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今だからこそ鳴るべき音楽

坂口有望『聴志動感』ライブレポート

日々猛威を振るう、新型コロナウイルス。今や国際的なパンデミックに直面し、更にはここ日本においても東京オリンピック延期が正式に決定。日々数十人にも及ぶ感染者が確認されるなど、終息の兆しは未だ見えていない。
 
そんな中多大な影響を被っているのが、ライブハウスを始めとするエンタメ業界だ。当初自粛は大規模なイベントに限定して呼び掛けられていたが、次第にライブハウスで感染者の確認されたことやコロナウイルスにおけるクラスターになり得る状況として密閉・密集・密接という所謂『3つの密』が広く取り上げられるようになり、今では大小問わず多くのイベントが中止・もしくは延期の措置を講じざるを得なくなった。
 
そうした現状を踏まえ3月某日、このような状況下においても音楽を愛する人々に安全に、そして安心してエンターテインメントを届ける方法がないかを考え「今だからこそ、心3(試み)る」のコンセプトのもと敢行されたライブイベント、『聴志動感』が開催された。
 
『聴志動感』は土日の2日間に渡り新進気鋭のアーティストが画面越しにライブを繰り広げる、言わばインターネット版の音楽フェスの体を成したイベントである。配信中にはSuper Chatによる所謂『投げ銭』の受付も行われ、集まった収益はイベントの制作費を差し引いてアーティストの支援、ひいては音楽業界へと還元される形を取っていた。総じてアーカイブも残さず徹底して生のライブをそのまま画面越しに届ける『聴志動感』は、まさにこうした未曾有の状況であればこそ至った、アーティストにとってもリスナーにとっても救いの手とも言うべき試みであった。なおスタジオには観客はおらず、転換の際は出演者の今後のライブ予定と『換気中』のテロップが交互に挟まれ、スタッフも間隔を空けひとり残らずマスクを着用するという万全の態勢でもって配信が行われていたという事実も、特筆すべき点として付け加えておきたい。
 
16時過ぎ、この日3番手としてカメラの前に姿を現した坂口有望。去る2月19日にニューアルバム『shiny land』を発売した彼女は、上記のアルバムを携えて全国を回る予定であった。しかしコロナウイルスの感染拡大を防ぐため、やむなく3月14日から4月3日までに行われる予定であったツアーの全公演延期を決定。そう。本来であれば現時点でツアーファイナルを大団円で終えていたはずの坂口はこれまでの数ヶ月間、一切人前でライブを行うこと叶わず、この場に立っていた。転換の動画から彼女を映すカメラに切り替わっても、坂口は長い間カメラに目を向けず、更には言葉も発さずに真剣にチューニングを行っていたが、その姿は自然体のようにも、内なる思いを圧し殺しているようにも見えた。
 
そしておもむろにギターを爪弾き「始めまして、坂口有望と言います。……歌います」と語って奏でられた1曲目は、かねてより彼女が歌い続けてきた重要曲“おはなし”だ。
 
《いつもと同じ時間に/流れるニュースは/悲しい出来事ばかりで/少し真面目にみたんだけど/心の奥のどこかで/そっと思っているんだ/あぁ 私じゃなくてよかった/あぁ ここじゃなくてよかった》
 
言葉の一言一言を噛み締めるように、高らかに歌う坂口。彼女の良く通る抜けのある歌声を伴ったパフォーマンスは当然素晴らしいものであったけれども、あまりに直情的かつ今の状況を体現したかのようなその歌詞は、絶大な説得力を纏って響き渡っていた。
 
最後に《いつもと同じ毎日は/あたりまえなんかじゃなかったって/私はそっとつぶやいた/これはそんなおはなし》と絵本におけるストーリーの結末を語るが如く締め括られた“おはなし”。この楽曲が制作されたのは坂口がまだ14歳の頃であり、当時彼女はまだレーベルにも所属せず、地道にストリートライブを行っていた。そのため“おはなし”は決して今の混沌とした世の中を表しているわけではなく、あくまで別の事柄をモチーフにしていることは言うまでもない。しかしながら、コロナウイルスの蔓延によってさながら絵本の世界にあるような世界的な大恐慌が現実化している今だからこそ、“おはなし”は明らかな別の側面を伴って響いていた。
 
“おはなし”後は歓声も拍手もない独特な環境の中チューニングの微調整をしつつ、ひとしきりのMCへと以降。
 
「改めまして、大阪出身19歳、シンガーソングライターの坂口有望です。今日は初めて無観客ライブというものに今取り組んでおりまして。中学二年生の時にライブハウスに立って、凄くライブというものが大好きで。……ずっと待っててくれたお客さんにやっとこういう機会を頂いて。(ライブを)観せれる嬉しさっていうのももちろんあるんですけど、私自身が、ライブがずっとない日々で。こうやって今オンラインではありますが、たくさんの人の前で歌えてるということが私にとって凄く嬉しいことです」
 
「今日企画してくらはったスタッフさんに改めて感謝を出来るように、最後まで心を込めて歌っていきますので、画面の前の皆さん、短い間ですが楽しんで帰って……ちゃうわ。楽しんでください!」
 
今回のライブは先日発売されたセカンドフルアルバム『shiny land』に加え、2018年発売のファーストアルバム『blue signs』収録曲を軸としたセットリストで進行。更には弾き語りということもあり、原曲においてエレキギターが先導するロックナンバーとして鳴らされていた楽曲は良い意味で誤魔化しの効かない新機軸の主張を繰り広げ、楽曲の各所では緩急を付けたりと、全曲通してギター1本ならではのアレンジで再構築。総じてバラードは説得力を増し、アッパーな楽曲は新鮮味を感じさせる作りとなっていた。
 
“LION”前には「今こんな異常な事態に、全世界がぶち当たっていて。その中で頑張ってるみんなのことを、何かこうして動画を通して勇気づけられたら、それは本当に音楽の力かなって思います。乗り越えていきましょう」と語っていたが、前述した通り《わたしじゃない わたしのせいじゃない/誰でもない 誰かのせい 全部全部》とする“紺色の主張”然り《わたしを笑い飛ばした陰を/風が笑い飛ばす日を待とう》と前を向く“LION”然り、このような状況に陥っている『今』に対してのメッセージを体現するような歌詞にも聞こえ、画面の向こうにいる多くのファンの心を震わせていた。
 
そして約40分に及んだライブは「ぜひまた今度は笑顔で会えるように。……いや、絶対会いましょう」と語って始まったラストナンバー“東京”でもって、緩やかに幕を閉じたのだった。
 
作品をリリースし、ツアーを回る。……一概に全てに当て嵌まる訳ではないにしろ、大半のアーティストはそうした形で音楽活動を行っている。無論坂口自身も例に漏れず、活動当初から繰り返し同様のサイクルを経て、シンガーソングライターとしての道程を歩んできたひとりだ。けれどもコロナウイルスの影響によりニューアルバムに冠されたタイトルとは対極に位置してしまった今、数ヶ月前と寸分の狂いもない活動を行うのはほぼ不可能だ。そしてそれはライブツアー延期の決断を下した坂口自身も、重々承知している筈である。
 
坂口が身ひとつで挑んだ今回のライブは、全編バンドセットに加えてニューアルバムの楽曲を軸に展開するこれから控える坂口のツアーとは、趣を異にするものだ。けれども弾き語りという音楽を奏でる上で最小の形を貫き、今とリンクする楽曲がずらりと並んだ今回のセットリストを鑑みても、やはり彼女自身、並々ならぬ決意を抱いてこの場に挑んでいたのではなかろうかと思う。
 
ライブ終了後、個人のツイッターにて「40分間、間違いなくわたしがここ最近で1番生き生きとしてる時間だった、ライブがすき、ライブがすきです」と綴った坂口。コロナウイルス終息の目処は未だ立ってはおらず、音楽イベントが元の輝きを取り戻すのが果たして何ヵ月先なのかは分からない。だがこの未曾有の事態が去った暁には、必ずや晴れやかな景色が広がっていることだろう。……『聴志動感』にて画面越しに映った随分と久方ぶりに鳴らされる彼女の音楽と笑顔を観て、朧気ながらもそう強く感じた次第だ。
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