2511 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

プリンス、貴方に比べられるものなどありはしないのだから

プリンス/オリジナルズと提供先が発表した作品やプリンスが更にリミックス等をした作品について

 2019年6月21日、プリンスが他アーティストに提供した楽曲を、プリンス自身が歌っているテイクを集めた楽曲集『プリンス オリジナルズ』(以下、『オリジナルズ』)のCDが発売された。ほぼ全編「愛」に関する物語だ。

【LP1/SIDE ONE】
 「シュシュシュシュシュシュシュシュ」という汽車のようなシンセ音が妙に耳に残るその名も“SEX・シューター(Sex Shooter)”がアルバム冒頭を飾る。大ヒット映画『パープル・レイン』のヒロイン、アポロニアがセンターをはる3人組ガールズ・グループ「アポロニア6」に提供されて、映画中でも披露されたちょっとチープな雰囲気を感じさせるプリンスお得意のシンセ・ファンク。プリンスが女子っぽく歌ったり、曲中で「I can’t hear you!」というセリフ等を女性的なお色気&ちょっと甘えるような声で入れたりするのを聴いて微笑ましくなる。曲中地声でメイン・ヴォーカルを入れている所の2つ目のヴァースで「No girls rap can top my lines」(意訳:私よりもいかしたラップをかませる女の子はいないわ)なんて出て来るのは、多少なりともヒップホップの台頭を意識したラインかもしれない。
 アポロニア6版は、米国ではロング・ヴァージョン、英国ではダンス・リミックスというタイトルで内容は同じ長いヴァージョンで発売されたが、そちらではミネアポリス・サウンドの特徴と言われるホーン的なシンセ・フレーズが執拗に繰り返されるし、ギター・ソロを模したようなキーボード・ソロが入っていてより「完全版」に近い。

 2曲目は、やはり映画『パープル・レイン』で使われたザ・タイムへの提供曲“ジャングル・ラヴ(Jungle Love)”で、プリンス版はかなり提供相手のモーリス・デイに寄せた声色だ。ワーナー・ミュージック・ジャパンから2018年の9月21日に発売された『ピアノ&ア・マイクロフォン 1983:デラックス・エディション』のライナーノーツやrockin’on誌2019年7月号で、プリンスの元カノのジル・ジョーンズが、プリンスが特にふざけた気分になったときに彼の変名の一つである「ジェイミー・スター(ザ・タイムの曲のプロデューサーやソング・ライターやプリンスの曲のエンジニアとしてクレジットあり)」の声を使ったりしたと述べていて、なるほど!と思った。
 そんなジェイミー・スター声の“ジャングル・ラヴ”は、ザ・タイム版とは異なるタイミングでも追加されている鳥の雄叫びも含めて、「プリンスが調子に乗っている」感が楽しめる曲だ。作曲クレジットに共作者として男性名がきちんと載っている数少ない曲でもあり、特に強調したいのはザ・タイムのギタリスト、ジェシー・ジョンソンの名前だ。プリンス版には入っていないザ・タイム版のギター・ソロは白眉。何とジェシーはこの7月に30年振りに単独来日公演をしてくれた。ディアンジェロのギタリストとしては近年二度の来日をしたが、30年前に単独公演に出向いたのはプリンスが後に『グラム・スラム横浜』にしたのと同じ会場の横浜ベイサイドクラブだった。ビルボード・ライブでの演奏中、自分でも思いのほかグッときてしまったのが、“ジャングル・ラヴ”のギター・ソロ。ジェシーの前月に同所でこれまた28年振りの来日公演をしてくれたモーリス・デイ&ザ・タイムの公演でも目玉曲の一つとして披露されたが、ジェシーのギター・ソロはやっぱりホンマモンだった。

 3曲目は、ガールズ・バンドのバングルスに提供された“マニック・マンデー(Manic Monday)”。1曲目はプリンスの裏声で面食らったが、今度は「こっちは地声で歌うんかーい!」と若干面食らったプリンス版。でも聴いて納得、ベッドの中からお誘いをかける人物が女性で、元々男目線で書かれた曲だったのだ。その恋人のセリフは、プリンスがちょっとトーンを上げて可愛らしく小芝居をしながら甘えるように模している。歌詞の「Time it goes so fast (When you’re having fun)」(楽しい時はあっという間に過ぎてしまうものね)の部分で急に転調するのはバングルス版にはない展開だが、楽しい時は時間の進み方が違うという時空の歪みをプリンスなりに表していたのかもしれない。
 スザンナ・ホフスのキュートかつ的確なヴォーカルが活きているバングルス版でこその大ヒットと思う人は多いと思うし、適材適所を配したプリンスの英断だ。月曜日の事を歌っているので「憂鬱な月曜日」の歌と思われる事もあるようだが(私は最初そう思った)、寧ろ「週の初めから、忙しくてドタバタの月曜日」という内容の曲だ。
 バングルスはこの名曲の短さが勿体ないと思ったのか、エクステンディッド・ヴァージョンではハーモニカとコーラスで繋いだブリッジを作って歌詞を繰り返して長くしている。当時はちょっと唐突なブリッジだな、とも思っていたのだが、今回プリンス版の転調部分を聴いた上でブリッジを聴くとそれなりに何かわかった気もした。本人たちもこのブリッジを気に入ったようで、更にエクステンディッド・“カリフォルニア”・ヴァージョンというテイクを作り、そこではこのブリッジが曲のイントロにも使われている。ライブでの演奏も、この後付けのブリッジから始めたりもしていたみたいだ。

 4曲目は、その始まり方によって初聴時に本アルバム中一番ドキリとさせられた曲。これまた元カノのシーラ・Eに提供された“真昼のランデヴー(Noon Rendezvous)”。たったあれだけの違いなのに、こんなに印象が変わるものなのか。この曲はシーラも共作者としてクレジットされおり、裏声で歌われている。
 昔、ザ・タイム出身の売れっ子プロデューサー(ジャネット・ジャクソン仕事が超有名)のジミー・ジャム(元キーボード)&テリー・ルイス(元ベース)がプロデュースしてポップチャートで全米No.1を勝ち取った事もある女性シンガー、キャリン・ホワイト(テリー・ルイスと結婚&離婚)が「尊敬している」だか「ああいう風になりたいというシンガー」をインタビューで尋ねられて「プリンス。彼には女性ヴォーカルにとっても凄く学ぶべき所がある」的な事を答えていたが、この曲でプリンスはシンプルな演奏の中、キャリンの敬愛に対する面目躍如とも言えるような見事なヴォーカルを披露している。メロディもシンプルなのにひたすら美しい事を改めて認識させられた。

 5曲目は、メイン・ヴォーカルをヴァニティ(プリンスの元カノで『パープル・レイン』撮影中に喧嘩別れし、代わりにアポロニア6が爆誕した)が務めていたアルバム『ヴァニティ6』の作品“メイク・アップ(Make-Up)”。ヴァニティ6版でヴォーカルを取っているのはヴァニティではなくて、妹系不思議ちゃん(?)のスーザンだ。彼女もプリンスの元カノで、ルックスについて敢えて有名人を引き合いに出すとしたら、TLCのチリあたりだろうか。ヴォーカリストとしてのスーザンの力量はちょいと怪しい感じで、狭い音域でつぶやきヴォーカルを繰り広げている。
 プリンス版を聴いて改めて思ったのは、ドラムパターンや小刻みに入っているシンセ音が、後の“ダイ・フォー・ユー(I Would Die 4 U)”っぽいかな、という事だった。アルバムを何回かリピートする中で、娘がこのトラックにあわせて「電気グルーヴ×スチャダラパー」の“聖☆おじさん”を歌っていたのでちょっと笑った。なるほど、シンセの音階は“ダイ・フォー・ユー”の単調さよりも近いな。歌詞にはスーザンが煙草を吸う描写が出てくるが、ジル・ジョーンズ、双子のスザンナ&ウェンディそしてリサやヴァニティも吸ってそうだし、プリンスは当時煙草を吸う女性が好きだったのだろうか。

【LP1/SIDE TWO】
 6曲目は、プリンスがミネアポリスのファンク・バンド、マザラティに提供した“100MPH”。マザラティはプリンス&ザ・レヴォリューションのベーシスト、ブラウンマークがプロデュースしたバンドで1986年のデビューだが、衣装はけばけばしく「遅れて来たパープル・レイン」みたいな雰囲気だ。
 マザラティのデビュー・アルバム『マザラティ(MAZARATI)』収録の“100MPH”は、7分以上に渡るミネアポリス・ファンクで、プリンス版では削除されている「I’m much too hot to be cool, cool, cool」という歌詞の直後にいきなりザ・タイムの曲“クール(COOL)”そのまんまの音がモロにぶっこまれたりしている。プリンスは「クールなザ・タイムに対抗してホットなマザラティ」みたいな感じで推そうかと考えたのだろうか。プリンス版はもちろんヴォーカルは申し分ないのだけど、後半部分に色々と演奏の遊び(キーボード・ソロ、ヴォーカルの加工、変なSE、叫び声の応酬、ドラム・ソロ)が入っているマザラティ版と比較すると食い足りない感は否めない。

 7曲目は、何とカントリー歌手のケニー・ロジャースに提供された“ユーアー・マイ・ラブ(You’re My Love)”。アルバム『オリジナルズ』を最初に流していた時、居間に居た娘が唯一口を開いたのがこの曲で、「これは、プリンスっぽくないねぇ」だった。実際、私も『オリジナルズ』収録曲の中で、唯一提供先音源を購入しなかったのがこの作品だ。当時ケニー・ロジャース版を聴いた上で「この曲の為だけにケニー・ロジャースのアルバムは買わなくていいや。プリンスだったら何でも買うわけではないし」と分別のある振り(?)をしたのだ。今はストリーミング配信で聴ける!
 そしてプリンス版は、その普段とモードが違う感じが良い。息子はこの曲がかかり出したらいきなり「らびゅべいべ・らびゅべいべ・らびゅべいべ・らゅらゅらゅ~♪」とか叫んだりしていた(えっ?馬鹿にしてる?)。歌詞はほとんど熟年夫婦のそれだ。羨ましい。プリンスは、昔のインタビューで、様々なジャンルのアルバムを出す事が出来るとうそぶいた後に「カントリー・アルバムは出さないけどね」って言っていた事があるように思うが、彼の代表曲である“パープル・レイン”にも、そのテイストはあるし、曲作りとしては米国の一大ジャンルであるカントリーにも手を出していたようだ。プリンス版を聴くと、ケニー・ロジャース版にも改めて親近感がわいてしまう。

 8曲目は、シーラ・Eとの共作曲“ホリー・ロック(Holly Rock)”。今回のプリンスは4曲目と違い地声で登場。勢いのある曲だから、確かに裏声は似合わない。コール&レスポンスを要求する疑似ライブ仕立ての構成は、デモであるプリンス版を聴いても盛り上がる。バックで弾かれるくっきりした意外とリズム・ギターが芸の細かさを感じさせるし、後半ではミックスは抑え目だが派手なギターを弾きまくりだ。そして、本作中、唯一「愛の歌」ではない曲だ。
 シーラ版は映画『クラッシュ・グルーヴ』からもシングル化され、「ザ・宝塚」的なジャケットやオフィシャルライブビデオでのパフォーマンスもいかしていた。サウンドトラック収録というような映画オリジナルの作品ともなると権利関係が複雑になりそうだが、『オリジナルズ』に収録されているところを見るとプリンスがきっちりとその辺を押さえて居たのだろう。

【LP2/SIDE THREE】
 9曲目は、プリンス・ファミリー随一のヴォーカル力を誇るジル・ジョーンズ、プリンスとの共作曲“ベイビー、ユー・アー・ア・トリップ(Baby, You’re A Trip)”。実力派ながら、プリンスが抱く「ムチでしばかれたい女性No.1」という妄想を実現してあげる優しき(?)女性だ。プリンスの出世作『1999』から、シングルでもないのに作られたミュージック・ビデオ“オートマティック”での女王様っぷりは、中学生の私をドキドキさせるものだった。彼女も元カノ。
 プリンス版の最後のフェイクの部分を聴いていた息子は「・・・くどい。」と呟いていたが、これはジル・ジョーンズ自身が即興で行ったものだと思っていたので「ここもプリンスかよっ」と思わず呟く父であった。すっかりプリンスの術中にはまっているとも言えるが、「本人すら気付いていない魅力的な本人らしさ」をプロデュースする手腕には恐れ入る。

 10曲目はプリンスの作詞・作曲能力とシーラ・Eの演奏能力との相乗効果が最高に発揮された曲“グラマラス・ライフ”。パーカッションを叩きまくりシンバルを蹴り上げるシーラのヴィジュアルがやたら印象的だった1曲だが、パーカッション抜きのプリンス版を聴いても、この段階でかなりのクオリティであった。意外にも作詞・作曲のクレジットにシーラ・Eの名前がない。曲の方は、聴く分には心地よいが生でやったら足が攣りそうなキック・ドラムに官能的なサックスが絡みメイン・フレーズを奏でるチェロが被さり、それがサックスに入れ替わり本格的な演奏が始まるだけで「あぁ、いぃ」となる。入って来るプリンスのヴォーカルは地声で展開され、シーラ・E版には入っていない嬌声や最後の高い声はプリンスの裏声だろうか、あるいはジル・ジョーンズだろうか。
 それでもやっぱりこの曲はシーラのパーカッション演奏をもってその魅力を最高に高められたであろう珠玉の1曲だ。だからプリンス版を最初に聴いて気に入ったという人は、是非ともシーラ・E版も聴いて欲しい。ミュージック・ビデオでチャカポコ叩くシーラの姿も文句なしに格好良いが、アルバム版のみに収録されているパーカッション・ソロやシーラのコーラス・パート等は素敵だ。

 11曲目は、モーリス・デイ率いるザ・タイムへの提供曲“寂しいジゴロ(Gigolos Get Lonely Too)”。哀愁漂うバラードで、曲調はザ・タイムの曲で言うと“ガール”や“サムタイムズ・アイ・ゲット・ロンリー”、ジェシー・ジョンソンのソロ作品でいうと“アイ・ウォント・マイ・ガール”辺りにも通じる。ギャップ萌えを狙った様な歌詞で、後にプリンス自身がそのキャラクターに通じるような役を映画『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』で演じる事になる。また、その遺伝子は同曲のタイトルを拝借して“サグズ・ゲット・ロンリー・トゥー”を作ったラッパーの2パックにもしっかり受け継がれている(“サグズ~”は元々プリンスの“イフ・アイ・ワズ・ユア・ガールフレンド”をサンプリングしていて、許可が下りずに後にトラックが差し替えられた)。脱線するが、お目めぱっちりでまつ毛の長い2パックはモーリス・デイ系のお顔とも言えるし、プリンス・ファンである事も有名で許可が下りたサンプリング曲も複数ある。
 ところでプリンスは自分の作品を「子供」の様なものだと言っていたが、私はまだ彼がぼやかしている点があると思っていた。それは、その「子供」とは大抵の場合は「女の子」なのではないかという事だ。プリンスは女性に曲を提供する事や、あるいは女性が自分の曲をカバーする事にはある程度寛容だったと思うが、男性には厳しかった。男性に曲を提供する時には「嫁に出す」又は「養子に出す」くらいの決心で、女性に提供する時には「親友の女の子と旅行に行く」又は「ルームシェアする」くらいの感覚で行っていたのではないか。はい、完全に単なる妄想です。勝手言ってすいません。
 戯言はともかく、モーリス・デイはプリンスが作った曲を本人以外で最も数多く、そして長きに渡り歌って来たほとんど唯一の男性なのだ。その点においても、私はモーリス・デイを大いに尊敬する。

 12曲目はマルティカとの共作曲 “愛がすべて(Love…Thy Will Be Done)”。マルティカがノートに書き留めていたというお祈りの言葉にプリンスが厳かな雰囲気で始まる教会音楽の様なサウンドを付けたこの曲は、プリンスが裏声で歌っていて多彩で効果的な音程の各種のコーラスもたくさん聴く事ができる。1996年に日本で行われたツアー日程の初期でも披露され、プリンスもお気に入りのナンバーのようだ。
 マルティカ版にはオフィシャル・リリースされた「プリンス・ミックス」(まんまの名前!)もあり、そちらではオープニングからマルティカのヴォーカルを引き延ばす処理をし、入れ替えたトラックや被せるシンセ音でより厳かな、それでいてファンキーな雰囲気を醸し出している。因みにマルティカ版では、アルバム・クレジットを見ると子役時代の朋友であるソウル・シンガーのラサーン・パターソンがバック・コーラスを務めていて驚いた。

【LP2/SIDE FOUR】【+日本盤CDボーナス・トラック】
 13曲目は、最多登場のシーラ・E!1985年8月に発売されたセカンド・ソロ・アルバム『ロマンス1600』2曲目の“ディア・ミケランジェロ(Dear Michaelangelo)”だ。このアルバムのジャケットのシーラ・Eも宝塚っぽくて格好良し。プリンスは地声で登場だ。
 耳を惹くのが曲の頭、4秒くらいで唐突に飛び込んでくるギター。余りにもプリンス。オープニングでこそ目立つが、その後はぐっと控えめにミックスされて、再度ギター・ソロ部で爆発している。1985年と言えば、プリンスが超大ヒット・アルバム『パープル・レイン』の次の作品である『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』を発表した年だ。プリンスがインタビューで「『アラウンド~』のオープニングを“レッツ・ゴー・クレイジー”の最後のギター・ソロで始めるのがどんなに簡単だったか、想像がつくだろ?違うキーで同じことをやるのだって簡単だったさ。そういう風にやれば、このアルバムが、あれより半分もパワフルじゃない、と言った連中を黙らせることにもなっただろう。でも、僕は、前のアルバムに似ているものは作りたくなかったんだ」(プリンス語録を引用した『ギター・マガジン』2010年9月号の記事より)という有名な発言があるが、私はこれを読むと、プリンスが『アラウンド~』発表の数か月後に出したシーラ・Eのこの曲(シングルにもB面にもなっていない)で惜し気もなく弾き散らかしているのを思い出す。

 14曲目は、1987年にプリンスのペイズリー・パーク・レコードからデビューした際に「おっ、プリンスが遂に従来の仲間以外をデビューさせて来たぞ」と思ったタジャ・シヴィルへの提供曲で“ラヴ・トゥ・ラヴ・ミー(Wouldn’t You Love To Love Me?)”だ。タジャ版が耳慣れた私にとっては、プリンス版のロックン・ロール調のギターにプリンスの裏声が乗るのは印象的であるし、シャウト気味のヴォーカルが出てくる展開は面白いが、全体としては正直若干単調にも思えたりする(失礼!)。
 タジャ版の“ラヴ・トゥ・ラヴ・ミー”はアルバムからの2ndシングルにもなり、当時購入した英国盤7インチ・シングルのジャケットを広げるとポスターになったり、後日シングル化された“テイク・ミー・フォー・ア・ライド”の12インチ・シングルもポスター封入&7インチ・シングルは見開き仕様だったりした。1stシングルにもポスター付きの盤があったようで、こんなのプリンスが許可しなければ出ないだろうし、ルックスもプリンスの数ある好みにばっちりだったのかもしれない。ネット情報(プリンスヴォールトと言う有名サイト)を調べてみると、どうやらプリンス版とかなり雰囲気が違い上品に仕上げられているタジャ版も、結局プリンスにプロデュースされていて演奏もプリンスによるもののようで、今更ながらプリンスは凄いなぁ。
 タジャ版の“ラヴ・トゥー・ラヴ・ミー”の米国盤12インチ・シングルにはその名もずばり「ペイズリー・パーク・リミックス」が入っていて、これまた音の展開や印象が結構違う。ちょっとした違和感のあるリミックスで、曲が始まってすぐに新たに追加された曲の軸を少しずらすようなベースに主張の強いカッティング・ギターが入って来て、ワザとらしいエフェクトがかけられたドラム音が耳に残る。その後も、各楽器やシンセサイザーの色々な音色やフレーズが入れ替わり立ち代わり時には絡み合って訪れるのだ。

 さぁ、いよいよ最後の曲になった。プリンスのペイズリー・パーク・レコードからプリンス以外の第1弾アーティストとして1985年8月に発売されたアルバム『ザ・ファミリー』に収録され、後にシネイド・オコナーがカバーして特大ヒットとなった“愛の哀しみ(Nothing Compares 2 U)”だ。自分の作品がカバーされて有名になると「俺が本家本元だ!」とばかりにコンサートでやりだす可愛い性癖の持ち主として有名なプリンスだが、この曲もその後日本を含め幾度となくライブ披露されている。しかし、プリンス単独のスタジオ・ヴァージョンは発表されていなかったのでこの曲がかなり先行してYouTubeで発表された際は「遂に来たかぁ~」と感慨深いものだった。このプリンス版は、ザ・ファミリーの作品後、アルバム『パレード(PARADE)』を皮切りにオーケストラ・アレンジでコラボレーションをして行くジャズ奏者クレア・フィッシャーのアレンジが施される前の生々しいテイクで、楽曲の良さで直球勝負している。
 一方で、日本盤での嬉しいボーナス曲となっている16曲目は、同曲の「シネマティック・ヴァージョン」だ。こちらはプリンスのアカペラで始まり、直後に故クレア・フィッシャーの施したオーケストラが、ザ・ファミリー版よりも「いかにも」という感じで悪目立ち(?)して始まるが、これはリミックスの仕方の問題だろう。プリンスが作ったんじゃないよね?ちょっと突っ込んでおくと、この曲、ドラマチック(シネマティック?)な曲調にごまかされがちだが、去って行った恋人に向けて「Tell me, baby, where did I go wrong(おしえてベイビー、僕はどこで間違ってしまったのか?)」という歌詞の舌の根も乾かないうちに速攻で出て来る「I could put my arms around every girl I see(出会った全ての女の子を抱きしめる事もできるけど)」には、「そーゆーとこだよ!」の言葉が喉まで出掛かってしまう。でもそれもまた、次に続く「But they’d only remind me of you(でも彼女達は君の事を思い出させるだけ)」という至高のラインを引き立たせるためのツンデレ展開なのだ。
 ザ・ファミリー版は、クレア・フィッシャーが仕上げたオーケストラが本当に美しい。サックスはプリンスとは長い付き合いのエリック・リーズだし、ザ・ファミリー版にはプリンス自身の演奏は入っていないのではないか?これは由々しき事態だ。その後の蜜月を考えてもプリンスが出会った最高の「トラックメイカー」なのかもしれない。この曲は、ザ・ファミリーのメンバーであり、プリンスのバンド「ザ・レヴォリューション」でギタリストを務めたウェンディの双子の姉妹であり、プリンスの元カノであるスザンナがバック・コーラスを歌っている。スザンナは、『オリジナルズ』のデラックス・エディションでもこの曲について寄稿しているが、その背景にあるストーリーは切なく美しい。この曲だけで充分に美しいのだが、レコーディングの過程すらもシネマティックなのだ。これで映画が1本作れそうなくらいに。余りにプライベート過ぎるため当初自分のヴォーカルでは発表しなかったし、演奏はクレア・フィッシャーに任せたし、ザ・ファミリーのアルバムでこの曲だけ自分の作品である事を明記したし、にもかかわらずシングル・カットしなかったのか等と勝手に想像してしまう。

 そして、この曲を作った時、プリンス本人も全世界の人が本当にこんなにも自分を想いながらこの曲を聴く事になろうとは思っていなかった事だろう。

 プリンス、たくさんの愛をありがとう。そして、これからもよろしくね。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい