2234 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

土岐麻子『PINK』がもたらす福音

育児・子育て奮闘中の Kung Fu Girl

日常のひと時を、洗練された気分にリフレッシュさせてくれるロゼスパークリング。ひと口、ひと口、ゆっくりゴクッ、シュワっと味わう贅沢…

土岐麻子の『PINK』はまさにそんな気分にさせてくれる。全10曲それぞれが、至福の一瞬と行き場のない切なさを秘めて揺らぎながら、グラスのなかで小さく弾ける泡のようにきらめいている。華奢な細いグラスというより、路地裏の雑貨店に置いてあるタンブラーに注がれるかのような、いわゆるこなれ感のある曲たち。聴くだけで気分のセンスが磨かれるアルバムだ。

一方、リスナーである私の現実は―
目下3人の育児と子育て奮闘の真っ最中である。オムツ、しーしー、哺乳瓶…

シティポップ感からまるでかけ離れたモノとコトバに囲まれた日々を送っている最中なのだが、もうすぐ4歳になる息子が最近、土岐麻子の音楽と戯れている。写真と音楽専用に使い始めた昔のiPhoneを片手に、そこから流れてくるリズムにあわせてベッドの上をぴょんぴょん跳ね回っているのだ。

ヘイボーイ!キャーナハブァ……フライヌードゥーズ!キャーナハブァ…フライヌードゥーズ!

意味も分からず耳コピで無邪気に口ずさんでいる様子を見ているとなんだか可笑しくなってくる。確かにベッドを跳ね回るにはもってこいのノリだ。親の音楽の好みは遺伝するのだろうか?「あーっ、、布団の上に乗らないでって言ったでしょ!」と叫びながらも「あの声」、「あの歌詞」が断片的に耳に入ってくるささやかな至福のときでもあるのだ。オニババ化はしばしヒートダウンされる。
音楽のチカラはやはりすごい。

アルバムはCDではなくiTunes Storeで購入したので、ライナーノーツは未だに読めていない。音楽そのものに詳しくないので表現が稚拙になるのは分かっていても、自分の言葉で書かずにはいられなくなった。

どの曲も、都会の輝きと背中合わせの孤独感が感じられて魅惑的だが、歌詞と共に、切なすぎる傑作はやはり「脂肪」だ。横文字のタイトルのなか、ひと際目立つこの漢字。歌詞の内容と同じく、キメ過ぎないところがかっこいい。ファッションでいうところのいわゆる抜け感のような。そういえば脂肪という字はニクヅキがついていたんだなぁ〜…と深読みしてしまう。ロマンチックな夜もあれば、「脂肪」のようにひとり甘い物やジャンクフードに逃げるような夜もあったりするのが現実。その味は「バーベキュー味」ってところがほどよいジャンキーさである。

アルバムのタイトルでもある「PINK」は、甘くなりすぎたり下品に陥りやすい色を、皮膚の下の欲望に例えてクールに賛美している。
そしてあふれんばかりの薔薇色の幸福感で充ち満ちている恋愛ドラマのような「Valentaine」。ひとり旅先でSNSをオフにし、鎧を脱いだ大人女子のつぶやきのような「Fried Noodles」。ラストの「Peppermint Town」は悲しさのなかにも凜としたたたずまいが感じられ、パリッとした薄いミントチョコのような後味。男目線で描いた「Blue Moon」は美しく悲しい情景。
全体的に、シンプルでもはっとするフレーズがビートにのっていて爽快な曲が揃っている。あの独特で有機的な声が無機質な洗練を受けて加工された感も楽しめる。

都会に住む人間の輝き。それはセンスやプライドと共に、内面から弾けて発光するものなのだろう。喜び、悲しみ、不安、弱さ、孤独感の光と影のコントラストが強ければ強いほど、輝くのかもしれない。「City Lights」の世界のように。
今の自分の実生活からかけ離れている世界だからこそ、それが洗練された魅力に感じられる。そんな空気をまとっていたい、と常に願う地方の Kung Fu Girl は、育児&子育てに奮闘する日々の中で、ふと土岐マジックで脳内をPinkに発光されるのだ。

  カンフー・ガール ぷかぷかと
  明日の風に 身を任せ
  子、I WA KU「惑わずたたかえ」
  Never be afraid!
 
 

(この文章は、3番目の子にミルクをあげて寝かしつけた後にiPhoneのメモ機能に書き綴ったものである。)

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい