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癒しのトイカプセル

フジファブリックが沁みちゃった夏

2018年の夏は幻みたいに逃げていった。
私は住宅会社に勤めている。主にリノベーションのプランとコーディネートを担当する立場だが、2018年年始から、会社が40年来基本スタイルを変えずに営業してきた拠点の全面リニューアルにあたり、内装担当として与えられたお題=やたら大きいボリュームのモデルハウスをどう見せるか、どう使うかどんな付加価値をつけるのか、と格闘していた。8月の第1週にオープンしお盆を挟んで毎週何らかのイベントを打つ。今後の展開も頭の中でシミュレートしながら。私はいつも以上に私生活に無頓着になり、集中して取り組んでも欲しい結論にたどり着けている実感は持てず、精神的に珍しく疲れ切っていたと思う。
建物にはIOTなどの新技術も盛り込まれており、メーカー側からの大プッシュで半信半疑採用したBluetooth接続のスピーカー付きダウンライト、コレがなかなか良い。大きめのLDKのキッチンに仕込む。みんなが見ているテレビの音をキッチン仕事をしながらも共有できる。その利便性もさることながら、どこから流れているのか判らない降りそそぐ音楽の心地よさは格別なのだ。
何とかそれなりに盛況のうちに迎えた8月終わりの日曜日の夕方、催事撤収モードの中、何となくフジファブリックの「若者のすべて」を大音量でかけてみた。いつまでも容赦ない暑さの夏だったが、太陽の動きは確実に秋の角度に入りつつある。6時手前にもなるとコートハウスの中庭に切り取られたプライベートスカイにも夕方らしい光が滑り込んできていた。そんな中、イントロのチャイムが響いて中庭に面した(このモデルの見せ場一つでもある)大きな吹き抜けから空に溶けてゆく。「夕方にチャイムの響く」郊外の田園風景の風を一瞬感じる。くたびれ過ぎたココロ何かがじんわり沁みて行き、リアリティを失っていた時間の経過と今が漸く重なった。
「真夏のピークが去った 天気予報士がテレビで言ってた」
メロディーが始まると、片付けを手伝ってくれていたこの間まで学生してた営業が口笛を合わせている。この歌は2007年の作品だが、夏の終わりを感じる季節になると毎年FMで耳にしているような気がする。色々な場所で色々な世代の人が一瞬郊外の空に溶けるチャイムを思い、今年最後の花火を見ながらもう会えないはずの人との思いかけない再会にドギマギするのだ。この夏もFMで幾度となく耳にする中、改めて気になり「初めてのフジファブリック」プレイリストをダウンロードしたばかりだった。
この曲が発表時アルバムの中でどういう風に存在していたのか気になって、フルアルバム『TEENAGER』を取得。冒頭の「ペダル」で自転車をこぐギターにノックアウトされる。聴いたことのないフレーズや世界観が繰り出される面白さが期待通り過ぎて、ダウンロードサービスの充実したご時世に感謝しつつ全てのアルバム手を伸ばすのにそんなに時間はかからなかった。順番は滅茶苦茶で、初期の「茜色の夕日」や「赤黄色の金木犀」の景色に浸り、昨年リリースされた「Water Lily Flower」の美しいアルペジオに水面のきらめきを見てうっとりする。アルバム『STAR』の、とりわけ「ECHO」の喪失感に気がついて色々調べるまで、私が初めにやられた「TEENAGER」の頃のフロントマン志村君の突然の死という悲しい離脱を経て、新生フジファブリックとして既に10年近く活動を続けているというプロフィールも、全く知らなかった。改めて聞き直すと現リードボーカル山内君の声や彼らが作り出す世界は個性的でありながら透明感や軽やかさが身上な気がする。志村君は少し昭和の文壇的なダークで湿ったイメージを捻れたボーカルに載せる。唯一無二な感じはカリスマといっても良いかもしれない。だからこそ、志村君がいなくなった直後、バンドを続けるかすら模索しながら纏められた『MUSIC』の曲、志村君の替わりに山内君が初めてリードをとった「会いに」から、『STAR』へ至る日々を思うと、彼らを支える自身も含めたファンを含めたたくさんの人の涙を思わずにいられない。ボーカル自体は志村君も山内君ももの凄く達者なわけではない(怒られるかもしれないが)。不思議なことにその揺らぎすら、生で体験すると圧倒される確かな演奏技術が、魅力の一つに変えてしまう。2人のキーがほぼ同じことはフジファブリックを愛する人達のための奇跡のようなものかもしれない。「その時」の彼ら自身の感情やファンや評価の声も全て乗り越えて今の彼らがいる。相変わらずカラフルで、でも疲れてる時染み込む哀愁も漂わせて。新しいアルバム『F』も朝焼けの光の中に立ち止まらない彼らの想いが感じられる、素晴らしい出来映えだった。出会うたびに驚かせてくれる景色が見える聞いたことのない音。妄想を飛ばす余白のある歌詞。寄り添うような声と、一貫して感じられる哀愁。それらにパッケージングされたガチャガチャのカプセルトイみたいな作品群。一つ一つの世界観は立っているのに、確かな演奏技術が私のような遅れてきたファンも巻き込むフジの音に完成させる。取り出すと、どれも塗り薬のようにじんわり傷口に効く優しさを感じる。
あれから丁度一年が過ぎた。
今年も強烈な暑さとともに夏が過ぎてゆく。
昨年出会ってしまったカラフルなカプセルトイは、相変わらず私のプレイリストをジャックしたまま。自分の状態で響くポイントが少しズレたりする感覚を楽しんだり、新しい景色を感じたり、そしてやっぱり時に励まされつつ。日常の途切れることのない課題を片付けつつ、ホールでどんなに完成形を見せてくれるのか心待ちにしている私がいる。

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