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時をかけるNUMBER GIRL

7月27日 新宿LOFTの柱の向こうに見えたもの

 2019年7月27日 新宿LOFT
 17年ぶりの復活ライブが行われる会場前、歌舞伎町の道路で整理番号が呼ばれるのを待っていた。

 ナンバーガールの復活が発表された日からこの日までの間に、ギター・マガジン主催の田渕ひさ子と中尾憲太郎のトークイベントが下北沢で行われ、そこで2人が演奏する透明少女をみた。2人の演奏やナンバーガールの話に「ああ、本当に復活するんだ…」と実感したはずだった。それなのにその後LOFTのチケットが当選したことも今ここで番号が呼ばれるのを待っていることも、どこかふわふわしていて足元が定まらない。

 私にとってナンバーガールは十何年か前にライブで一目見て衝撃を受けてから解散までがあっという間だったバンドだ。最後のツアーには行けずじまい、CDを何度も聴き、DVDを何度も見てどんどん好きが募っていった。
 この日までライブが見られる嬉しさを噛みしめつつも深く考えないことにしていた。上の空で何もできなくなってしまうからだ。曲を聴いていても涙がこみ上げてきてしまうのでなかなか聴けなかった。無事ここにたどり着いたことの安堵感の方が大きかった。

 順番を待つファンの年齢層は様々だ。おそらく昔からのファンであろう人と、ナンバーガールのライブを見たことがないであろう若い人もいた。復活が発表された日、ツイッターのトレンドにナンバーガールの文字があがったことに驚いた。解散してから数々のミュージシャンに語り継がれた結果なのだろうか。いつの間にか伝説のバンドと言われるようになっていた。番号が呼ばれLOFTに入る階段を降りると、名簿とIDで名前と顔を厳重にチェックされ入場した。まるで見てはいけない世界に案内されるようだった。

 フロアにはぎっしりと人が並んでいて、とても前に行ける状態ではない。ロフトの中心にある大きな柱の後ろ、ギターだけでも見える位置で登場を待った。一人で来ている人が多いらしい。音楽が何もかかっていない会場はとても静かだった。静かだが熱量を感じる。これから見られる喜びと今まで抑えていた感情を放つ準備で心が忙しかった。熱量を感じたのはきっと同じ気持ちの人が多かったからだろう。

 会場が暗くなり、登場のSEのマーキー・ムーンが流れると、大きな歓声とともに柱の両側からステージに向かって人がどっと流れていった。あんなにぎゅうぎゅうだったのに、だ。中止になるのではないかという不安が頭をよぎるほどだった。
 後ろの方では静かにステージを見つめる人々。「これからここでナンバーガールが復活する」と思うとどうしようもない気持ちになった。

 そんな熱狂と緊迫感の中、フロントマン向井秀徳は「おひさーーーしぶーーり!ぶーり!」と挨拶したので会場が一気に笑いに包まれた。するとすぐに中尾憲太郎のベースから一曲目が始まり、歓声は一気に最高潮まで高まった。

 ライブの間、どの会場で見たかも思い出せないような昔のライブの衝撃が何度もよみがえり、鳥肌が立つ。もう見ることは叶わないと思っていた風景。鼻の奥がツンとして涙がこぼれる。「私はタイムスリップしてきたのだろうか…」と思うほど、この柱の向こうとこちら側で時空が歪んでいるような感覚だった。

 ナンバーガールが解散してから、ZAZEN BOYSや田渕ひさ子ソロ、bloodthirthty butchers、toddleなどのライブに足を運んでいた。向井秀徳と田渕ひさ子は久しぶりに見るわけではないのに、17年前のあの頃のような煌びやかな演奏を見せてくれた。
 柱のモニターに目を移し4人の姿を確認してみる。4人ともナンバーガールのモードがあるのだろうか。そう思わせるような勢いと気迫が感じられた。

 ナンバーガールはひたすらにすごいバンドだ。魅力は言葉に収まるものではないが、ひねり出して言うとオリジナルが多すぎるのだ。独特の不協和音も、歌い方の複雑さも殺伐とした歌詞も、手数が多く真似したくなるアヒト・イナザワのドラムも、その複雑なドラムに合わせつつも疾走感とワイルドさのある中尾憲太郎のベースも、女性ギタリストの星である田渕ひさ子も、思いつきと俺流を大事にする向井秀徳も。
 ここまで唯一無二が4人集まったバンドはなかなか無い。解散した時に向井秀徳が言った、“中尾憲太郎が抜けたナンバーガールは考えられなかった”という言葉の通り、このバンドは誰が欠けても成り立たない。ボーカルだけが目立つバンドは数あれど、この4人じゃなくちゃならないバンドはどう考えても貴重でありもはや魔法だ。

 少しだけ昔との違いを感じられた点でいうと、向井秀徳のMCにもみられた伝説を大事としないような今の普段通りの余裕さ、曲を終わらせる時のメンバーの雰囲気。煌びやかさは残しながらもそれぞれの17年分の奥深さが備わっているように見えた。そんな少しだけの違いによって柱の向こう側が今現在であることを示し、私のタイムスリップを終わらせてくれた。

 アンコールを含めて1時間半くらい、あっという間だった。客電がついて明るくなった会場にはもう一度改めて拍手が沸き起こる。帰る人々の涙目やため息、爽やかな表情にまたぐっと来た。

 ここ最近のライブでここまで熱狂を感じたライブはなかった。一生忘れることはないであろうこの日の風景をしっかりと目に焼き付けた。一度だけではないということに心が躍る。
 向井秀徳がナンバーガールの復活理由の1つとして何度も語った、「みんな生きとるんだから」という言葉を噛みしめた。
 
 ナンバーガールを“頭の中の想い出”として新しく重ねていける奇跡がただただ嬉しい。

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