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the HIATUS’s Whole Story

極彩色の光をつかんだ10年の航海

隙間―。
細美武士が心に空いた隙間を埋めるように航海に発ち、10年が経つ。
10年前、その船にはmasasucks(Gt)、ウエノコウジ(Ba)、堀江博久(Key)、柏倉隆史(Dr)、
そして伊澤一葉(Key)、一瀬正和(Dr)というクルーが乗り込み、the HIATUSは旗を揚げた。
紡いだ音を航路に、いくつもの旅を続けてきた男たち。
そこで見た景色は新たな音に昇華され、行く先々で人々の心に宝物の時間を残してきた。

しかしその航海は決して順風満帆だったわけではない。
暗闇が立ち込める中、光を手繰り寄せようともがく、そんな物語である。

――

「細美武士が新たなプロジェクトを始動する」。
その報せに、どれだけの心が救われただろうか。
2008年、ELLEGARDENの活動休止。
あまりにも突然に突きつけられた現実は、人々の心に大きな影を落とした。
その影に誰より吸い込まれてしまったのは、他でもない細美自身だったであろう。
the HIATUSは彼にとっても、ELLEGARDENとともに生きてきたキッズにとっても救済だった。

細美が自身の闇と向き合い、苦渋の汗を滴らせながら紡ぎ出した1stアルバム『Trash We’d Love』(2009)。
“Ghost In The Rain”の高らかと鳴り響く鍵盤が、the HIATUSの始まりを告げる。
霧雨が穿つ中、遠く向こうに見える虹のようなー。
始まりの音が描いたのは、そんな美しい景色だった。
“Lone Train Running”や“Silver Birch”のどこまでも遠くへ運んでくれる疾走感。
“The Flare”の圧倒的なスキルを持つ個と個がぶつかり合い奏でられる、爆発的なサウンド。
『Trash We’d Love』は初期衝動に溢れていた。
銘々の楽曲がもつ音の振り幅は、細美の新たな引き出しを感じさせる。
だがその引き出しには希望だけが詰まっていたわけではない。
“Lone Train Running”では《僕らは旅に出る(対訳)》と歌い、“Twisted Maple Trees”では《僕らはどこへ行くんだろう(対訳)》と歌う。
《間違ってるのは僕だ/いつも僕の側の問題なんだ(対訳)》(“Twisted Maple Trees”)ー細美は居場所を追い求めていた。
少しハスキーな声に、孤独が滲む。
指針のないままに進む船は、真っ暗な夜に溶けていった。

――

再生とともに流れ込んでくる音の洪水、絶叫。
“The Ivy”の轟音が鳴り響く。
自分の生き方も、曲の作り方さえも見失っていたという中、2ndアルバム『ANOMALY』(2010)は制作された。
「パニック障害だったのかもしれない」と、細美は当時を振り返っている。
アルバムを通して緊張感が張り詰め、轟音と静寂が同居していた。

鼓動のようなドラミングと、村雨のようなストリングスが降り注ぐ“Insomnia”。
「不眠症」と名付けられた曲は、絶望をそのまま音にしたような悲壮感に満ち溢れていた。
《助けて/助けて/助けて/助けて(対訳)》とひたすらに絞り出される声、言葉。
《いったいどこで間違ったんだろう》、《僕は君が求めてる人じゃない》と、
想像もつかない心の隙間の大きさに、言葉を失うしかなかった。
だが己の弱さと向き合い、リスナーに吐露した姿は、細美の覚悟にも思えた。

その次に鳴り響くのは“ベテルギウスの灯”だ。
エッジの効いたギターの音が無条件で心を引き上げる。
ガラス玉のような煌めきをもったその曲は、ぶつかる度に輝きが増し、
彷徨いながらも進んでいこうとする細美の現状を描いているようだった。

『ANOMALY』は“西門の昧爽”で終わりを迎える。
《ただ少しやさしく/夜が空ける》。
祈るように歌う細美の顔が目に浮かぶ。
未だ見ぬ朝日を求めて、船は黒に染まった水平線を進んでいく。

