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23才の夏休み

神聖かまってちゃんと私と夏休み

 
物心ついた時から、夏休みが苦手だった。友達や先生、好きな人に会えず、終わりの見えない宿題と対峙すること。朝から晩まで部活やバイトに明け暮れて、曜日感覚もなくなること。うだる暑さに蜃気楼を見ること。拭っても滴る、まとわりつく汗の様に永遠を感じていたところに、急に終わりを突きつけてくるような、夏休みが苦手だった。

ただ、唯一楽しみにしている夏休みがあった。
23才の夏休みだった。

ロックバンド・神聖かまってちゃんの2010年リリースのミニアルバム「友達を殺してまで」。彼らの代表曲である「ロックンロールは鳴り止まないっ」が収録されており、繊細なイントロと脈々と紡がれる熱いロックへの高鳴りを前に立ち尽くしたことを覚えている。その他「ぺんてる」「学校に行きたくない」「死にたい季節」など、青い春の衝動を至近距離から素手で投げつけてきた。
その中でポツンと、遠いところから少し先の話をしている曲があった。それが「23才の夏休み」だった。
 

〈僕は今年で23才 少し顔がやつれてる
「夏が来た」なんて言ってもどこにも行かない
予定がないからね〉(23才の夏休み)

この歌を聞いていた14才の夏休みには、大人になれば社会に揉まれて夏休みが特別なものや苦手なものに感じることなんてなくて、予定がないことなんて何でもないのだろうな、と思っていた。制服から解放されることを願っていたように、夏休みからの解放を、歌に乗せて夢見ていた。

実際に大学を卒業して社会人になった。
夏休みなんて言えるものは数えるくらいしかなく、予定なんてなかった。クーラーの効いた部屋で昼過ぎに目が覚めた夏休み初日、虚無だけが襲ってきた。
 

〈君が僕にくれたあのキラカード
その背中に貼り付けてやるよ〉

夏休みから逃げるように君の背中に貼ったキラカードを、1日中追いかけていたあの時から自転車を漕ぎ続けて大人になったら、君がくれたキラキラしているだけのカードなんて突き返せるくらい、自由で広い世界を見ているのだと思っていた。

しかし、23才の夏休みは6畳の世界しかなかった。宿題も部活もバイトも無ければ、冷房で寒さすら感じる夢見ていた空間には、何もなかった。

君にもらったキラキラしているだけのカードはどこかに落としてきてしまったようで、手元になかった。突き返すどころか、探し追いかけて自転車を漕いでしまった。どこに落としたか見当がつかず、日が暮れた。

23才の夏休みも、好きになれなかった。

結局キラカードを見つけられないまま時だけが過ぎ、気づいたら9月1日になっていた。
何一つ見つけられないまま、8月32日はやって来ることなく、夏休みはプツリと終わった。
 

神聖かまってちゃんの楽曲には、他にも「22才の夏休み」「26才の夏休み」「33才の夏休み」がある。
「22才の夏休み」は「23才の夏休み」の変奏バージョンで、この頃の1年の差は、正直無いに等しいと感じている。

〈26才の夏休み僕はかけらをただ拾い集めてる〉(26才の夏休み)

〈空浮かぶ僕の雲 寂しげ夏
33才さ人生にただ疲れてる
きっとこの先は叫んだって
君との夏はいつか終わるんだって
消えて行こう水色の街中へ〉(33才の夏休み)

これから私が迎える夏休みは、どんどん虚無が大きくなっているのだと歌われている気がする。
正直ピンと来ていないのは、私の心の中の未来に対する不明瞭さや不安のせいだろう。

今後、私が夏休みを好きになる時は来るのだろうか。
キラカードはいつかまた手に入るのだろうか。
夏休みに何を求めているのだろうか。
何を手に入れれば、何を思えば、私は夏休みに満たされるのだろうか。
3年後の26才の夏休み、10年後の33才の夏休みを聴く私は何を思うのだろうか。

この夏は何も見つけられなかったが、無くしてしまったキラカードの代わりに、「26才の夏休み」「33才の夏休み」を持って、またしばらく自転車を漕ぎ続けてみようと思っている。
いつの間にか夏休みに幻想を抱いてるようにも思えてきたが、少しだけ、これからの夏休みを楽しみに思えてきた気がする。多分。

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