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2017年6月19日

一繋 (30歳)

現実を拡張する映像表現と変わらない肉体表現

uchuu,「未来都市-mirai city-the3”r”d」にみるライブの進化系

 これが何年、あるいは何十年後のライブのスタンダードだ。
 横浜DMM VR THEATERで行われた、uchuu,主催「未来都市-mirai city-the3”r”d」を観て、そう思った。
 横浜DMM VR THEATERは世界初の3Dホログラム専用の常設劇場で、3Dメガネを使用せずに立体映像――つまりVRを体験できる。特筆しておきたいのは、映像表現を売りとしている劇場でありながら、素人でも違いのわかる音響の良さだ。9.1チャンネルのサラウンド・システムが設置されており、音響面でも一聴の価値がある。ここでuchuu,は、ロックバンドとして初めてライブを行った。
 VJ(video jockey:ライブ映像の演出者)に『SI(G)N SEKAI』のミュージックビデオよりコラボレーションしているchaosgrooveを迎えたライブは、まさに音楽と映像が融合した新しい表現方法だった。

 会場に入ると、すでにスクリーンには立体映像が「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する使徒ラミエルのように浮かんでいた。ステージの前に透明なスクリーンが張られ、そこに映像が浮かんでいる格好だ。ちょうど一年前に、uchuu,とchaosgrooveが下北沢MOSAiCで行った「 “音楽と映像”の世界」にも参加したが、ライブハウスで設置できる機材では、正直なところ少々特殊な映像演出くらいにしか思えなかった。やはり、専用劇場だけあって映像の立体感が違う。
 SEにはタイプライターやドリルなどの環境音とともに、機械的な声色でメッセージが読み上げられていた。映像と音声によって、遊園地の体感型アトラクションのような雰囲気が作り上げられており、最新設備のなかで音楽と映像の融合を体験できるのだと胸が高鳴った。

 そして定刻より少し遅れて、メンバーが静かにスクリーンの向こうに姿を現す。この日のuchuu,は、直前のNao(Key)の脱退を受けて4人編成でライブに臨んだ。uchuu,の楽曲においてキーボードが印象的に作用することもあってか、本来はボーカル・ギターであるKとベースのsujinがキーボードを交互に担当するという変則的な編成を組み、ライブがスタートした。
 ステージから溢れだすような光の演出と予想を上回る立体的な音像に衝撃を受けつつも、観客のあいだには「この劇場はライブハウスのように楽しんでいいのだろうか」という戸惑いがあったと思う。それを察してか、2曲目の『TAKE ONE』でKがスタンディングを促す。
 uchuu,のライブは、とても肉体的だ。Kを中心として、Airi (Dr.)やHiroshi(Perc.)が踊るようなプレイで観客を煽る。そこに幾何学的な映像が客席に飛び出すように投影され、視覚的にも楽しませてくれる。なぜ生きた人間がVR THEATERで演奏するのかと疑問に思う人もいるかもしれないが、このライブが明確な答えになったと思う。ARによって、人間の表現を拡張できるからだ。
 とくに、ライブ中盤にKが『2時35分』を弾き語りした場面が印象的だった。スクリーンの大部分で光の雨のような映像を流すことで、ドラムセットやキーボードを隠し、ステージをKだけの空間に変えてしまったのだ。それまでの演出は、透明のスクリーンによってステージ全体が見渡せるうえで投影される映像だったが、ステージを隠すこともできたのだと気づかされる。なんてことのない演出に思えるかもしれないが、映像を桜吹雪に変えれば、桜並木のなかで弾き語りをしているようにも見えるだろうし、降りしきる雨に変えれば、雨をモチーフにした楽曲がより映えるだろう。VR THEATERでの表現の奥行きを感じた演出だった。

 ここで伝えたいのは、アーティストが映像の中に入っているように見えるのではなく、目の前にいるアーティストの周囲が変質しているということだ。
 ライブにおいて観客は、ミュージックビデオを観に来ているのではなく、人間の不確定でリアルタイムの表現を楽しみに来ている。観客が盛り上がればアーティストも盛り上がるし、その逆もそう。ARによるライブは映像作品ではなく、人間が行うライブの可能性を広げるのだ。
 以前、顔出しをしていないアーティストのライブで、キャラクターをスクリーンに投影し、その後ろで生歌唱を行うというライブを見たことがあるが、はっきり言って生で観る意義を感じなかった。人工知能によって、観客の反応によってキャラクターのパフォーマンスが変わるのであれば話は別だが、キャラクターがスクリーンで歌って踊っても、それは台本がある映像作品にすぎない。
 やはりライブは、肉体的に行われてほしい。アンコールで行われた『HAPPY』のシンガロングのように、アーティストは観客を煽り、観客は手を上げて声を返す。Kのライブ中の言葉を借りれば、ライブは「アーティストと観客で作り上げるもの」だ。

 ARによるライブ演出は、人を排除する技術ではなく、人の表現を拡張する。多くのアーティストがライブに映像演出を取り入れることを考えれば、いずれミラーボールやレーザービームと同じように普及し、ステージにおける表現方法を広げていくだろう。ステージ上を変質させるような演出はより身近になり、技法や発想によって現実は拡張され、ライブの可能性は宇宙のように広がるはずだ。そう遠くない未来に、uchuu,が行った革新的なライブはスタンダードになるだろう。

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