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SOSは鳴り止まない

会社の有線から流れたヒトリエと、私

重たい会社の扉を開いた私の耳に飛び込んできたのは、あのつんざくようなギターの音。

「センスレス・ワンダー」の、踊らずにはいられないリフだった。

真っ黒の無機質なモニターが一斉に私を見て、まだ誰も出勤していない会社で思わず出そうになった涙を飲み込んで、タイムカードを押すこともなく私はしばらくその場にぼーっと突っ立っていた。生き続ける音楽の存在を証明されたようで、ひどく胸がつかえて、もう仕事なんてする気になれなかった。満員の山手線に揺られて出勤したのに、なんてざまだ。

まだ、「笑えない」のだ。私は。
 
 

“ヒトリエ、3人で全国15ヶ所を巡るツアー”HITORI-ESCAPE TOUR 2019″9月より開催決定”
重たく引きずるような梅雨がいつまでも続くある日、そうした見出しが目に飛び込んできたのはTwitterだった。
「3人」の文字にまず変な鳥肌がたったし、「ツアー」の文字を頭は受け入れられなかった。

あのヒトリエが、3人で、全国を回る。回りきれなかった場所を、まるで穴を埋めていくかのように。

信じられない、という気持ちと。そんなの成功するわけない、という気持ちが先走った。
新木場COASTでの追悼ライブに、私は行くことが出来なかった。
繁忙期を理由に、「まあ、次行けばいいか」と見送ったライブだった。

次、なんて、いつあるかもわからなかったのに。
結果として、次、なんてなかったのに。

wowakaの訃報で埋め尽くされたTwitterも、ニコニコ動画で再放送された追悼ライブの生放送も、流れるコメントも、会場で歌うシノダも、ぽっかり空いた真ん中に供えられたギターも、会場で踊り泣く人たちも、何もかもに置き去りにされたまま、ただただ私は日々を過ごしていた。
悲しむ権利なんてないと思っていた。だって、私は結局、「次」を理由にして彼らを見送っていたのだから。

ツアーのチケットも、買う気にはなれなかった。
生放送で見たライブは素晴らしかった。
そこには、「ヒトリエ」がいる、と思った。

「青」を歌うシノダに、いつかのwowakaがダブって見えた。嘘じゃない。見えたんだ。

それでも、私は3人のヒトリエをたぶん、受け入れられてなかったんだと思う。
メンバーのコメントを見ても、Twitterで流れるファンの声を見ても、何を見ても、何も追いつけなかった。
 

重たい足を引きずりながら、いつものように開けた会社の扉。
連休明けで溜め込んだ仕事があったので、1時間早めに出社しなければならず、憂鬱だった。

扉を開けて、私の耳をつんざくようにして流れてきたギターのリフ。

何を見ても追いつけなかった私に。
ずっと、ヒトリエの音楽から逃げ続けていた私に。

有線から流れてきたセンスレス・ワンダーは、「いい加減に追いつけよ」と叫んでいるように聞こえた。
 

その日、私は追加公演の決まった東京公演のチケットの申し込みボタンを押した。
 

私が追いつく番だ。
もう一度、追いかけてもいいだろうか。
もう二度と、追いつけないとは分かっていても。

それでも、また私は「そちらの世界へ行きたいんだ」。

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