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石巻に届いた 宮本浩次の歌声

2019 転がる、詩 石巻市総合体育館にて

 2019年8月3日。私は出身地の石巻にいた。Reborn-Art Festivalのオープニングイベント「転がる、詩」を鑑賞するためだ。

 私は、エレファントカシマシの宮本浩次が好きだ。容姿も然ることがながら歌声が私の心を鷲掴みにしてくるからだ。東京の日比谷野外音楽堂や日本武道館、各種フェス、ツアー等、可能な限り歌声とその圧倒的パフォーマンスを楽しみに行く。

 ただ、正直なところ、石巻市総合体育館で宮本浩次の歌声を聴くということ、震災復興関連イベントに参加して歌声を披露してくれるということ、それ自体に抵抗があった。もし、単純にフェスがあるからとか小さいライブハウスだけを回るツアーとか震災関連じゃなければ抵抗はなかった。

 日本各地で2011.3.11以前も以降も自然災害に見舞われる地域があり、まだまだ復興途中の地域はある。地域外に住んでいる住民にも歴史の一つとして認識されてはいるが、政府や自治体からの支援もなくなっているにも関わらず、自立がままならない報道されない人々がたくさんいるであろうことが容易に想像できるからだ。

 3.11は確かに未曽有の災害の一つである。しかし、この災害があったからこそ開催されるイベントというのは、その災害により命や財産、友人等の築きあげてきたモノの犠牲の上に成り立つ。その犠牲の下、私は歌声を楽しみに行っていいのだろうか。
 それゆえ、各種興業会社からのお薦めチケットの連絡を読む度に応募するかどうか非常に悩んだ。Reborn-Art Festival自体が地元民にあまり理解されてもいない。芸術自体楽しむバックボーンが乏しいからなのか、地元民との交流が一部だけだからなのか。そのオープニングイベントに人気アーティストが来たからといって、活性化や復興にはならないのではないか等と自問する日々が続いた。
 それでも、私はチケットを手にした。
 石巻市内でも震災や津波のことを風化させてはいけない。もちろん日本各地、世界各地においても、津波が来たら「つなみてんでんこ」の教えを伝え続ける必要がある。地震の後には津波が来るという可能性があるということ。そしてその場合は、家族や友人、愛するものを迎えに行ってはいけない。それぞれがきちんと高いところに避難をする。それぞれがきちんと避難することで命を守ることができる。そして再会できるのだ。
 人は忘れる生き物だ。震災後あれだけ準備していた非常食は期限が切れ、補充をしていない。被災したにもかかわらず。
 こうして人は忘れていく。なおさら復興関連イベントには意味がある。そう思えた。Reborn-Art Festival自体が浸透していくには時間がかかるだろう。経済的な余裕と時間的余裕と身体的余裕があって初めて心の復興に目を向けることができるのだから。

 参加すると決め、幸運にもチケットを入手することができた私は、宮本浩次さんへのプレゼントを準備した。ギターストラップだ。石巻に来てくれたことへの感謝のメッセージを添え会場のプレゼントボックスに入れた。

 入場した。

 私が学生時代に好きな人のバスケの応援や家族のスポーツの観戦や表彰式など色々と見てきた石巻市総合体育館。地震と津波の被害に遭われた方のご遺体安置所だった場所。ブルーシートが敷かれている。靴を履いたまま体育館に入ることができるため。震災後にブルーシートが各地で必要と言われ、私も自転車であちこち探し回った。そんなことを思い出す。そして並ぶパイプイス。

 座席に座る。
 暗転。
 華やかなステージが始まる。
 青葉市子さん、Salyuさんの幻想的な歌声。

 小林武史さんの紹介で登場するパワーが溢れまくっている宮本浩次さんが登場した。一人だし恥ずかし気に登場するのかな…などと想像していたが明るい登場。

 一曲目。
 私の愛聴盤からの選曲で嬉しかった。
 二曲目。
 私が火葬されるときにはこの曲をかけて欲しいと娘たちに託している。新春ライブの時にはいつもとは違う曲調ゆえ手を振ることができなかった。だから、前奏が流れた瞬間に感動が頂点に達したと思った。ただ、ワンマンではない。周りはどちらかというと櫻井さんのファンみたいだ。サビの部分でエレファントカシマシのライブでは定番になっている片手を上げて左右に手を振るという動きを率先して行う者がいなかった。私は気恥ずかしかったが、サビの部分で思い切り手を振り始めた。私の席からは宮本浩次さんのアバラや髭などが粒さに見える距離だった。私が手を振り始める動きに気が付いてくれたのだろうか、目が合った気がした。そして宮本浩次さんも観客に向かい手を振り始めてくれた。会場全体がサビの部分で手を振り始め一体となった感じがした。
 三曲目MC。
 9.11テロの直後にNYに行って小林武史さんとレコーディングをした話。既知だったがこのエピソードを聞くことが出来るのは3.11繋がりだからかななどと感慨深くなり。
 震災があったからこそ今こうして当たり前の日常を送ることが出来ている。
 しっとりと丁寧に歌い上げてくれて歌詞が染み入ってくる。日々に感謝しなければいけないということを実感した。
 四曲目。宮本浩次さん自身の作詞作曲ではないのに、この曲。「転がる、詩」という「ことば」を届けることを目的としているイベントでの選曲。30周年ベスト盤にも収録されている。本当にこの曲の歌詞、詩、単語の妙が宮本さん好きなのだろうなどと思いを馳せながら聴く。
 五曲目。MVの狂気が憑依したかのようなパワフルな表現。誕生日イベントのリキッドルームに行くことは叶わなかったから生歌を聴くことが出来て感動した。できればオハラ☆ブレイクでアルペジオで聴きたいなどと思った。
 六曲目。新曲。毎日繰り返しここのところ聴いている。生放送の「音楽の日」というテレビ番組で生歌を披露してくれていたが、本当に目の当たりにするのは初めてだ。後半にどんどんハイトーンになっていくのだが全身で力強く表現していた。宮本さん自身が太陽となって私たちを高みへと引っ張っていってくれるような気がした。
 七曲目。
 はっきり言って想像していなかった選曲。
 ソロ名義の曲を披露したので終わりになったらアンコールで代表曲を歌って終わりかなと勝手ながら想像していたのだ。しかし、この曲のタイトルこそ宮本さんに送りたいと思った。
 八曲目。盛り上がった!代表曲。この曲を作るときのプロデューサーさんと一緒に石巻にこの曲を届けてくれたような気がした。流された町、瓦礫の山、気を付けないといけない足元。電気が復旧してなかった頃。見上げた時に月が見えたことを思い出した。下ばかり見ていたら気づかないんだ。
 九曲目。最後の曲だった。
 「悲しみの果て」
 石巻で聴く悲しみの果ては必聴だった。
 私には想像もできないような悲しみや苦しみを抱えていた人はいる。被災レベルでいえば私は大したことない。それでも、変わり果てた町を見たとき筆舌しがたい光景が私の目の前に拡がっていた。悲しみの果ては水平線とも地平線とも判別できないようなこういう景色を目の当たりにしたときに抱く感情なのだろうかと感じた。
 宮本さんが櫻井和寿さんを紹介してステージを後にする。
 桜井さんの歌声を聴きながら宮本さんの余韻に浸る。
 悲しみの果て その後は櫻井さんの爽やかなのびやかな歌声が気持ちを軽くしてくれた。

 そして翌日。
 私は上記内容のステージの感想文ともいえないような稚拙な文章を感情の思いのままに乱筆乱文で便箋に書き出した。そして、これからも「引きづり回してください」、いつまでもどこまでもついていきますと思いの丈を書き連ねた。
 幸運にも連日会場に入場出来た私は、プレゼントボックスにこの手紙を入れた。内容は正確には覚えていない。

 そして始まるステージ。
 セットリストは昨日把握している。
 今度は曲の流れに集中しよう。

 前日はまったく気が付かなかった。
 全体の構成。
 孤独になっても誰かがいるよ。
 さよならしていいんだよ。
 日常を送ろう。
 私が死んでも何も変わらない。生きていこう。
 愛するものと引き裂かれて生きていくときには
 涙が出たっていいんだよ。
 生きているんだ。
 笑顔の下で泣いていてもいいんだ。
 彷徨っても陽は昇る。
 あなたたのために歌を届けるよ。
 見上げよう。
 悲しみの果てに見えてくる希望。

 全体的に石巻への希望を歌ってくれていた。
 そう感じた。

 そして。。。
 宮本さんに私の手紙が届いたのだろうか。
 二曲目で感激したという私のメッセージが届いたのだろうか。二曲目の時に率先して手を振ってくれた。これまでに見たこともないくらいに体を左へ右へと倒して手を振ってくれた。
 感動が溢れて涙が止まらなかった。
 それから。。。
 六曲目。
 私が「引きづり回して」。って書いたからなのか、アンサーソングだったのか?歌詞の一部を変更してくれたと思う。びっくりし過ぎて涙が次から次へと出てくる。
 最後にトリの曲。
 「石巻のみんなに捧げます」と言葉を添えて歌ってくれた。
  もしも私の手紙に託した気持ちが伝わったのだったらなんて素敵なお返事なんだろう。もちろん、お返事ではないだろうがそう思っておきたい。

 悲しみの果ては希望の曲だ。

 それからしばらくは感情や気持ちがまとまらなかった。正直に言えばまだまとまっていない。ただ感謝の気持ちを伝えたい。そんな思いでいっぱいだ。

 Reborn-Art Festival これからも続く。心の復興。
 転石苔むさず。
 
 
 宮本さんは ステージ下に下りて観客とハイタッチをした。その時にステージに転がりあがっていた。転石といっても重力に逆らうように苔むさずにパフォーマンスをし続けてくれるのであろう。
 
 転がる、詩
 転がる、みやじ

 ありがとうございました。

 
 

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