ラクダ、日本武道館にてワンマンコンサート。
SUPER BEAVER 結成14年目の一対一
2018年5月9日
63
「朝ご飯、パンでいい?」
そう言って、母はサンドウィッチとコンソメスープを出してくれた。
2018年4月30日。快晴。
朝ご飯をしっかり摂った私は、大阪から東京へ向かった。
新幹線の中ではもちろん、SUPER BEAVERの曲を聴いていた。
こういう日に限ってシャッフル機能が本領を発揮する。
あぁ、もう泣きそう。
三列シートの窓側に座っていた私は、オーディオ機器の優秀な機能と闘っていた。
早く始まってほしいような、でも終わってほしくない。
そんな葛藤を抱きながらも時間は平等に進む。
九段下、「聖地」とうたわれている日本武道館。超満員。
それぞれの思いを胸に、都会のラクダSP at 日本武道館。
さて、開演。
ずるいと思った。
待ちわびているファンの心情を弄ぶかのように、スクリーンに映る彼らの軌跡。
あの会場にいた誰もが
自分と彼らと出会った日、そして共に歩んできた日々を思い出していたと思う。
そんな60秒を経て、マイクから放たれる渋谷氏の声。
「レペゼンジャパニーズポップミュージック、フロムトーキョージャパン」
何がポップミュージックやねん!
とか突っ込みたくなるような、超ド派手なシャツを着た渋谷氏。
こんなヤ○キーみたいな格好の人、好きになる予定なんかなかったのになァ。
人生、何があるか本当にわからない(最大の敬意と感謝をこめて)。
まぁ私にとって彼の柄シャツは、
ライブの楽しみの一つだったりするのだけれど。
「全員お手を拝借。そう、全員だよ。」
本当に全員が手を挙げるまでしっかりと見届けてから、彼らは曲を始めた。
間違いなく美しい日になることなんて、ライブが始まる前から、
いや、武道館単独公演が発表されてから分かっていたことだけど、
それが確信へと変わった瞬間だった。
≪今日までの 道のりがさ 正しく最短だったのかって
わからないけど なんとなく これで良かったと思っている/美しい日≫
始まったばかりの今日だったが、
美しい日になることを肯定するかのように歌われた。
続けてテンポよく、≪心から 心の奥まで≫と渋谷氏の声が耳に届く。
≪あなたには 心の奥まで 潜り込んできて欲しい/証明≫
客席からの大合唱、お互いにその存在を確かめ合う時間だった。
そんな、大切な武道館公演が始まった、という余韻すら与えないように
≪うるさければ 耳を塞いで≫と力強い声が突き刺さる。
≪大切だから 言わせてよ 僕は あなたの 味方なんだよ/うるさい≫
自分自身の弱さを、荒々しくも繊細に優しく包み込んでくれる。
彼らが味方になってくれていることは何より心強く、誇らしいことだ。
柳沢氏が煽り、ステージ、客席ともに一体感を増していく。
楽器陣の音がなくなり、一呼吸。
「日本武道館に意味があるんじゃなくて、あなたがいる日本武道館だから意味がある。」
「本日はSUPER BEAVERの武道館でもあり、同時にあなたの武道館です。」
そう、これこれ。
こういうところが、たまらなく好き。
「あなたの存在が大切なんです」って声を大にして伝え続けてくれるから、
自分が嫌いで仕方がなかった私も彼らを好きになった自分が、
この空間に足を運ぶ選択をした自分が、誇らしく思える。
自分を大切にしたいとさえ思わせてくれる。
彼らと出会って初めて、自分を好きになれた。
そんな結成14年目のバンドの闘い方を示す“正攻法”。
この曲はライブで聴くと、音源とは違う曲かと思うほどにかっこよくなる。と思う。
暗い証明の中に響くギターリフ。バスドラムの刻む音とともに渋谷氏の胸も鋭く動く。
≪正攻法でいい まっすぐでいい まっすぐがいい/正攻法≫
まっすぐに生きたいと願いながらも、日々嘘をついてしまう、
そんな人、たくさんいるのではないだろうか。
だけど彼らは何の疑いもなく≪馬鹿のその先を見ている≫。
嘘をつかない。
そんな当たり前のことを貫くことこそ、かっこよく生きる秘訣なのではないだろうか。
まっすぐな気持ちになったまま、疾走感あふれるナンバーへ。
曲に合わせて渋谷氏の足も軽くなり、喜劇のように踊る場面も。
≪無駄な事などないよ なんて 僕も思わないけど
悔しさ 虚しさも 知るあなたは 知るあなたは
大丈夫 あの日より 強い人 強い人/ファンファーレ≫
転調し、“らしさ”のイントロへと続く。
≪僕は君じゃないし 君も僕じゃないから
すれ違う 手を繋ぐ そこには愛だって生まれる/らしさ≫
結局、彼らの歌うことってどの曲もそう変わらないのだろう。
芯はぶれず、表現豊かに、聴き手に伝わるよう、伝える。
特別なことは歌っていない。
だけど、ハッと気づかされることがたくさんある。
攻めのセットリストを掲げていたと思えば、
このタイミングで“赤を塗って”が披露される。
「俺も楽器ができるんだってところ、見せてもいいでしょうか?」と
誇らしげにタンバリンを手に取る渋谷氏。
ふふふ。こういうところも堪らなく好き。
タンバリンの心躍る音にあわせ、オーディエンスも踊る。
≪寂しいなんて 言わないから 二人でいるときは 私だけを見て
追いかけないし 待ってるから 別れ際にせめて キスくらいはして/赤を塗って≫
柳沢氏の綴る歌詞はどうしてこうもオールマイティーなんだろうか。
男らしいギターをかき鳴らしてるかと思えば
こんなにも女性らしい心情を捉える曲までも作り上げる。
そんな歌詞を渋谷氏が歌うというのも魅力的なのだ。
歌詞に合わせて、色っぽく紅を塗る仕草。
ここで再度お伝えするが、そう、彼は超ド派手なシャツを着ている。
「上手くいくならそれに越したことはない。
だけど、上手くいかなかった時のほうが、上手くいった時よりも、
上手くいく可能性があると思っている。」
次に始まる曲を諭すような言葉たち。
彼の言葉には説得力がある。
それは彼らのたどってきた道のりに、色々な景色があったこと、
そしてその道のりを私たちにも隠さず伝えてくれていることにあると思う。
≪あなたの顔とか浮かんで 気付けば笑ってしまって 再会と 今 始まりを/361°≫
「あなたの背中 だけ 、押しに来ました!」
と何のためらいもなく言い切り、歌う、“歓びの明日に”。
未来、という漠然の「先」ではなく、一秒先を照らしてくれる、最強のナンバー。
だからこそ不確かな未来を、彼らと共に生きたいと思わせてくれる、最強のナンバー。
≪そうやって哀しみと 後悔の先でまた会おう
一切を噛み締めて ひどい顔で笑いながら/歓びの明日に≫
そしてステージは暗転。
青黒い照明の中から≪ロックスターは死んだ まだ僕は生きてる/27≫
と、一度聞くと脳裏から離れない、印象的な歌詞が歌われる。
≪何をするにも思うんだ 大好きな人たちが
悲しくならないかって 笑っていられるかって/27≫
彼らの27年間の生き方が刻まれた曲。
異様な雰囲気が放たれた“27”だったが、
直後、それ以上の衝撃に襲われることとなった。
ストリングスのSEが流れながら、
ステージ後方、スクリーンが中央から開けてゆく。
と思っていた音たちは、まぎれもなく生演奏だった。
会場が衝撃に包まれている中、
神々しく照らされたステージから渋谷氏の声が降り注ぐ。
すごい すごすぎる なにこれ すごい えっと ここ天国?
圧巻のステージに、そんな感情しか浮かばなかった。
≪人として かっこよく生きていたいじゃないか/人として≫
何度も耳にしてきた楽曲だったが、その何十倍、何百倍にもパワーアップしていた。
「一度やってみたかったんだ」と、少し照れくさそうに、
だが「一緒にやることで、何倍にも伝わる何かがあると思った。聴いてもらえてよかった。」と確固たる意志も伝える。
この曲はこれからもパワーアップしていくに違いない、と思った。
「武道館は聖地です。ただ、一つの通過点にしなきゃいけないなって話してたんだけど、違ってた。武道館は立派な到達点。片手間で人と向き合ってきたつもりはなくて、いつだってその場所その場所で足を止めて向き合って歌ってきた。駆け足で駆けのぼることも必要なこと、だけど俺たちはそうしなかった。そしたら14年もかかってしまった。」
渋谷氏は笑っていたが、恥じらう様子は一切なく、寧ろ、堂々と、
14年、という重みを誇らしげに語っているように見えた。
「この到着点が終着点ではないことに俺らの面白さがあると思っています。これからもよろしく。」
この武道館公演で、いちばん興味深い言葉だったと思う。
彼らが毎回立ち止まって、そのたびに一対一で向き合って、
手を取ってくれたから、
忘れもしない2013年11月9日、私も手を握り返すことができた。
この14年という時間をかけて築いてきたものは、間違いなく彼らにしか生み出せない。
そしてこれから先も、間違いなく唯一無二のバンドで在り続けるのだ。
「メジャーにいたときに、これなんじゃないかって胸を張ってやっていた曲。今日も胸を張って、あなたの前でやってもいいでしょうか?」
≪僕が君に伝えたい たくさんの言葉は
いつの間にか 意味を変えて 大切なモノになった/シアワセ≫
スクリーンに映し出される歌詞を、一言ひとこと大切に奏でる4人。
その言葉を後押しするかのように、ストリングス隊も音を重ねる。
すべてはつながっている
そんな彼の言葉を体現したかのような時間だった。
さてと。
と仕切り直すかのように、オーディエンスのハンズアップを促す柳沢氏。
≪会いたい人がいる 胸の奥をずっと 掴むあなたが
くじけそうならば 今度は僕らが 笑わせたいんだよ
あなたが生きる意味だ と 伝えたら 笑うかな
そんな歌が歌いたい 始まりは 青い春/青い春≫
壁線引き隔たり一切合切を排除する合言葉“東京流星群”。
≪愛してるよ 愛しててよ/東京流星群≫
日の丸をも飲み込むように、ミラーボールが輝く。
東京流星群という合言葉は、バンドとその観客、という垣根を無にしていく。
「コールアンドレスポンスというものは、ただ手を挙げて、歌って、ということに反応するんじゃなくて、想いの交換だと思う。」と、彼らしいコール。
その想いを受け取ったオーディエンスは、これでもか!と言わんばかりに、
歌声に彼らへの気持ちを乗せ、レスポンスをする。
「どんな自分になりたかったとか、もっとああすればよかったなァとかそういうことには興味がなくて、今のあなたにしか興味がない!」
≪好きなこと 好きな人 大切にしたいこだわり
胸を張って口にすることで 未来を照らすんだよなあ/秘密≫
この曲を聴くと、私はSUPER BEAVERが大好きだ!と叫びたくなる。
曲中にはメンバー4人と、あなたを含めてSUPER BEAVERだと、全員で再確認する。
あぁ、大好きだ。
自分の中で、彼らへの愛が込み上げてくるのが解った。
ライブもとうとう終盤へ。
「4人で始めたバンドだったが、4人だけでは成り立たなくなってしまった。ここまで来ることができたのは、チーム、仲間、自分たちの音楽を信じ続けてくれたあなたのおかげだ」
ゆっくりと、一人ひとりの目を見ながら、丁寧に伝えられる、想い。
こんな言葉を言ってもらえる私は本当に幸せ者だと思う。
感謝を込めた拍手はなかなか鳴り止まなかった。
「やめて!辛くなる、心がキューっとなる」
いやいや、私のほうが先に心がキューっと鳴ってるからね?仕返しだよ!
とか思いながら、しっかり伝わるように、コールアンドレスポンス。
もちろん渋谷氏だけではなく柳沢氏、上杉氏、藤原氏、
そしてチームSUPER BEAVER皆様に伝わるように…。
「インディーズのまま武道館まで行ってみようと思った。それがかなった2018年4月30日。とってもとっても特別な日だけど、とってもとっても普通の日です。」
「毎日繰り返す当たり前があること。いつまでも誰かが近くにいてくれるっていうこと。全然当たり前じゃなくて、いつか必ず終りが来る。ひとりで生まれて、ひとりで死んじゃう。だけどその間、誰の手を取ってどういう風に歩むかは全部あなたが決めていいこと。」
もう正直、キャパオーバー。
悔しいけど一言一句、正しく覚えてなんかいない。
でも一対一の対峙でしか成り立たない。
しっかりと想いを受け取る、密な時間。
「あなたの大切な人に直接ありがとうとは言えないけれど、あなたを通して、届けられると思っています。目の前にいるあなたに向けて、次の曲を全身全霊、心を込めて思いっきり歌おうと思います。しっかりと受け取ってください。」
日本武道館だからといって、今までのスタンスを変えているわけでは無い。
彼らは今までと同じやり方で、
当たり前かのように「過去最高」を作り出してゆく。
柳沢氏のギターから“ありがとう”の演奏が始まる。
音が一度止むと、
「少しも当たり前だと思っていませんので!!これからもよろしくお願いします!!」
と、渋谷氏はこの日一番の声で叫び、ステージの4人は深々と頭を下げた。
≪ありがとう 見つけてくれて ありがとう
受け止めてくれて ありがとう 愛してくれて ありがとう
ありがとう 憶えててくれて ありがとう 受け入れてくれて ありがとう
大切をくれて ありがとう/ありがとう≫
この曲が持つ力はまだまだ計り知れないと思った。
魔物かとさえ思った。
聴き手の私たちにどれだけの想いを抱いてくれているか。
今この瞬間、どれだけの想いを伝えようとしてくれいてるか。
あなたがいて、私がいて、そんな一対一の関係をどれだけ大切にしているか。
言葉、声、音、表情、動き、空気感…
正に、全身全霊、だった。
私もそのすべてを受け取ることに必死だった。
ありがとう
あなたに伝えずにはいられなかった。
そんな幸せな空間をさらに増幅させるかのように“愛する”の大合唱。
≪あなたが愛する全てを 愛する/愛する≫
この歌は究極の愛の答えだと思う。
武道館が最大の愛に包まれた瞬間だった。
これにて本編終了。
アンコールを待ちわびるオーディエンスに、
SUPER BEAVERの これから が映し出される。
「新曲、やってもいいですか?」と歌われたのは“ラヴソング”。
どんなラヴソングなんだろう、と、歌詞をよくよく聴いてみるが、
結局は彼らが大切にしてくれいている 私 には幸せになってほしいんだ
という内容ではないか!!
もはや、憎かった(最大級のほめ言葉)。
ここで渋谷氏が改めて、想いの乗った言葉を発する。
「本当に、今日が嬉しかったのと、今日が楽しかった。ありがとね。」
本当にこの言葉がしっくりくるんだろうなと思うほど、彼の心そのものだった。
「これからもレペゼンジャパニーズポップミュージック、フロムトーキョージャパンを背負って、あなたと一対一の対峙を、あなたたちじゃなく、あなたに歌っていくバンドでありたいと思います。これからもよろしくお願いします。」
とこれから進んでいく、バンドの道をしっかりと照らした。
何度目か分からないあたたかい拍手の中なら、
「同じ時代を、同じ時を生きられて…」と目頭を熱くしながら語り始める。
客席からは彼の声を聴き逃さないようにと、待ちながらも励ます声が飛ぶ。
「うっす!…うっすじゃねぇよな」
なんて言いながらも想いをしっかり届け、
「ぶっちゃけあと2曲!死ぬ気でかかっていくんでよろしく!!」と
残りわずかな時間に向けて、エンジン全開。
ラスト2曲はバチバチのやり合いだった。
≪終わりは終わりで そういう世界だ だから愛しい だから命を
懸けているんだ そうだろう?/それでも世界が目を覚ますのなら≫
「それでも世界が目を覚ますのなら、それは素晴らしい世界だ!」
≪素晴らしい人生と 素晴らしい世界だと 笑うにはさ
独りでは意味がない わかってるかい あなたがいなきゃ意味ない
何も無い 誰も無い そんな世界では生きてると言えない
共に有る 共に在ることを 歓べたら きっと/素晴らしい世界≫
黄金の華吹雪が舞う日本武道館は、それはそれは素晴らしい世界だった。
終演後、いろんな感情がぐるぐると渦巻いていた私は
脳内を整理することができずにいた。
幸せだ
という漠然とした感情を抱いたまま、
九段下、日本武道館を後にし、夜行バス乗り場へと向かう。
「あぁ、仕事じゃないか…」
なんだかとても久しぶりなような気持ちで、朝礼に出席する。
隣に座る先輩を見て
「この人も、誰かにとっては大切な人なんだよな…」
無意識にそんな事を思った私は、不覚にも泣きそうになった。
大好きな音楽を聴いたからといって、
日々に変化が訪れるわけではない。
嫌な自分をすぐに変えられるわけでもない。
だけど、そういう日々が自分を作っているし、
そういう日々を選んでいるのも自分自身。
次に彼らと対峙する時、
少しでも胸を張っていられるよう、
私は今を生きていく。
こちらこそ、ありがとう。
これからも、よろしくね。
そう言って、母はサンドウィッチとコンソメスープを出してくれた。
2018年4月30日。快晴。
朝ご飯をしっかり摂った私は、大阪から東京へ向かった。
新幹線の中ではもちろん、SUPER BEAVERの曲を聴いていた。
こういう日に限ってシャッフル機能が本領を発揮する。
あぁ、もう泣きそう。
三列シートの窓側に座っていた私は、オーディオ機器の優秀な機能と闘っていた。
早く始まってほしいような、でも終わってほしくない。
そんな葛藤を抱きながらも時間は平等に進む。
九段下、「聖地」とうたわれている日本武道館。超満員。
それぞれの思いを胸に、都会のラクダSP at 日本武道館。
さて、開演。
ずるいと思った。
待ちわびているファンの心情を弄ぶかのように、スクリーンに映る彼らの軌跡。
あの会場にいた誰もが
自分と彼らと出会った日、そして共に歩んできた日々を思い出していたと思う。
そんな60秒を経て、マイクから放たれる渋谷氏の声。
「レペゼンジャパニーズポップミュージック、フロムトーキョージャパン」
何がポップミュージックやねん!
とか突っ込みたくなるような、超ド派手なシャツを着た渋谷氏。
こんなヤ○キーみたいな格好の人、好きになる予定なんかなかったのになァ。
人生、何があるか本当にわからない(最大の敬意と感謝をこめて)。
まぁ私にとって彼の柄シャツは、
ライブの楽しみの一つだったりするのだけれど。
「全員お手を拝借。そう、全員だよ。」
本当に全員が手を挙げるまでしっかりと見届けてから、彼らは曲を始めた。
間違いなく美しい日になることなんて、ライブが始まる前から、
いや、武道館単独公演が発表されてから分かっていたことだけど、
それが確信へと変わった瞬間だった。
≪今日までの 道のりがさ 正しく最短だったのかって
わからないけど なんとなく これで良かったと思っている/美しい日≫
始まったばかりの今日だったが、
美しい日になることを肯定するかのように歌われた。
続けてテンポよく、≪心から 心の奥まで≫と渋谷氏の声が耳に届く。
≪あなたには 心の奥まで 潜り込んできて欲しい/証明≫
客席からの大合唱、お互いにその存在を確かめ合う時間だった。
そんな、大切な武道館公演が始まった、という余韻すら与えないように
≪うるさければ 耳を塞いで≫と力強い声が突き刺さる。
≪大切だから 言わせてよ 僕は あなたの 味方なんだよ/うるさい≫
自分自身の弱さを、荒々しくも繊細に優しく包み込んでくれる。
彼らが味方になってくれていることは何より心強く、誇らしいことだ。
柳沢氏が煽り、ステージ、客席ともに一体感を増していく。
楽器陣の音がなくなり、一呼吸。
「日本武道館に意味があるんじゃなくて、あなたがいる日本武道館だから意味がある。」
「本日はSUPER BEAVERの武道館でもあり、同時にあなたの武道館です。」
そう、これこれ。
こういうところが、たまらなく好き。
「あなたの存在が大切なんです」って声を大にして伝え続けてくれるから、
自分が嫌いで仕方がなかった私も彼らを好きになった自分が、
この空間に足を運ぶ選択をした自分が、誇らしく思える。
自分を大切にしたいとさえ思わせてくれる。
彼らと出会って初めて、自分を好きになれた。
そんな結成14年目のバンドの闘い方を示す“正攻法”。
この曲はライブで聴くと、音源とは違う曲かと思うほどにかっこよくなる。と思う。
暗い証明の中に響くギターリフ。バスドラムの刻む音とともに渋谷氏の胸も鋭く動く。
≪正攻法でいい まっすぐでいい まっすぐがいい/正攻法≫
まっすぐに生きたいと願いながらも、日々嘘をついてしまう、
そんな人、たくさんいるのではないだろうか。
だけど彼らは何の疑いもなく≪馬鹿のその先を見ている≫。
嘘をつかない。
そんな当たり前のことを貫くことこそ、かっこよく生きる秘訣なのではないだろうか。
まっすぐな気持ちになったまま、疾走感あふれるナンバーへ。
曲に合わせて渋谷氏の足も軽くなり、喜劇のように踊る場面も。
≪無駄な事などないよ なんて 僕も思わないけど
悔しさ 虚しさも 知るあなたは 知るあなたは
大丈夫 あの日より 強い人 強い人/ファンファーレ≫
転調し、“らしさ”のイントロへと続く。
≪僕は君じゃないし 君も僕じゃないから
すれ違う 手を繋ぐ そこには愛だって生まれる/らしさ≫
結局、彼らの歌うことってどの曲もそう変わらないのだろう。
芯はぶれず、表現豊かに、聴き手に伝わるよう、伝える。
特別なことは歌っていない。
だけど、ハッと気づかされることがたくさんある。
攻めのセットリストを掲げていたと思えば、
このタイミングで“赤を塗って”が披露される。
「俺も楽器ができるんだってところ、見せてもいいでしょうか?」と
誇らしげにタンバリンを手に取る渋谷氏。
ふふふ。こういうところも堪らなく好き。
タンバリンの心躍る音にあわせ、オーディエンスも踊る。
≪寂しいなんて 言わないから 二人でいるときは 私だけを見て
追いかけないし 待ってるから 別れ際にせめて キスくらいはして/赤を塗って≫
柳沢氏の綴る歌詞はどうしてこうもオールマイティーなんだろうか。
男らしいギターをかき鳴らしてるかと思えば
こんなにも女性らしい心情を捉える曲までも作り上げる。
そんな歌詞を渋谷氏が歌うというのも魅力的なのだ。
歌詞に合わせて、色っぽく紅を塗る仕草。
ここで再度お伝えするが、そう、彼は超ド派手なシャツを着ている。
「上手くいくならそれに越したことはない。
だけど、上手くいかなかった時のほうが、上手くいった時よりも、
上手くいく可能性があると思っている。」
次に始まる曲を諭すような言葉たち。
彼の言葉には説得力がある。
それは彼らのたどってきた道のりに、色々な景色があったこと、
そしてその道のりを私たちにも隠さず伝えてくれていることにあると思う。
≪あなたの顔とか浮かんで 気付けば笑ってしまって 再会と 今 始まりを/361°≫
「あなたの背中 だけ 、押しに来ました!」
と何のためらいもなく言い切り、歌う、“歓びの明日に”。
未来、という漠然の「先」ではなく、一秒先を照らしてくれる、最強のナンバー。
だからこそ不確かな未来を、彼らと共に生きたいと思わせてくれる、最強のナンバー。
≪そうやって哀しみと 後悔の先でまた会おう
一切を噛み締めて ひどい顔で笑いながら/歓びの明日に≫
そしてステージは暗転。
青黒い照明の中から≪ロックスターは死んだ まだ僕は生きてる/27≫
と、一度聞くと脳裏から離れない、印象的な歌詞が歌われる。
≪何をするにも思うんだ 大好きな人たちが
悲しくならないかって 笑っていられるかって/27≫
彼らの27年間の生き方が刻まれた曲。
異様な雰囲気が放たれた“27”だったが、
直後、それ以上の衝撃に襲われることとなった。
ストリングスのSEが流れながら、
ステージ後方、スクリーンが中央から開けてゆく。
と思っていた音たちは、まぎれもなく生演奏だった。
会場が衝撃に包まれている中、
神々しく照らされたステージから渋谷氏の声が降り注ぐ。
すごい すごすぎる なにこれ すごい えっと ここ天国?
圧巻のステージに、そんな感情しか浮かばなかった。
≪人として かっこよく生きていたいじゃないか/人として≫
何度も耳にしてきた楽曲だったが、その何十倍、何百倍にもパワーアップしていた。
「一度やってみたかったんだ」と、少し照れくさそうに、
だが「一緒にやることで、何倍にも伝わる何かがあると思った。聴いてもらえてよかった。」と確固たる意志も伝える。
この曲はこれからもパワーアップしていくに違いない、と思った。
「武道館は聖地です。ただ、一つの通過点にしなきゃいけないなって話してたんだけど、違ってた。武道館は立派な到達点。片手間で人と向き合ってきたつもりはなくて、いつだってその場所その場所で足を止めて向き合って歌ってきた。駆け足で駆けのぼることも必要なこと、だけど俺たちはそうしなかった。そしたら14年もかかってしまった。」
渋谷氏は笑っていたが、恥じらう様子は一切なく、寧ろ、堂々と、
14年、という重みを誇らしげに語っているように見えた。
「この到着点が終着点ではないことに俺らの面白さがあると思っています。これからもよろしく。」
この武道館公演で、いちばん興味深い言葉だったと思う。
彼らが毎回立ち止まって、そのたびに一対一で向き合って、
手を取ってくれたから、
忘れもしない2013年11月9日、私も手を握り返すことができた。
この14年という時間をかけて築いてきたものは、間違いなく彼らにしか生み出せない。
そしてこれから先も、間違いなく唯一無二のバンドで在り続けるのだ。
「メジャーにいたときに、これなんじゃないかって胸を張ってやっていた曲。今日も胸を張って、あなたの前でやってもいいでしょうか?」
≪僕が君に伝えたい たくさんの言葉は
いつの間にか 意味を変えて 大切なモノになった/シアワセ≫
スクリーンに映し出される歌詞を、一言ひとこと大切に奏でる4人。
その言葉を後押しするかのように、ストリングス隊も音を重ねる。
すべてはつながっている
そんな彼の言葉を体現したかのような時間だった。
さてと。
と仕切り直すかのように、オーディエンスのハンズアップを促す柳沢氏。
≪会いたい人がいる 胸の奥をずっと 掴むあなたが
くじけそうならば 今度は僕らが 笑わせたいんだよ
あなたが生きる意味だ と 伝えたら 笑うかな
そんな歌が歌いたい 始まりは 青い春/青い春≫
壁線引き隔たり一切合切を排除する合言葉“東京流星群”。
≪愛してるよ 愛しててよ/東京流星群≫
日の丸をも飲み込むように、ミラーボールが輝く。
東京流星群という合言葉は、バンドとその観客、という垣根を無にしていく。
「コールアンドレスポンスというものは、ただ手を挙げて、歌って、ということに反応するんじゃなくて、想いの交換だと思う。」と、彼らしいコール。
その想いを受け取ったオーディエンスは、これでもか!と言わんばかりに、
歌声に彼らへの気持ちを乗せ、レスポンスをする。
「どんな自分になりたかったとか、もっとああすればよかったなァとかそういうことには興味がなくて、今のあなたにしか興味がない!」
≪好きなこと 好きな人 大切にしたいこだわり
胸を張って口にすることで 未来を照らすんだよなあ/秘密≫
この曲を聴くと、私はSUPER BEAVERが大好きだ!と叫びたくなる。
曲中にはメンバー4人と、あなたを含めてSUPER BEAVERだと、全員で再確認する。
あぁ、大好きだ。
自分の中で、彼らへの愛が込み上げてくるのが解った。
ライブもとうとう終盤へ。
「4人で始めたバンドだったが、4人だけでは成り立たなくなってしまった。ここまで来ることができたのは、チーム、仲間、自分たちの音楽を信じ続けてくれたあなたのおかげだ」
ゆっくりと、一人ひとりの目を見ながら、丁寧に伝えられる、想い。
こんな言葉を言ってもらえる私は本当に幸せ者だと思う。
感謝を込めた拍手はなかなか鳴り止まなかった。
「やめて!辛くなる、心がキューっとなる」
いやいや、私のほうが先に心がキューっと鳴ってるからね?仕返しだよ!
とか思いながら、しっかり伝わるように、コールアンドレスポンス。
もちろん渋谷氏だけではなく柳沢氏、上杉氏、藤原氏、
そしてチームSUPER BEAVER皆様に伝わるように…。
「インディーズのまま武道館まで行ってみようと思った。それがかなった2018年4月30日。とってもとっても特別な日だけど、とってもとっても普通の日です。」
「毎日繰り返す当たり前があること。いつまでも誰かが近くにいてくれるっていうこと。全然当たり前じゃなくて、いつか必ず終りが来る。ひとりで生まれて、ひとりで死んじゃう。だけどその間、誰の手を取ってどういう風に歩むかは全部あなたが決めていいこと。」
もう正直、キャパオーバー。
悔しいけど一言一句、正しく覚えてなんかいない。
でも一対一の対峙でしか成り立たない。
しっかりと想いを受け取る、密な時間。
「あなたの大切な人に直接ありがとうとは言えないけれど、あなたを通して、届けられると思っています。目の前にいるあなたに向けて、次の曲を全身全霊、心を込めて思いっきり歌おうと思います。しっかりと受け取ってください。」
日本武道館だからといって、今までのスタンスを変えているわけでは無い。
彼らは今までと同じやり方で、
当たり前かのように「過去最高」を作り出してゆく。
柳沢氏のギターから“ありがとう”の演奏が始まる。
音が一度止むと、
「少しも当たり前だと思っていませんので!!これからもよろしくお願いします!!」
と、渋谷氏はこの日一番の声で叫び、ステージの4人は深々と頭を下げた。
≪ありがとう 見つけてくれて ありがとう
受け止めてくれて ありがとう 愛してくれて ありがとう
ありがとう 憶えててくれて ありがとう 受け入れてくれて ありがとう
大切をくれて ありがとう/ありがとう≫
この曲が持つ力はまだまだ計り知れないと思った。
魔物かとさえ思った。
聴き手の私たちにどれだけの想いを抱いてくれているか。
今この瞬間、どれだけの想いを伝えようとしてくれいてるか。
あなたがいて、私がいて、そんな一対一の関係をどれだけ大切にしているか。
言葉、声、音、表情、動き、空気感…
正に、全身全霊、だった。
私もそのすべてを受け取ることに必死だった。
ありがとう
あなたに伝えずにはいられなかった。
そんな幸せな空間をさらに増幅させるかのように“愛する”の大合唱。
≪あなたが愛する全てを 愛する/愛する≫
この歌は究極の愛の答えだと思う。
武道館が最大の愛に包まれた瞬間だった。
これにて本編終了。
アンコールを待ちわびるオーディエンスに、
SUPER BEAVERの これから が映し出される。
「新曲、やってもいいですか?」と歌われたのは“ラヴソング”。
どんなラヴソングなんだろう、と、歌詞をよくよく聴いてみるが、
結局は彼らが大切にしてくれいている 私 には幸せになってほしいんだ
という内容ではないか!!
もはや、憎かった(最大級のほめ言葉)。
ここで渋谷氏が改めて、想いの乗った言葉を発する。
「本当に、今日が嬉しかったのと、今日が楽しかった。ありがとね。」
本当にこの言葉がしっくりくるんだろうなと思うほど、彼の心そのものだった。
「これからもレペゼンジャパニーズポップミュージック、フロムトーキョージャパンを背負って、あなたと一対一の対峙を、あなたたちじゃなく、あなたに歌っていくバンドでありたいと思います。これからもよろしくお願いします。」
とこれから進んでいく、バンドの道をしっかりと照らした。
何度目か分からないあたたかい拍手の中なら、
「同じ時代を、同じ時を生きられて…」と目頭を熱くしながら語り始める。
客席からは彼の声を聴き逃さないようにと、待ちながらも励ます声が飛ぶ。
「うっす!…うっすじゃねぇよな」
なんて言いながらも想いをしっかり届け、
「ぶっちゃけあと2曲!死ぬ気でかかっていくんでよろしく!!」と
残りわずかな時間に向けて、エンジン全開。
ラスト2曲はバチバチのやり合いだった。
≪終わりは終わりで そういう世界だ だから愛しい だから命を
懸けているんだ そうだろう?/それでも世界が目を覚ますのなら≫
「それでも世界が目を覚ますのなら、それは素晴らしい世界だ!」
≪素晴らしい人生と 素晴らしい世界だと 笑うにはさ
独りでは意味がない わかってるかい あなたがいなきゃ意味ない
何も無い 誰も無い そんな世界では生きてると言えない
共に有る 共に在ることを 歓べたら きっと/素晴らしい世界≫
黄金の華吹雪が舞う日本武道館は、それはそれは素晴らしい世界だった。
終演後、いろんな感情がぐるぐると渦巻いていた私は
脳内を整理することができずにいた。
幸せだ
という漠然とした感情を抱いたまま、
九段下、日本武道館を後にし、夜行バス乗り場へと向かう。
「あぁ、仕事じゃないか…」
なんだかとても久しぶりなような気持ちで、朝礼に出席する。
隣に座る先輩を見て
「この人も、誰かにとっては大切な人なんだよな…」
無意識にそんな事を思った私は、不覚にも泣きそうになった。
大好きな音楽を聴いたからといって、
日々に変化が訪れるわけではない。
嫌な自分をすぐに変えられるわけでもない。
だけど、そういう日々が自分を作っているし、
そういう日々を選んでいるのも自分自身。
次に彼らと対峙する時、
少しでも胸を張っていられるよう、
私は今を生きていく。
こちらこそ、ありがとう。
これからも、よろしくね。
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