ショートヘアの女の子を好きになった話。
青春ゾンビ、Base Ball Bearについて
2019年5月20日
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身に覚えなんてないのに何故か心を掴んで離さなかったり、どうでもよかったはずのことが自分の一部だと、自分の“マテリアル”のようなものだと感じさせられたりする言葉、詞、歌がこの世には確かに存在する。それはいつか人の生き方や思想、哲学に大きく結びつくことがあって、何か自分に起こった時の考え方に影響していったりする。
僕にとってBase Ball Bear(以下、ベボベ)がその一つであった。特に好きな女の子がいない時でもベボベを聴いていると、なんだかちょっとだけふわふわしていた。信じてしまう。こんな恋愛や女の子は存在するんだと。薄荷の味の午後にすれちがう涼風ガールを感じていた。小出祐介の妄想にひたすら囚われていた。小出さんの孤独や違和感、哲学をすべて信じた。
中学三年の夏、なんとなくYouTubeで曲を聴き流していたときに“short hair”が流れた。メロディと本田翼が良くて何度か聴き返した。
「死」を感じた。
最初に聴いたときは甘酸っぱい青春のラブソングだと思ったが、聴き返していくうちにその奥にある死を感じた。それから、本田翼はもう死んでしまったのではないだろうか。この女の子はもうこの世にはいないのではないだろうか。そんなことを思った。映像の独特なざらつき、本田翼の孤独感、割れた赤い風船の破片などもそう感じさせるようになってしまった。
それから僕が“PERFECT BLUE”に出逢うまでにそう長い時間はかからなかった。今度は本田翼は一人ではなかった。でも今回ははっきりとしたテーマとして「死」を感じた。「慟哭〈1〉」、「君は翔んだ〈1〉」、「君の知らない季節〈1〉」。これらの表現に僕は病みつきになった。でもどうしようもないほど、この曲はさわやかで、夏の雨のあとの水たまりのように、キラキラしていた。
そんな体験をした僕が彼らを追わないわけがなかった。メンバー個人の愉快な性格を知り、テレビに出るとディスクに落として何回も見た。Base Ball Bearのすべてを愛し、信じていた。そんなある日、湯浅さんが脱退した。
「真夜中のニャーゴ」での小出さんの状況説明は相変わらずの整理整頓力でわかりやすかったが、それでもまだわからなかった。もう終わったと思った。ベボベを聴いても湯浅さんのギターソロや、小出さんのカッティングとミックスされたリードギターの主旋律の美しさにめまいがした。まだ生で見たことがなかったのに。一本のギターでは奏でられない旋律がすごく悲しく僕の耳に響いた。しかし僕はこれからもベボベは三人でやっていくとひたすら信じて、待ち続けた。だから「光源」は本当にお気に入りの作品になったし、「ポラリス」でホリくんが歌いだしたときは地下鉄でニヤついてしまった。
Base Ball Bearとは?と聞かれたら。聞かれたことなんてもちろんないが、僕は「湿っぽい」と答える。あくまで、僕はベボベをめちゃくちゃ知っている「つもり」でいるので、「青春」とか「夏」みたいなイメージよりも、カースト上位の間を縫って歩いてきた人たちの泥臭い青春を、湿っぽくも、美しくさせる魔法のような水しぶきを創るのが“Base Ball Bear”だ。こんな結論にいたるまでの日々に僕の青春があった。
しかし皮肉なことにそれは現実にはいつまでも勝てないんだろう。僕が高校二年の時に何かの拍子で好きになった女の子は、黒髪ショートヘアの華奢な人だった。その真面目さから空回りすることが多く、たまに不安そうな顔をした。僕と話すときは本当に楽しそうで、僕の行き場のない怒りや悩みも彼女にはたくさん打ち明けた。手に取るように分かるほど、僕は彼女に惹かれていた。同時に彼女も僕をよく思ってくれていたようで、僕が想いを打ち明けると彼女は快く答えてくれた。
今思えば、その頃はベボベを全くといっていいほど聴いていなかった。言葉がわからない外国語の曲を聴いたりしていた。当時の僕に歌詞や言葉など要らなかった。現実がよくできていたから。
結局、その女の子とは縁がなく、別れてしまった。もちろん苦しかったし、悔やんだりもした。それを埋めようと手を伸ばしたとき、無意識にiPodから流したのはやっぱりベボベだった。
一秒でも永く続いてほしいと そう願って幾億秒が過ぎた
続くのは余韻と余白と記憶の通り雨 〈2〉
ああ、君のせいで 何時でも 何時までも
Darling 指、目、髪 触れるたび あふれた想いが
気まぐれな信号に変わってゆく だけど君は
Darling 強い光 時の女神
マテリアルな僕を琥珀色のリボンで撫でてゆく
あの日のように 一秒で 〈2〉
今は特に浮足立った話もないが、ベボベを聴かなくなった。特に理由はない。怒りも悩みもある。ただベボベにもたれるのをやめたのだ。他の支えが増えた。それだけである。またいつか聴き漁る日々が来るだろう。きっと。
こんなに長く書くとは思わなかった。最後に、絶対にこの記事は例の女の子に読んでほしくないのだが、もし読んでいてここまで辿り着いたなら!「そんなに好きじゃなかった」を聴いてほしい。それが今言いたいことのすべてだ、10年後の同窓会とかでまた話せたらいいな。不安そうな顔はもうしてないだろうし。もう黒髪でもショートヘアでもない君と、話したいことはいくらでもある。