――

2011年3月11日。
あの日はレコーディングの最中だったという。
未曾有の震災はライブの是非、ましてや音楽の意味そのものをミュージシャンに問いかけた。
細美の10年を振り返る上で、東日本大震災という出来事は切り離せない。
幾度となく被災地を訪れ、支援活動、そしてライブを行なった。
多忙の合間を縫いながら被災地へ向かう背中は「この命の全てを懸ける」、そんな思いを感じさせるほど広く逞しかった。

誰もが生と死と向き合う中でリリースされた3rdアルバム『A World Of Pandemonium』(2011)。
大混乱の世界に放たれた音楽は、アコースティックサウンドがフィーチャーされ、どこまでもピースフルだった。
モノクロの景色に、絵の具を投じるように。
一音一音が瑞々しく、開かれたメロディは温かさに満ちていた。

《ここにとどまるって言って/このめちゃくちゃな世界にさ/まだきっとなんとかなるから(対訳)》。
宮城県で見たがれきの海を思い起こしながら、細美はこの“On Your Way Home”の詞を綴ったという。
1stアルバムのタイトル『Trash We’d Love』が、“Save The World”のアナグラムだとは後に明かされることだ。
1stや2ndの頃、細美が誰よりも救いたかったのは自分自身だったのかもしれない。
もがき続ける詞と、ライブで時折見せる悲痛な表情が全てを物語っていた。
だが『A World Of Pandemonium』以降、細美が救おうとする世界は、少しずつ広がっていく。
the HIATUSが進む水面には、鮮やかな光が反射していた。

――

ポストチルウェイブ、テクノ、ダンスミュージック。
4thアルバム『Keeper Of The Flame』(2014)が提示したサウンドは、エレクトロに傾倒したものだった。
これまでアルバムごとに音の表情を変え、表現の幅を広げてきたthe HIATUS。
『Keeper Of The Flame』の完成により、独自のサウンドデザインを形成していく。

the HIATUSでの細美は、孤独を歌い、居場所を求め、自身を責め続けてきた。
このアルバムで描かれているのは、他者との繋がりに救われた男の姿である。
《この日を迎えられると思わなかった/ここまで来れるとも思ってなかった(対訳)》(“Unhurt”)、
《君が僕の今日を救ってくれる(対訳)》(“Tales Of Sorrow Street”)。

東日本大震災の被災地にライブハウスを建て、音楽を通じて復興するプロジェクトに「東北ライブハウス大作戦」がある。
その活動の中で見せる細美の笑顔は、ようやく自分の居場所を見つけた、そんな表情だった。
新しくできた仲間が、彼にとって大きな支えとなった。
今も左手に着けられた東北ライブハウス大作戦のラバーバンドには、たくさんの思いが染み込んでいるのだろう。
心の奥で強かに揺れる火を、細美は『Keeper Of The Flame』で現した。
温かな輝きに照らされた航路に、もう独りの夜はない。

――

2015年、細美は新たなバンドMONOEYESを始動する。
原点ともいえるメロディックパンクに振り切ったサウンドは、the HIATUSとは一線を画すものだった。
その活動を経ていく中で、the HIATUSだからこそ表現できる音を確信する。
追求の末に、5thアルバム『Hands Of Gravity』(2016)を満を持してリリースした。

the HIATUSの元来もつバンドサウンドに、4枚のアルバムを通じて獲得してきたテクスチャーが融合。
メロディが際立ち、孤高のヴォーカリゼーションが、雄大で開放的なサウンドスケープを描き出す。
その景色には、勇敢に海を進む船の旗がたなびいていた。
《俺たちは自由だ/空を飛ぶ隼みたいに(対訳)》(“Secret”)、
《俺は駆け抜けてるんだ/過ぎ去る日々のような速さで(対訳)》(“Sunburn”)。
1stのように居場所を求め彷徨っているのではない。
大切なものを守るために船は進むのだ。
《そうして僕はこの物語を作り出した/これ以上君を傷つけないように/もうこれ以上傷つけたくない(対訳)》(“Catch You Later”)。
それはバンドであり、東北ライブハウス大作戦であり、応援してくれる仲間であり、細美の音楽に生きるキッズたちであろう。
雨風の中を進み続けた先の「今」がある。
そうやって手にした宝物を失わなくていいように、細美は人生の物語を生き抜いていく。
船首に立つ彼の瞳に、迷いは泳いでいない。

