2511 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

影のかたちをなぞる唄

孤独を象るBUMP OF CHICKENの音楽

藤原基央は一貫して“ひとり”を歌い続けるミュージシャンだ。そして、BUMP OF CHICKENの楽曲には例外なく“孤独”の影が見え隠れしている。
そんな印象が、彼らの音楽を初めて耳にした時から変わらず私の真ん中にある。
 

〈分かち合えない心の奥 そこにしか自分はいない〉
――「beautiful glider」

もはや残酷だとすら思う。共有するどころか見ることや触れることさえ叶わない奥深くの部分にだけ自分自身が息づいているという偽ることのできない真理は、どこまでも“ひとりぼっち”を浮き彫りにする。皆うすうす気付いてはいたけれど痛みを伴うからうやむやにしてきたそれを、藤原は容赦なく、かつ淡々と言語化してしまう。
穏やかなアルペジオに乗るこの一節はとても重く痛切で、聴くたびに小さく絶望する。私にとって色々な意味で強く刻み込まれている言葉だ。

バンプの曲には押し付けがましさが無い。本当だけが描かれる。こちらを否定することもなければ、過剰に歩み寄ることもしない。
意識しなければ気付かないほどにさりげなく、けれど必要とする時にはいつでもすぐ見つけられるように。近すぎず遠すぎない非常に心地の良い距離感でただ傍らに存在してくれている。そういった在り方はともすれば薄情にも思えてしまうけれど、その実とてもやさしい、と私は思うのだ。
独り善がりかもしれない、それなのにどんな人にも優しい。相反するように思えるその要素が、藤原の詞にはどちらも等しい比率で矛盾することなく存在する。

〈ぶつかってぐらついてパラシュート引っ張って 絡まっていたりしないか
キリ無い問答不安材料 でも全て抱いていく墜ちられないグライダー
僕には見えたのさ〉

最後の行の歌詞は、2011年から2012年にかけて行われたライブツアー「GOOD/GOLD GLIDER TOUR」で演奏された「beautiful glider」の、元々の歌詞とは異なるライブアレンジである。アルバム『COSMONAUT』に収録されている原曲では〈誰にも見えないさ〉と歌われている。
私がこの曲を最初に聴いたのは、ライブDVD『BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR 2012』内でだった。
のちにアルバムの中の原曲を聴き、歌詞の違いに気付いた途端、そのあまりのあたたかさに胸を突き動かされるようにして涙が溢れたのを覚えている。
バンプのライブの醍醐味の一つとも言える、藤原が公演の時々で施すいわゆる歌詞変えというものを、私はこの曲で初めて知った。

自分だけで大切に育てた孤独はいつしか堆積し宝石となって、光をはね返す。その煌めき自体よりも眩しさに照らされた影の方を、藤原の詞はありのままに映し出すのだ。
ひとつになることを夢見た過去、どうしたってふたつでしかないことへの諦念、繋いだ手が離れる恐怖、離しても残る温もりの寂しさ――それらが層のように折り重なった上にしっかりと立って、藤原は歌う。誰とも分かち合うことなどできない感情を、誰にでも分かる言葉で歌ってくれる。そこから響くバンプの音楽は痛みを反射して燦然と輝く。
そんな中でも藤原のフォーカスは、言ってしまえば暗く――例えば夜が明ける前の暗闇、希望と入れ違いに訪れる絶望、喪失の後に残る空っぽなど――見落として、あるいは目を背けてしまいがちなものに向けられる。そこにあるものを、無かったことには決してしない。
それはどうしてかと言えば、バンプを聴く人のそれぞれが持つ“孤独”を、本当の意味で孤独にしてしまわないためなのだと、私は勝手にそう受け取っている。

〈疑ったって手掴んで 大切に信じるしかなかったグライダー
ここで出会えたのさ 僕の目の前に〉

取るに足らない憂鬱や作り笑いで隠した涙を、どんな時でも側で見てくれていた。落ちる影の輪郭を、ちゃんと捉えてくれていた。
誰にも理解されない代わりに誰にも傷つけられない心の柔らかく脆い部分を、私は彼らの音楽にそっと守ってもらってきた。

今年のライブツアー「aurora ark」のメットライフドーム公演初日、最後の挨拶の締めくくりに藤原は言った。
「こうやって曲を聴いてもらえて、今俺がどれだけの気持ちで『嬉しい』って言ってるか、どんな気持ちで『ありがとう』って言ってるか、多分君達は……全然分かってない。でもそれでいい。俺ずっと歌うから、聴いてください。」
とても切実な語り口で、優しい笑顔と共にそんな言葉をくれた。分かち合えないことすらも彼は丸ごと肯定してくれた。あれより大きな優しさを、私は未だかつて受け取ったことがない。
それでもあの空間にいた数万人一人ひとりの孤独は、ひとりぼっちのままで、藤原自身の抱えるそれと一瞬だけでも共鳴していた。そう思いたい。暗く静かな闇の中でじっと温め続けた孤独が、藤原の声にバンプ4人の音に、呼び起こされて震える瞬間に、あの日私は確かに立ち会ったのだ。
 

ひとりぼっちであること。どれだけ大きな集団であろうとも、一人と一人の個が集まっているだけに過ぎないこと。
その切なくも明快な事実を認め、呑み込み、頷いて、そしてまた一歩を踏み出すまでのほんのささやかな時間。それは間違いなく私の足元を確かなものにしてくれる。不思議と寂しくはない。だって私の寂しさには、このバンドがついてくれている。

他人だらけの雑踏の中、耳にイヤホンを押し入れる。自分の影を確かめ、顔を上げて歩き出す。
その時鳴り始めるのはいつでも、バンプが象る私だけの大切な“孤独”そのものだ。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい