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2017年6月21日

いと (21歳)
27
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

彼等は何にでもなれる

負け続けた私を肯定してくれた忘れらんねえよの音楽

渋谷のタワレコで、当時好きな人の隣で初めて忘れらんねえよを聴いた。
隣で聴いたと言っても、全くと言って恋愛において上手くやれたことはなかった。

野球が上手で、嫌だと言いながらクラスメイトに毎年推薦されて学級委員をやり、体育祭のリレーではアンカーを務め、赤組を優勝に導く。
絵に描いたようにかっこよくて人気者の男の子だった。
私には彼が誰よりも眩しくキラキラして見えた。
彼の隣に当たり前のように幸せそうな彼女がいる以外は、私にとって完璧だった。

その当時、あの子になりたいと何度も思った。
あの子になれないと何度も思い知った。
あの子になれないなら何にもなりたくないと思った。
そのくらい好きだった。

彼は野球の強豪校に推薦で進むことが決まっていて、
私は関西の高校に進学を決めていた。
なにも踏み出せないまま中学を卒業してしまった。
最後の思い出にと、みんなで渋谷に遊びに行くことになったのに、その日1日も何もないまま終わろうとしていた時に寄ったタワレコ。
back numberの恋を聴いている彼の隣にいってみたくて。
あの子みたいに彼の隣で笑ってみたくて。
隣の視聴機のボタンを適当に押した。

〈忘れらんねえよ ベイベー
忘れらんねえよ ヘイヘイ〉
彼が隣にいる。
〈俺はあんたをずっと見てる
あんたはその先をずっと見てる
風が吹いてる それでいいさと
それでいいかどうかはわからないけど〉
音楽を聴いて、初めて言葉にできない何かが込み上げてきた瞬間だった。
音楽を聴いて涙を流したのも初めてだった。
このメロディと歌詞。
ただ、自分を肯定してくれた。
それだけだったし、それだけで15歳の私には十分だった。

急に涙を流し始めた私に驚いた彼が、次聴かせてよと言ってくれた。
なんとなく聴かれたくなかった。
知られたくない自分の心の奥底だと思った。
涙をあくびのせいにして他の友達の所へ、強引な言い訳を作って彼とその場を離れた。
次の日1人で渋谷のタワレコにまた行き、アルバムを買った。
忘れらんねえよのファーストアルバム
“忘れらんねえよ”だった。

高校生になり、親元を離れて見知らぬ地で三年間過ごした。
めちゃくちゃに怒られて悔しくて泣いた日も。
部活の全国大会の前の日にも。
ずっと一緒にいた飼い犬が死んでしまった日にも。
忘れらんねえよの音楽はどうしようもない私に、何度も頷いてくれた。

忘れらんねえよは私にとって何か、何度もそんなことを考える。
答えはいつも分からない。
彼らは何にでもなってくれるのだ。
仲間だった日もあった。
ダサいおっさんだった日もあった。
ヒーローだった日もあった。
神様だった日もあった。
何にでもなれる。

ボーカルの柴田隆浩はどう頑張っても見た目は中年のおじさんだ。
童貞と公言しておきながらスナックのおばちゃんに初めてを捧げた。
本当にどうしようもなくダサいおじさんだ。
色んなことに負け続けたと彼は言う。
ただ、負け続けたということは、戦い続けたことだと私は知っている。
私も、あの子に勝てなかった。
初めての受験は落ちた。
一番行きたかった会社も落ちた。
小学生の頃、好きだった男の子に振り向いて欲しくて、彼の給食のゼリーを平らげた。
そこへ自分のゼリーをあげた女の子と仲良くくっついていた。
どうしようもなく負け続けて、間違い続けていた。
そんな私も何にでもなれるということを教えてくれた。
誰かのヒーローになったり、
誰かの恋人になったり、
誰かの仲間になったり、
誰かの大切な存在になれる。

あれから数年が経つ。
仕事帰りに電車に揺られながら、全く更新をしていないInstagramを開く。
今日も周りの友達は、仕事帰りに化粧も落とさずに寝てしまう私には無縁そうなキラキラした日々を送っている。
その中に、何時間も並んで食べるパンケーキを彼の隣で幸せそうに頬張る彼女がいた。

私は、彼の隣で食べるパンケーキの美味しさを知ることは出来ない。
でも、あの子はライブ帰りに磯丸水産で1人で食べるチヂミの美味しさを知ることは出来ない。

今日もくたくたになりながら頑張った。
今日はちゃんと化粧を落としてから寝よう。
もうすぐ忘れらんねえよのツレ伝ツアーが始まり、彼らが私の住む街にも来る。
その時はちゃんと伝えられるだろうか。
彼らがいつも叫んでいるように、サンキューセックス!と。

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