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ビートルズをハンバーガー屋にたとえると

「音より団子」な友への、我がビートルズ伝道譚

「お前は学生時代からビートルズとか昔の音楽の愛好家だったけど、ビートルズって結局どういう存在なの?」
 
大学時代の同級生T君が、同窓会帰りの電車の中で唐突に聞いてきた。去年の今頃のことだ。
 僕は酔った頭で少し考えた。というのも、T君はビートルズどころか音楽に全くといっていいほど関心がない男なのだ。彼の関心事は学生時代から一貫して女性との出会い(現在はマッチングアプリのヘビーユーザー)と、ラーメンをはじめとする食い物の事である。音楽の「オ」の字も彼の口から聞いたことはない。そういう人物から、いきなり「ビートルズとはどんな存在か?」と直球の質問が来たものだから少々考えてしまったのである。
 もしこう聞いてきたのが、多少なりとも音楽好きな人であれば、その人の嗜好にある程度合わせた切り口から語ることができる。例えばバンド好きな人ならサウンドの変遷や楽器、メンバーの関係性や生い立ちを切り口にビートルズの本質について話せる。あるいは「これからビートルズをはじめとするロックの古典を聴いてみたい」という人であれば、おすすめのアルバムや、ビートルズが他のミュージシャンへ与えた影響から語ることもできる。
 しかし、今回の相手は手ごわい。何せ彼はカラオケに行っても人の歌に耳を貸すこともマイクに触れることもせず、ひたすら麺類やピザをフードファイターのように黙々と食っている男である。だが僕だって、学生時代から「ビートルズ伝道師」を自称してきた人間だ。こうした人物に対しても「ビートルズを聴いてみたい」と思わせるほどにその魅力を伝えられなければ、伝道師失格である。
 ミュージシャンとしてのビートルズの魅力を熱っぽく語ったり、あるいは時代背景や4人のキャラクターの話をするだけでは、彼の興味を引くことは難しいに違いない。そこで僕は苦し紛れにビートルズを食べ物屋、それもハンバーガー屋に例えることにした。実際に電車の中で彼に話した時の僕の語り口はかなりとっ散らかっていたと思うが、整理すると彼に伝えたことは下記の様になる。

【創業】
 1950年代後半、イギリスの地方都市で米国のハンバーガーにハマった地元の若者
たちが、好きが高じて仲間とハンバーガーを作りはじめる。メンバーは、斬新な発想でスパイシーなハンバーガーを作らせたら天下一品なリーダーのジョン、調理・接客だけでなく営業や経理まで全てをオールラウンドにこなすポール、本場米国のスタイルに忠実なピート、最年少ながら学究肌で研究熱心なジョージの4人。
 メンバーは創業前から徹底してオリジナリティを追求。1960年代に入りいざ創業直前というタイミングで、米国スタイルに忠実な製法を志向するピートが考えの違いから脱退するが、入れ替わりにユニークなソース作りに定評のあるリンゴが加入。ここに不動の4人がそろい、ビーフのハンバーグ、パン、野菜、ケチャップ、マスタードというハンバーガーの定型は踏襲しながら、一工夫したオリジナルソースやイギリス人らしく紅茶に合う味付けを施したセットメニューが地元を中心に大ヒット。彼らのハンバーガーは数多あるフィッシュ・アンド・チップスの大手を押しやり、イギリス1の人気ファストフードになる。

【海外展開】
 ロンドンに営業拠点を移し、数カ月ごとに新メニューを研究開発。全員がまだ20代前半だったメンバーの溢れるアイデアはとどまるところを知らず、保守的な英国の中年層からも支持を得る。看板メニューに常に変化を加え、英国王室からも認められるほどの存在に。
 ジョージの発案による「インドカレーバーガー」やポール発案の「フランス料理のソースを使ったハンバーガー」、さらには地中海料理や南米のスパイス等、古今東西のあらゆる食材を絶妙に効かせた斬新なハンバーガーを次々にヒットさせる。創業からわずか3年ほどで「英国発・世界一人気のあるハンバーガーブランド」に。
 ハンバーガーの本場であるアメリカに進出すると同時に大旋風を巻き起こし、ハンバーガー売り上げの記録を次々と塗り替える。この時の記録の多くは、現在でも破られていない。アメリカを皮切りにアジア諸国も含む世界進出を果たし、彼らのハンバーガーは世界規模での社会現象となる。日本でも1966年に来日して客前での実演販売を行い話題に。創業メンバー4人が揃って来日したのはこれが最初で最後になった。

【ブランド化】
 彼らのハンバーガーは各国の伝統的な料理の匠や著名なシェフからも広い支持を獲得。若者向けの食べ物ではなく、大衆性と芸術性を併せ持った料理として定着していく。世界各国で彼らを模倣した店がタケノコのように発生するが、本家のメニューの斬新さや革新性は唯一無二で、他社の追随を許さない。
 やがては「肉を使わないハンバーガー」や「一個数千円の超高級バーガー」など業界の常識を根底から覆す商品をヒットさせ、ハンバーガーの地位を「手軽なファストフード」から「人類共通の食文化」へと向上させる。

【創業者たちの独立】
 若くして世界規模でのあまりに大きな成功を収めた創業者4人は、経営方針や志向の違いにより、創業から8年後に各々が独立。日本人女性と結婚したジョンは寿司やお茶を取り入れた新しいファストフードを開拓、ジョージはインド料理から米国南部料理に接近する。さらにポールはベジタリアン向け料理の分野でも確たる地位を築く一方、リンゴは同業他社との多数のコラボレーションで話題を提供するなど、四者四様の独自の路線で活躍する。

【現在】
 創業者4人が去った後も後任のスタッフらの尽力で4人が作り出したレシピは忠実に守られ、業界1の人気ブランドとして半世紀以上にわたり変わらぬクオリティを保ち続けている。
 2019年現在、存命のポールとリンゴは70代後半になった今も現役で厨房に立ち、世界各地に出張しては客の目の前で腕を振るっている。

 上記のような例え話をひとしきりすると、T君は何とか最後まで聞いてくれた。楽曲について一言も触れずにビートルズについて語ったのはこれが初めてだ。ハンバーガー屋という例えは深く考えずにとっさに思いついたものだったが、今思えばハンバーガーと、ビートルズのメンバーに多大な影響を与えたロックンロールやR&Bといった音楽はどちらも米国の代表的な大衆文化の象徴だ。拙い語り口だったが、うまくニュアンスが伝われば・・と思い、その日は別れた。

 その数日後、T君からLINEメッセージが来た。曰く「この間の話を聞いて、ビートルズを聴いてみたくなった。とりあえず、インドカレーバーガーの歌が入っているアルバムを貸してくれ」。
・・・・彼にはインドカレーバーガーの例えがとりわけ印象に残ったらしい。彼らしいというか、なんというか。何はともあれ、ビートルズを聴いてみたいと思ってくれたことが嬉しい。
 インドカレーバーガーに例えた歌とは、一時期インド音楽に傾倒したジョージ・ハリスンのインド愛がいかんなく発揮されたナンバー「Within You Without You」。同曲が収録されたアルバムは「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」だ。数日後に会って貸すことにした。ただ同アルバムにはシングルヒットとなった曲は収録されていないため、オリジナル盤初体験となる人にはもしかしたら期待外れになるかもしれない。そこで、余計なお世話とは思いつつ、後期のベストアルバムである通称「青盤」も一緒に彼に貸した。

 果たして、T君はアルバムを両方とも聴いてくれた。後日感想を聞いたところ、「カレーバーガーの歌が入ったアルバムはよくわからなかった」が、青盤は「CMやBGMで聞いたことがある曲が多くて、ビートルズってすごいんだと思った」。・・そうだ、そうなんだよ、僕もビートルズのアルバムを初めて聞いた時、そう思ってハマっていったのだ。「返すのはいつでもいいから、是非繰り返し聴いてくれ。よかったら他のアルバムも貸すから」と伝えた。何とか、伝道師としての使命は果たせたようだ。
 
 嬉しいことに、彼は青盤を聴いた後、今度は前期のベストアルバムである通称「赤盤」にも触手を伸ばし、そこからさらに数枚のビートルズのオリジナルアルバムと、ポール・マッカートニーのソロ時代の作品にも興味を示して聴いてくれた。今では、マッチングアプリの「好きな音楽」の欄に「ビートルズ」と書いているらしい。
 最近、彼からまた嬉しいメッセージが来た。「今度はローリング・ストーンズを聴いてみたい」という。今度会ったときは、ストーンズを彼の好きなラーメン屋に例えて話してみようか。
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