムを数枚並べてみると、
共通して存在するポジティヴな語感がある。
『ザ・ライジング』『マジック』『ハイ・ホープス』…
どうだ、誤解しようがないだろう。
シャッフルしたってそう違いがない。
彼は『オン・ブロードウェイ』の冒頭でこんなことを語るんだ。

『今夜、俺は捉えがたい、完全には信じがたい、
俺たちについての生きた証明を提供するためここに来た。
それは俺の魔法』

魔法、マジックさ。
俺たちにかけた魔法、このワン・ワードに、
彼の壮大な想いが感じられるんだ。

また連絡する。
もしも彼の魔法にかかったら、その時は連絡を貰えれば嬉しい」
 
 

「君の魔法にかかったよ、冗談ではなく。
相変わらずで何よりだ。いや、連絡を貰い嬉しかった。

オン・ラインでスプリングスティーンって検索したら、
野生の荒馬がジャケットを躍る
『ウエスタン・スターズ』っていう新作がトップに出たんだ。
君との友情を祝して、勿論購入させて貰ったよ。

君の影響で僕はスプリングスティーンを聴き始めたけれど、
彼には路上の情景を見つめる作品がたくさんあるよね。
ストリートと名の付く曲は当然のこと、
路上を模写したリリックとか、PVだって道路を映していたり。
本当に、山のようにある。

君から教わったことを、未だにはっきり覚えているよ。
僕らがスプリングスティーンに魅せられているように、
彼はビーチ・ボーイズやチャック・ベリーから影響を受けて、
それをターンテーブルにのせて青春時代を過ごしたそうだ、って。

『明日なき暴走』で彼等のイメージ、
ホット・ロッドや道路を自分の曲に取り入れたかった。
でも彼が陽光眩しい青春や
ビートが耳打つ喧騒に根差したなぞらえに徹しなかったのは、
開拓者達の優れた音楽性を敬愛し、雑多に吸収しつつも、
あらゆる人や文化や思想が衝突を繰り返して、
感情が交錯し合う路上を見つめることで
自分の音楽にしっくりくる誠実な文体を生み出し
オリジナリティとして確立したかったという
貪欲な姿勢と客観性を持ち合わせていたからなんだ、って
君が力説していたこと、本当に可笑しかったけれど、
はっきりと覚えている。

おっと、話が逸れた。ノスタルジーは厳禁だったね。
今のスプリングスティーンだった。

でもね、君の力説はこれからもずっと忘れない、と改めて思ったんだ。
と言うのは、スプリングスティーンは今も路上を表現しているじゃないか。
新作『ウェスタン・スターズ』は全編オン・ザ・ロード、旅する物語で、
登場する連中は絶えず動き続けている。
そこには薬に頼る俳優や鉄の棒が入った脚を引き摺るスタント・マン、
重ねた嘘の数だけ小石を地面に吐き捨てる男達が登場する。
三人称達をスプリングスティーンが見つめ、書き綴っている。
登場人物は皆、揃いに揃ってボロボロで、何かを失っていて滑稽さ。
でも、それがリアルだし、まぎれもない現実だよ。
そして、三人称を装っているようだけれども、
僕には彼らがスプリングスティーン自身に見えてならないんだ。
『ウエスタン・スターズ』は登場する者達の旅する物語だし、
スプリングスティーンが生きているロング・ロードでもある。
終わらないんだ。止まらない。

もう一つ、強く感じたことがあるんだ。
彼は冷静な視線で見つめている筈なのに、
曲としてアウトプットされると何故か劇的で、視覚的なVR映像を結ぶ。
聴いていると目の前に映像が浮かび上がってくる。
『チェイシン・ワイルド・ホーセズ』では
ジャケットの野生馬が砂埃を舞い上げながら、スローモーションで風と躍り出すんだ。

『ストーンズ』ではこう言っているよ、『俺はハイウェイを歩く』って。
彼はまだハイウェイの上にいる。

スプリングスティーンのライヴで再会しよう。
車で迎えに行くよ。
道中長いけれど、気ままに行こう。
風を受けて、センターラインを追いかけ、
『ウエスタン・スターズ』を見つめながら」

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