〈1〉シングル”PERFECT BLUE”収録の”PERFECT BLUE”より引用
〈2〉アルバム「光源」収録の”Darling”より引用
僕にとってBase Ball Bear(以下、ベボベ)がその一つであった。特に好きな女の子がいない時でもベボベを聴いていると、なんだかちょっとだけふわふわしていた。信じてしまう。こんな恋愛や女の子は存在するんだと。薄荷の味の午後にすれちがう涼風ガールを感じていた。小出祐介の妄想にひたすら囚われていた。小出さんの孤独や違和感、哲学をすべて信じた。
中学三年の夏、なんとなくYouTubeで曲を聴き流していたときに“short hair”が流れた。メロディと本田翼が良くて何度か聴き返した。
「死」を感じた。
最初に聴いたときは甘酸っぱい青春のラブソングだと思ったが、聴き返していくうちにその奥にある死を感じた。それから、本田翼はもう死んでしまったのではないだろうか。この女の子はもうこの世にはいないのではないだろうか。そんなことを思った。映像の独特なざらつき、本田翼の孤独感、割れた赤い風船の破片などもそう感じさせるようになってしまった。
それから僕が“PERFECT BLUE”に出逢うまでにそう長い時間はかからなかった。今度は本田翼は一人ではなかった。でも今回ははっきりとしたテーマとして「死」を感じた。「慟哭〈1〉」、「君は翔んだ〈1〉」、「君の知らない季節〈1〉」。これらの表現に僕は病みつきになった。でもどうしようもないほど、この曲はさわやかで、夏の雨のあとの水たまりのように、キラキラしていた。
そんな体験をした僕が彼らを追わないわけがなかった。メンバー個人の愉快な性格を知り、テレビに出るとディスクに落として何回も見た。Base Ball Bearのすべてを愛し、信じていた。そんなある日、湯浅さんが脱退した。
「真夜中のニャーゴ」での小出さんの状況説明は相変わらずの整理整頓力でわかりやすかったが、それでもまだわからなかった。もう終わったと思った。ベボベを聴いても湯浅さんのギターソロや、小出さんのカッティングとミックスされたリードギターの主旋律の美しさにめまいがした。まだ生で見たことがなかったのに。一本のギターでは奏でられない旋律がすごく悲しく僕の耳に響いた。しかし僕はこれからもベボベは三人でやっていくとひたすら信じて、待ち続けた。だから「光源」は本当にお気に入りの作品になったし、「ポラリス」でホリくんが歌いだしたときは地下鉄でニヤついてしまった。
Base Ball Bearとは?と聞かれたら。聞かれたことなんてもちろんないが、僕は「湿っぽい」と答える。あくまで、僕はベボベをめちゃくちゃ知っている「つもり」でいるので、「青春」とか「夏」みたいなイメージよりも、カースト上位の間を縫って歩いてきた人たちの泥臭い青春を、湿っぽくも、美しくさせる魔法のような水しぶきを創るのが“Base Ball Bear”だ。こんな結論にいたるまでの日々に僕の青春があった。
しかし皮肉なことにそれは現実にはいつまでも勝てないんだろう。僕が高校二年の時に何かの拍子で好きになった女の子は、黒髪ショートヘアの華奢な人だった。その真面目さから空回りすることが多く、たまに不安そうな顔をした。僕と話すときは本当に楽しそうで、僕の行き場のない怒りや悩みも彼女にはたくさん打ち明けた。手に取るように分かるほど、僕は彼女に惹かれていた。同時に彼女も僕をよく思ってくれていたようで、僕が想いを打ち明けると彼女は快く答えてくれた。
今思えば、その頃はベボベを全くといっていいほど聴いていなかった。言葉がわからない外国語の曲を聴いたりしていた。当時の僕に歌詞や言葉など要らなかった。現実がよくできていたから。
結局、その女の子とは縁がなく、別れてしまった。もちろん苦しかったし、悔やんだりもした。それを埋めようと手を伸ばしたとき、無意識にiPodから流したのはやっぱりベボベだった。
一秒でも永く続いてほしいと そう願って幾億秒が過ぎた
続くのは余韻と余白と記憶の通り雨 〈2〉
ああ、君のせいで 何時でも 何時までも
Darling 指、目、髪 触れるたび あふれた想いが
気まぐれな信号に変わってゆく だけど君は
Darling 強い光 時の女神
マテリアルな僕を琥珀色のリボンで撫でてゆく
あの日のように 一秒で 〈2〉
今は特に浮足立った話もないが、ベボベを聴かなくなった。特に理由はない。怒りも悩みもある。ただベボベにもたれるのをやめたのだ。他の支えが増えた。それだけである。またいつか聴き漁る日々が来るだろう。きっと。
こんなに長く書くとは思わなかった。最後に、絶対にこの記事は例の女の子に読んでほしくないのだが、もし読んでいてここまで辿り着いたなら!「そんなに好きじゃなかった」を聴いてほしい。それが今言いたいことのすべてだ、10年後の同窓会とかでまた話せたらいいな。不安そうな顔はもうしてないだろうし。もう黒髪でもショートヘアでもない君と、話したいことはいくらでもある。
〈1〉シングル”PERFECT BLUE”収録の”PERFECT BLUE”より引用
〈2〉アルバム「光源」収録の”Darling”より引用
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