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ウワノソラ7 YEARS LIVE(2019.8.3)レポート

丹念さが寂しかった夜

8月3日、東京・青山の月見ル君想フでウワノソラ7 YEARS LIVEが開催された。
4年ぶり2回目、東京では初となる貴重なライブだった。
会場に着いたのは開演30分くらい前。入場制限があり、数人が並んで待っている。
予想はしてたが年齢層が幅広い。20代くらいから60代くらいとみえる人がいる。
入口に足を踏み入れたとたん、甘いファルセットボイスに出迎えられる。
安部恭弘「アイリーン」。会場のBGMだ。
その後も場内ではハイ・ファイ・セット、南佳孝といったウワノソラのルーツ、70〜80年代シティポップが流れていた。
ステージのあるB2フロアに降りると、客席はすし詰め状態。
ある程度スペースに余裕があるだろうと高をくくっていたが、甘かった。居場所の確保に難儀する。
おまけに暑い。人の多さのせいか、空調が機能してない。むわっとした湿気に充ちた息苦しさのなか、汗だくになりながらはじまるのを待つ。
時間になると「渚まで」のコーラスがきこえてくる。
先にステージに上がったドラムが16ビートを叩きはじめる。乾いた音に体を揺らしていると、メンバー登場。
ウワノソラは角谷博栄といえもとめぐみの2人によるユニットだが、サポートメンバーが10人もいる。客席と同様、ステージもぎゅうぎゅう詰めだ。
ボーカルのいえもとがセンターに立つと演奏が固まって、「Sweet Serenade」の全貌が見えてきた。今年の6月にリリースされたアルバム「夜霧」からの新曲だ。
はつらつとしたイメージのウワノソラだったが、その演奏は思った以上に端正。今日のために周到に準備してきたのが窺える。
ほどよい緊張感のなか「摩天楼」が続く。間奏にアル・クーパーの「ジョリー」のイントロが挿入されるところで、メンバーらが顔を見合わせて笑う。
「オー、ジョリー!」の合いの手を入れたくてウズウズする。
それから1stと同じ曲順で「さよなら麦わら帽子」が披露されたあと、いえもとのあいさつで客席が沸く。
普通の若手ならここからノリのいい曲でたたみかけるところだが、ウワノソラは序盤からゆったり、じっくり聴かせる方向に行く。
別名義のウワノソラ’67でリリースした3連のロッカ・バラード「雨降る部屋で」で会場を包むようなムードをつくり、AORエッセンスの強い「ロキシーについて」につなぐと、エレガントな響きのピアノとサックスが観客を酔わせる。もちろん熱唱を抑えたボーカルもいい。
つづいて1stから「現金に体を張れ」。シュガー・ベイブの「SUGAR」にインスパイアされたと思われる軽妙なリズムはライブ向き。
間奏の手拍子からクラーベにリズムが変化。一斉にパーカッションが打ち鳴らされ、演奏する気持ちのよさが伝わってきて楽しい。
昂ぶってきた気分にシャワーのように浴びせられるのは「シェリーに首ったけ」。
ドン、ド、ドン、とロネッツの「BE MY BABY」なドラムが響くと、軽やかなリズムに重層的な音が乗ったイントロが奏でられる。
本来はドラム、ギター、ピアノが複数の大瀧詠一スタイル。それをこのメンバーでやり切った。厚みを出すのにかなり苦心したのではないかと思う。
「月に吠えたのさ」と歌い「月に吠える声」が入るところで誰も声を上げなかったが、これは今後「お約束」的に観客がやったほうがいいのではと思った。
無粋ながら念のために書くと、引用元は大瀧詠一の「FUN×4」に挿入される「月に吠える男」の声。
つづく「タワー・サイド・メモリー」はユーミンのカバー 。
演奏と歌いまわしから楽曲への愛情の深さが感じられる。これまでの流れできいてまったく違和感なく調和している。
ピアノソロで客席を盛り上げたあと始まったのは「土曜の夜は」。
Negiccoのセルフカバーにして山下達郎へのオマージュソングだ。
オリジナルもピアノソロから入るが、着想はNIAGARA TRIANGLE Vol.1の「パレード」か。
後半のコーラスも含めて、この楽曲に込められたオマージュ感はウワノソラが演奏したほうが強くなる。
「エメラルド日和」、「夏の客船」と夏っぽい2曲が続く。
ここでまた緩やかな持ち味を発揮する。
つくづく彼らは演奏で風景を見せようとしているのだと感じた。
いまさら当たり前のことを言うようだが、はっぴいえんどが風景画のスケッチを見せるように演奏したことが当たり前のようにできるかといえばかなり難しい。それをやってみせようという心意気が伝わってくる。
アルバム「夜霧」から「マーヴィンかけて」。
ファンクなグルーヴが弾けたかと思うとテンポダウンするという難しい曲。
タイトな演奏から「何きいてたの?」のかけあいに落ちる緊張と緩和が聴きどころだ。
締めくくりは「渚まで」。さわやかなコーラスが熱気溢れる会場に涼しげな空気を運んでくれる。
アンコールで登場したスペシャルゲストは元メンバーの桶田知道。現在はソロ活動をしているが、ウワノソラへの楽曲提供も続けている。角谷も同じソングライターとして桶田のセンスに敬意を払っているようで、2人とは並走者という関係がいまも続いている。
桶田のソロアルバムから「有給九夏」を演奏。
3人体制だった時代、いつか東京でライブをしたいと話していたとか。それが実現され、こうして3人でステージに立てたことを噛みしめている様子が見てとれる。
「またライブできたらいいなと思ってます」いえもとが声を震わせてそう言ったのが胸に響いた。
色々な思いがこみ上げてきたのだろう。
頻繁にライブができない事情があったり、それでも実現できて満員になったことへの気持ちが声から伝わってきた。
アルバム「夜霧」リリース時のコメントにはこう書かれていた。

「2ndアルバム“陽だまり”で最後にならず、こうやって3rdアルバムを制作する事が出来たという事は、応援して下さる方々のお力無しでは叶わない事でした。」

また、会場限定販売の「あそび vol.2」にはこんなメッセージが添えられている。

「ライブ会場限定あそびシリーズは、やるだけで赤字のライブを少しでもプラスになればとの思いで作られた作品集です。
アルバムにも収録されてないというのは、しっかり拘り抜いて作った作品ではないという事。そしてこれらを売ってしまうのは完成度、自分の満足度的に気が引けてしまうという事が理由です。
しかし、ライブ収容人数に見合ってないサポートメンバーの数。リハ数。大阪のメンバー、リハの交通費。ライブ会場代。立ちはだかる自分の理想の音像。あぁ…(泣)。
何とかして賄わなければという事がきっかけで誕生した企画なのです。これらさえ上手く行けば本当はライブなんて毎年したい気持ちです。」

この切実さ。
自分たちの理想に忠実な音楽を妥協せずに作ることの困難がこれだけの文章ににじみ出ていて、涙ぐましい。
ウワノソラのこの切実さは、楽曲制作にもステージづくりにも丹念さをもたらしているのだと今回のライブを通じて感じた。
そしてその丹念さがどこか寂しくもあった。もっと作品を量産できて、ライブを頻繁にしていたら、作品やステージの質は落ちていたかもしれない。丹念に作られていること、その完成度を受けとめることが切なかった。さっきも書いたとおり、ウワノソラが大切にしているのは楽曲の風景。それを絶対に手放さないという気持ちが痛いほど伝わってやりきれない思いになる。
いつかウワノソラが敬愛する山下達郎がこんなジレンマを口にしていたことを覚えている。
「売れりゃいいってもんじゃない、でも売れなきゃ次が作れない」。
誠実な作り手ほど、ポップスづくりの苦境に直面するのだと思う。
「おやすみハニー」で終盤のムードを高めたあと、続いて披露されたのは「恋するドレス」。その後半に「風色メトロに乗って」「プールサイドにて」「Station No.2」「涙のフォークボール」「遅梅雨のパレード」「パールブリッジを渡ったら」などが挿入され、「ウワノソラメドレー」に場内はひときわ盛り上がる。
ラストは「Umbrella Walking」。
「今日はアンブレラウォーキングさ 水溜りを飛び越えて ずっとアンブレラウォーキングさ ほら素敵な午後さ」
ウワノソラはこのまま歩いていく、進行していくというメッセージを残してくれたように感じた。
最後はメンバー全員が集まってカーテンコール。中央の右からいえもと、角谷が並ぶまんなかが一人分空けられ、そこに桶田が呼ばれるも、「いや、この位置は違うだろう」と桶田が言ってあちこちに移動してから、ようやくいえもとの左側に落ち着く。場内に笑いと拍手喝采が起こる。
あいさつを終えてステージを去っていく彼らを見ながら、胸が熱くなっていった。ウワノソラの活動を途絶えさせないため、今後もしっかり応援していこうと固く誓った。
こんなにいい音楽を聴かせてもらってハッピーな時間を与えてもらったのだから、これからもウワノソラの作品を買い求め、感謝と敬意の気持ちを彼らに返すことを絶対に忘れてはいけない。それでほんの少しでも収入がプラスされて、またいい音楽を作ってほしい。
ファンとアーティストの間に音楽を通じて支え合う関係があるということを、ウワノソラは思い出させてくれた。

会場をあとにして駅へ向かう道のりで、かつて山下達郎の事務所がこの青山にあったのを思い出した。
80年代のはじめ、達郎青年が音楽への熱い志を抱いてここらを通ったかもしれない。
今夜、ウワノソラのメンバーもそんなことを思いながらここを歩くのだろうか。そうだったらいいなと思った。

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