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苦しみと、救済と

the HIATUSと細美武士の10年間

Save The World。
the HIATUSの1stアルバム「Trash We’d Love」のアナグラムだ。
ELLEGARDENが活動を休止し、細美武士のソロプロジェクトとしてスタートしたバンドは、自らの音楽で世界を救おうとした。

しかし実際に楽曲を聴くと必ずしも明るい曲ばかりでは無く、タイトルにも幽霊を意味する”Ghost”や孤独を意味する”Lone”、「堕天」、などどちらかと言えばネガティブなイメージを持たせる言葉が使われている。
細美武士はインタビューで歌詞にメッセージ性はそれほど無いと語っているが、初期のthe HIATUSは間違いなく正の感情を抱かせるバンドではなかった。

歌詞を見るとよりそのネガティブさが目立つ。
「Trash~」の1曲目である「Ghost In The Rain」はイントロこそキーボードの軽やかなメロディーから入っているがサビでは

“I’m a ghost in the rain
The rainbow
You can’t discern
I’m standing there”
(僕は雨に立つ亡霊

君は僕を見分けられない)

と、自分を誰にも見つけてもらえない様を歌っている。

同じく「Little Odyssey」では

“The spaceship is gone
Carried away
The spaceship is gone
Leaves you behind”
(宇宙船は行ってしまった
連れ去られてしまった
宇宙船は行ってしまった
君を残して)

“But nothing ever is found in this empty space”
(それでも何ひとつ見つからない この空虚な空間には)

と歌い、「The Flare」では

“Refuse all
I don’t believe no more
Things start to fail inside me”
(全てを拒絶するよ
僕はもう信じない
僕の中で崩壊が始まる)

と、孤独感が伝わってくる歌詞が多く見受けられる。

また、アルバムのラストを飾る「Twisted Maple Trees」は静かなイントロから徐々に楽器が加わって行き、終盤に向けて混沌としていくのだが、歌われている歌詞はやはり暗い。

“You walk two steps ahead of my bare feet”
(君は裸足の僕の2歩先を歩いてる)

“Dark sky is seen
Through twisted maple trees
I don’t know why but
I hope you don’t look back”
(ねじれた楓の木々の間から
暗い空が見えていて
なぜだか僕は
君が振り返らないことを願ってる)

“You are fine
I’m wrong
It’s always on my side
I’m dead
My fault
You can not forgive me”
(君は大丈夫だよ
間違ってるのは僕だ
いつも僕の側の問題なんだ
僕はもうおしまいだ
やっちゃった
君は僕を許せない)

孤独感や自責の念が感じられ、ELLEGARDEN休止後の細美武士の辛さや苦悩が滲み出ているように感じられる。

この傾向は2ndアルバムの「ANOMALY」でも同じように見られる。
1曲目の「The Ivy」ではイントロから音が塊となってなだれ込み、メロディーも全体的に暗く、重苦しい雰囲気を醸し出しているが、曲のラストでは一転して静かになり、苦しみから解放されたかのような印象を受ける。

“Keep holding on
You said to me
I’ll breath out all my sin”
(持ちこたえるのと
君が言った
僕は自分の罪を吐き出す)

と歌っていることから苦しんでいることがわかるが、

“You take my breath away
My eyes are narrowed by the glare
And you take the pain away”
(僕は息を呑み
そのまばゆい光に目を細める
僕を苦しみから救ってくれた)

“There’s not much to say
She’s saving the world inside my head”
(あまり言葉にすることはないんだ
彼女は僕の頭の中の世界を救ってくれる)

と、その苦しみから救われている。
”Ivy”は俗語として自らを愛してくれる女性という意味も持つことから、その存在が自らの救いとなっていることがわかる。

苦しみやネガティブな感情は「Trash~」からそれほど変わってはいないが、この救いは一作目には見られなかったものだ。

“Our Secret Spot Tour”初日のZepp TokyoでのMCやインタビューなどでも話していたように、細美武士はこの時期周囲が全て敵に見え、パニック障害に陥っていたかもしれないと語っていた。
それが顕著に表れているのが「Insomnia」ではないだろうか。
ライブでもよく演奏され、非常に盛り上がるこの曲ではあるが、タイトルは不眠症を意味し、歌詞にも不安が滲み出ている。

“I wake up from a nightmare
Where we had our best days
And wonder where it has gone wrong”
(悪い夢をみてた
僕らが最も幸せだった時の夢
いったいどこで間違ったんだろう)

”Save me”(助けて)と連呼するサビはライブで最も盛り上がる部分だが、作詞した細美武士の精神状態を表していたのだろうとは想像がつく。
1stアルバムで世界を救おうとした細美武士は自ら救いを求めるほど追い詰められていたのでは無いか。

しかし3rdアルバム「A World Of Pandemonium」ではそれまでのthe HIATUSのサウンドから変化が生じ、より音楽性に重きを置いたように感じられる。

アルバムタイトルこそ「大混乱の世界」という意味ではあるが、音楽的に激しく、混乱を感じさせる「The Ivy」のような曲はなく、「Superblock」のようにダンサブルな曲や、「Souls feat. Jamie Blake」や「Shimmer」のようにゆったりとノれる、それまでのthe HIATUSにはなかった側面を感じられる。

また、「A World~」の細美武士の詞で特徴的に感じるのが「Bittersweet/Hatching Mayflies」だ。

“You found me
You healed me
You touched me”
(君は僕を見つけてくれて
僕を癒やしてくれて
僕に触れてくれた)

「Ghost In The Rain」では見つけてもらえない孤独を歌っていた細美武士がこの曲では見つけてもらい救われることを歌っていることはthe HIATUSにとって大きな分岐点になったのではないだろうか。

その後のアルバム「Keeper Of The Flame」、そして「Hands Of Gravity」で彼らは邦楽ロックシーンにおける唯一無二の地位を確固たるものにしたように思う。
歌詞も暗いものが少なくなり、聴いていてメロディーと歌詞がスッと入ってくる曲が格段に増えた。

また、「Insomnia」で助けを求めていた細美武士が「Keeper~」収録の「Tales Of Sorrow Street」では

“Just don’t mind You’ll be fine
Don’t be a stranger I’m always here”
(気にしないで あなたは大丈夫
いつでも来て 私はいつもここにいる)

と、自らの存在が他者を救うような歌詞を書いている。
このような細美自身の変化がthe HIATUSのバンドとしての音楽を変化させていったのでは無いだろうか。

6thアルバム「Our Secret Spot」はこれまでのどの作品よりも聴きやすく、聴いていて心地よく感じる。

無駄な音が全て削ぎ落とされ、メロディーと歌詞が一体となって入ってくる、これぞthe HIATUSというようなサウンドではないだろうか。
初期のように楽器同士がぶつかり合って曲を作るのではなく、5人の奏でる音がそれぞれ曲を完成させるための一つのピースとなっているようだ。

印象的な歌詞としては「Servant」と「Get Into Action」がある。
「Servant」のサビは、自らが救いを求めていた頃とは真逆のような歌詞となっている。

“Let me get on now
I will go with you
Let me get on now
What is wrong with you
Let me get on now
I will hit the lights and get you out
Just let me hear the stories
Just let me hold it one time
Just let me kill the pain that you are feeling all this time”
(任せとけって
一緒に行くから
任せとけって
どうしたんだよ
任せとけって
電球を叩き割って連れ出してやるから
君の話を聞かせてくれ
いったん僕に渡してみなよ
君が最近ずっと感じてた痛みを止めさせてくれよ)

また、「Get Into Action」では

“Say don’t live in the past
Just don’t wait and go now”
(過去には生きないって
待ってないで今行こうよ)

と、過去を引きずるのではなく未来を見る、非常に前向きな歌詞を歌っている。
これはELLEGARDENの休止後精神的にきつい時期があった細美自身に向けた歌詞のようにも捉えられる。

「Our Secret Spot」は今後のthe HIATUSの音楽が新たなステージに進むためのアルバムになったように感じた。

アルバムが発売されて1週間後、「Our Secret Spot Tour」の初日、Zepp Tokyo公演に行ってきた。
アルバム曲は初披露ということもあり所々危うい場面もあったが5人は終始楽しそうに演奏し、バンドとしての状態の良さが感じられた。

ライブを通じて非常に印象的だったのが、細美武士がMCで何度も観客への感謝を伝えていたことだ。
その中でもELLEGARDEN休止後、全く違った音楽性のバンドにも関わらず、10年間も付いて来てくれたことへの感謝が最も大きかったように感じる。

細美さん。
感謝するのはこっちの方だよ。
the HIATUSの音楽はまだ世界は救えてないかもしれないけど、間違いなくあの場に居た人たちのことは救ってくれたから。

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