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君と出会った奇跡

2019年夏、スピッツを考える

スピッツを聴いた時に抱く、
何ともいえないあの気持ち。

優しくて、透き通っていて、瑞々しくて、
温かくて、ただ、触れようとしても誰もつかむ事のできない、まるで幻のような音楽。

日本中に数多くいる他のバンドとは勿論、
世の中に存在する何とも形容しようがない音楽。
あの幸福な気持ちを抱くのは、
今日でもう何度目になるだろう。

30年以上のキャリアがありながら、
今もなお国民的な人気を誇るロックバンド。

さすがにもういい加減飽きてくるどころか、
今日もより一層、スピッツが鳴らす音楽への欲は高まっている。

そして、それは今後も強まっていくのだろうと確信している。

そんな事を考えていた折、
今年のロックインジャパンの彼らのステージに立ち会う事ができた。

そこには、老若男女、本当にあらゆる世代の人達が集まっていた。
そして、入場規制という概念がない程広大な、
あのグラスステージを埋め尽くした様子は、本当に圧巻だった。

また、ワンマンや対バンでは決して味わえない、コアなファン以外のスピッツへの欲が改めて可視化された様子を体感できた事も、
貴重な体験だった。

そうしたロックフェス超満員の背景にはここ数年だけでも、
一昨年の結成30周年を記念してシングルコレクションがリリースされた事や、
過去の様々な曲にタイアップがつき、
98年の大名曲「楓」がリバイバルヒットをした事、
また、その人気に拍車をかけるように、
今年のNHK朝の連続テレビ小説「なつぞら」の主題歌、「優しいあの子」がテレビから頻繁に流れている事も、確実に影響していただろう。

ただ、だからといって、
彼らの活動のスタンスは変わらない。

ここ何年も地上波のテレビでは演奏していないし、あくまでも音源を作り、ライブを行う。
その繰り返し。

派手なプロモーションとはあえて距離をおいているようにもみえる、そうした世の中の動きに流されない活動は、彼らの音楽制作を維持するのに、とても大事な事に思える。

それは、スピッツの音楽に何か特別なベールがかかっているように感じる事とも関係しているように思う。

彼らの代表曲、「ロビンソン」の歌詞の、

《誰も触われない 二人だけの国》よろしく、

まるで、彼らの音楽は結界を張っているようにも思える程で、邪悪なものは一切感じられない。

ロックインジャパンでのステージを観て、
改めて、彼らのブレないステージング、
変わらない姿勢に、
これからどんなにタフな時代になろうとも、
自らが創り出すこの結界のような空間だけは、この音楽だけは、守り続けていく。
そんな気概を感じた。

ただ、勿論、彼らの魅力は、結界やそうした気概だけではない。
 

スピッツの歌の主人公は、
どちらかというと、下を向いて暮らしている主人公が少なくない。

前述した、今年リリースの最新シングル「優しいあの子」には、
《寂しい夜温める 古い許しの歌を》
という歌詞がある。

スピッツの音楽を見事に表現したフレーズといえるが、彼らの音楽を聴いてる時私達は許されている。そんなフィーリングが確かにある。

人は多かれ少なかれ、日々、
罪悪感や焦燥感や寂しさや諦念や後悔など、様々な負の感情を抱えて生きている。

そうした、生きていく上でアレコレと抱えざるをえない、厄介な自分という存在を許す為にスピッツを聴く。
そんな人も少なくないのではないだろうか。

だが、スピッツが創り出す空間には、
イメージ通りの癒しが存在するだけではない。

歌の主人公は懸命に闘っている。
では、その懸命に闘っているものは何か。

スピッツの楽曲の多くでは、いくつもの別れが描かれている。
 

《遠くに旅立った君に 届けたい言葉集めて》
/「みなと」
 

《明日の朝 僕は船に乗り 離ればなれになる 夢に見た君との旅路は かなわない》
/「君が思い出になる前に」

《さよなら 君の声を 抱いて歩いていく ああ 僕のままで どこまで届くだろう》/「楓」

ここでは彼らの数ある曲の中から、いくつかのフレーズを引用したが、実際に、別れを歌う曲は非常に多い。

そして、それは恋人や友人との別れにとどまらず、大切な人の死についても歌われている。

だが、スピッツの曲はそうした死について意識させられる歌もあれば、生への希求を歌っている歌も多い。

《春の歌 愛も希望もつくりはじめる
遮るな 何処までも続くこの道を

歩いていくよ サルのままで孤り
幻じゃなく 歩いていく》/「春の歌」
 

《近づいて 抱き上げて
ノドを鳴らす 子猫のような
望み通りの生き物に変わる
ささやいて ときめいて
街を渡る 羽のような
思い通りの生き物に変わる》/「ハネモノ」
 

《「愛してる」 この命 明日には 尽きるかも 言わなくちゃ 言わなくちゃ できるだけまじめに さらに 思い切り 手をのばす 手がふれる 海原を渡っていく 鳥のような心がここに在る》/「つぐみ」

僕の好きなスピッツの曲の多くでは、
大事な人を失ってしまった事、
転んでも、前をみて再び歩いていく事。
主に、その二つにフォーカスされている。

そして、聴き手はそこで、
目の前に今ある現実としっかりと向き合う事によって、
小さな決意や勇気を持てるようになる。

そう、彼らが歌う内容の殆どのものが、
いつの時代も誰の人生にもついてまわる、
逃れられない普遍的なテーマであり、
だからこそ、きっとこれからも、
彼らの音楽はあらゆる世代のあらゆる人々に支持されていく事だろう。

彼らの愛すべき曲を聴きながら、
改めてそんな事を思った。
 

-前作から約3年ぶり、
まもなく到着する彼らのアルバムのタイトルは、「見っけ」。

それは、子供の頃に友達とかくれんぼをして遊んだ時のような、軽やかで優しく、楽しい思い出の一コマを言葉ひとつで想起させる。

スピッツにふさわしいタイトルだと思う。

果たして、我々はそこで何を見つける事になるのか。

今冬、新たにはじまるツアーとともに期待してやまない。

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