――

「ELLEGARDENが活動を再開する」。
その報せを、どれだけの心が待ち望んでいただろうか。
「THE BOYS ARE BACK IN TOWN TOUR 2018」と冠し、復活ツアーを敢行。
記憶の中で生き続けてきたバンドが、現実となってステージへ帰ってきた。
誰よりもこの復活を待ち望んでいたのは、誰よりもELLEGARDENを愛する細美自身に他ならない。
心に空いた隙間が幸福で満たされていくのを目の当たりにした。

そして2019年。
the HIATUSの出航から10年という節目に、6thアルバム『Our Secret Spot』をリリースした。
the HIATUSは、細美がELLEGARDENの活動休止の末に選択した道だ。
そのバンドの復活という大きなトピックスを経て作り出された今作。
彼らは隙間を埋めるのではなく、隙間を作ることを選んだ。
極限まで音数を削ぎ落とし奏でられるアンサンブルは、
その楽曲がもつ感情を引き出すことに徹したと言えるかもしれない。
音と音の隙間には、10年を経て築き上げた自信と信頼に満ちている。

《君の話を聞かせてくれ/いったん僕に渡してみなよ/君が最近ずっと感じてた痛みを止めさせてくれよ(対訳)》(“Servant”)、
《忘れないで/君は決して一人じゃなかった(対訳)》(“Silence”)。
秘密の場所で語りかける、君への思い。
10年前、自身を責め、救いを求めていた男が、今は誰かを救おうと手を差し伸べている。
《君が見えるよ 月明かり/僕の魂が再び歌い出すといいな(対訳)》(“Moonlight”)。
夜空に輝く月に向かって願いを捧げるようにー。
美しいメロディとともにエモーショナルな歌声が響き渡っていく。

太陽のような男だ、と細美を見ていると思う。
だが太陽のように笑う彼も、自らに付き纏う影と戦い、受け入れてきた。
その戦いの日々を10年が経った今、
“Life in Technicolor=極彩色の人生”だと歌えることにどれだけの意味があるだろうか。
月は太陽に照らされて、光を放てるのだという。
the HIATUSが音を鳴らし続ける限り、僕らの心から極彩色の光が消えることはない。

――

今では「家族」とも呼べる関係になったというthe HIATUS。
絶望の淵にいた細美にとって、彼らがいかに大きな存在であったかは言うまでもないだろう。
幼馴染というわけでもなく、もとは細美のプロジェクトを構築するために集まったメンバーだ。
降り積もった刹那は、確かに彼らの隙間を埋め合わせた。
圧倒的なスキルを持つ個と個は、10年という歳月でたった一つの存在に。
そう、バンドに成った。

船はこれから先、どこへ向かうだろう。
どんな景色を見せてくれるだろう。
10年前、僕らは新たな船の旅立ちをただ見守るだけだった。
だが今は同じ景色を共有し、絶望の象徴だった「Insomnia」を笑顔で歌う細美に、声を重ねることができる。

《僕はまだ道の途中/いつまでも振り返ってるわけにはいかない/学ぶべきことがまだたくさんあるんだ(対訳)》(“Time Is Running Out”)。

ライブは人生の打ち上げだ、と彼らはよく口にする。
その言葉を胸に、好きな歌を口ずさみながら今日も戦っていく。
月明かりの下、浮かぶ船の宴にまた顔を出せる日を待ち望んでいる。

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