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aikoが輝かせたサザンオールスターズという星々

原曲へのリスペクトと自身の存在感

あるアーティストが、べつのアーティストの曲をカバーしようと試みる時、そこには(少なくとも)2つの意義が生まれるものだと私は思う。1つはカバーした歌い手が、その声調や表現力を存分に発揮することによって「その曲の良さ」に、いくぶん違った角度から光を当てること。もう1つは、カバーされる側が「それほどの名曲を生みだした原作者の功績」を評価され、一層の敬意をリスナーから寄せられることである。

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aikoさんが「Love Like Aloha vol.6」で、サザンオールスターズの楽曲群でも屈指の名作と思われる「Ya Ya (あの時代を忘れない)」を歌い上げた瞬間、見事に上述の「2つの意義」が生まれたのではないだろうか。aikoさんは女性の繊細な心のうちを、豊富な語彙と独創的な発想で描き出し、ユニークな旋律に乗せるアーティストである。aikoさんが高らかに、時に切なげに歌う「女性の恋心」は、時として男である私(たち)の共感をも誘う、普遍的なものだと言えるだろう。

サザンオールスターズが生み出す楽曲の主人公は、大抵、男性のように思われるのだけど(もちろん例外もある)、その歌詞が無骨なだけのものであったとしたら、恐らくはサザンは、多くのファンを獲得することはできず、世代を越えて聴かれるような国民的なアーティストにはなりえなかっただろう。サザンが、そのような普遍性を持つに至ったのには、原由子さんという優れたキーボーディストを擁していることが大きく影響しているのではないかと(個人的に)思うのだけど、恐らくはフロントマンの桑田氏も、男女の垣根を越えるような想像力や機微といったものを備えているのではないだろうか。

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「Ya Ya (あの時代を忘れない)」は<<忘られぬ日々>>を回想する、感傷的な楽曲である。もちろん人間は、今という時代を生きることしかできず、未来のことを考えながら過ごさねばならないものだとは思う。それでも誰しもが、時として足を止めて過去を振り返りたくなるはずで、そこに珠玉の思い出があるからこそ、今や未来の「見え方」といったものが変わってもくるのではないだろうか。だからこそ、ひとたび回想すると決めたら、むしろ意図的にナイーブになって、<<忘られぬ日々>>の輝かしさを噛みしめるべきなのだと考えている。

<<互いにGuiter 鳴らすだけで わかり合えてた 奴もいたよ>>
<<とびきりステキな恋などもしたと思う>>

この部分に、私は心から共感する。私にも<<互いにGuiter 鳴ら>>した旧友がいる。彼が今、どこに住んでいるかを知らない。いま私には、市民バンドの活動をする仲間がいるし、その人たちの存在を心から大事に思っているけど、それでもやはり「あの時代」を伴にした古き友人というものは、忘れがたいものだ。

自分が経験したのが<<とびきりステキな恋>>だったのかは、私が一方的に決められることではないと思う。それは相手に委ねられる問いでもあり、そばで見守り応援してくれた人に決めてもらうことでもあるのだろう。それでも私は、たとえ「過去を美化している」と揶揄されようと、青春時代に時を伴にした女性は、素晴らしい人間だったと思っている。もちろん今となっては、恋愛感情のようなものは全くもっていないけど、いま以上に愚かで未成熟だった私と歩いてくれた人がいたからこそ、私は自分史を誇れるのだ。

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にこやかに自身の楽曲を歌うこともあるaikoさんは「Ya Ya (あの時代を忘れない)」を、だいぶ苦しげな表情で歌った。クライマックスは<<知らぬ間に遠く>>を地声で歌い上げた瞬間ではないか。そっとファルセットで歌ってもいいはずの<<遠く>>を、aikoさんは力を込めて歌った。サザンオールスターズとaikoさんは、異なる来歴をもつわけで<<涙のチャペル>>というフレーズが、aikoさんに他ならぬ<<チャペル>>を思わせたわけではないだろうと察せる。

それでもaikoさんにも、青春期に目に映した、その時節を象徴するような事物を、きっと忘れてはいないはずで、そういった日々が<<遠く>>なりつつあることを思ったのではないだろうか。だからその歌唱は、サザンオールスターズへの敬意や共感を示すにとどまらず、他ならぬaikoさんの歩んできた道というものさえも、リスナーに想起させたのではないか。

そしてaikoさんは自身の楽曲で(たとえば「えりあし」で)時として聴かせてくれる、相当に長く伸びていく美声を「Ya Ya (あの時代を忘れない)」でも放った。<<忘られぬ日々よ>>の<<よ>>は、切なくも力強く響きつづける。その間にリスナーひとりひとりの胸のなかに、様々な感懐がもたらされたのではないだろうか。それほどに尊い「長さ」というものは、そうそうあるものではないと私は考える。

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aikoさんは他ならぬご自身の声で、恐らくはご自身の記憶を辿りながら「Ya Ya (あの時代を忘れない)」という曲を精一杯に歌ってくれた。それはサザンオールスターズという「星々」の輝きを、あらためて強いものにし、同時にaikoさんのキャリアを、それこそ星のように輝かせたのではないだろうか。

私はサザンオールスターズを愛聴する者として、そしてaikoさんを敬愛する者として、ご両人の「出会い」を尊いものだと感じた。今後もサザンオールスターズは、そしてaikoさんは、オリジナルの曲を生みだし、その独自性でファンの心をとらえ、輝きつづけてくれるのだろうと思う(そう信じている)。それでもaikoさんがサザンオールスターズをリスペクトし、その楽曲を歌うことを選び、サザンオールスターズが恐らくは、その選択を嬉しく感じたであろうことは、リスナーが味わえる最大級の「醍醐味」なのではないかと思う。好きなアーティスト同士の結びつきを感じることほど、鑑賞者としての私にとって嬉しいことはない。

<<目に浮かぶのは Better days>>

時に過去ばかりが美しく見えてしまうものだとしても、より良い日々が、私の身にだけではなく、サザンオールスターズやaikoさんの身にも訪れることを願って、その可能性があることを信じて、筆を置きたい。

※<<>>内はサザンオールスターズ「Ya Ya (あの時代を忘れない)」の歌詞より引用
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