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私は突然少年に恋をしている。

マンガの世界から飛び出してきた少年達。

2020年、令和初の新年を迎えた。我が国の一大イベント東京オリンピックやそれに伴う行事を控えた素晴らしき一年が幕を開け、人々は歓喜に包まれた。
しかし、その歓びは長くは続かずとんでもない事態が起こってしまった。前代未聞の伝染病が全世界を不安で蔓延させた。
平和、平穏、安全、安心という生温い日常に包まれ生まれ育った私には「遠い国で戦争が起き、何人が巻き込まれ、何名が負傷した。」と報道されても今一つピンとこない。今回のウイルスの襲来も「遠い国で発生した伝染病の一つの他ない。普段通りの生活をしていれば何も問題はないだろう。」と、いつものように音楽を聴きながら会社へ行き仕事をして帰る。休みの日には好きなバンドのLIVEを観に都内のライブハウスへ足しげく通い趣味を全うし、日が合えば地方へ足を運ぶこともしばしば。そんな生活を続けていた。

異変を感じたのは3月を迎えた頃だった。楽しみにしていたLIVEの中止や延期がアナウンスされた。それも一つや二つではない。しかし「その分のチケット代はどうなるのだろう?」私は生命の危機よりチケット代や払い戻し期間のことを気にかけていた。「まぁ大丈夫でしょ。」中止になっていない公演が6割、この時期にLIVEを開催してくれるのは有り難いな、ただそう思っていた。
ところが国内の感染者数の増加や人気芸能人の訃報によりそれが一瞬にして現実味を帯びたものとなった。私は「映画やマンガの世界のことではない」と目の前の状況をよりリアルに感じ、背筋がぞっとした。この21世紀に、だ。

時を同じくして2020年の2月に突然少年がスペシャルサポートドラマー3名を迎え3曲入りのCDを発売した。
「辺りを見渡せばきっと側に誰かいる」
突然少年は高校の同級生が軽音楽部で結成した4人組のバンド。
ギター・ボーカルの大武茜一郎の見た目はメガネの少年、だがステージの上ではその小さい身体からは想像できない力強い真っすぐな歌声とパワーを放ち観ている者を圧倒させる。ベースのとだげんいちろうはギター・ボーカルの大武とは真逆の体格でベースの大きさがよく似合っている。何といっても彼が持ってくる楽曲はいわゆる中二心を締め付け訴えかけるものが多く、もうわけが分からないが最高に青臭くて聴くたびに鼻の奥がつーんとなる。そして金髪頭のギターはカニユウヤ。音源はもとよりLIVE中は彼のギタープレイにしか目がいかない。とても20代とは思えない音の創り方や技術に釘付けになる。ラジオで彼は「奏法は理屈ではないがヨガをかじっている」と答えていた。これもわけが分からない。

分からないのはこれだけではない。ステージの上ではなぜか全員、上半身裸でLIVEをする。いい具合にしまっていないのがたまらない。また、カニユウヤのギターアンプの上には“カニ犬”と呼ばれる3匹のイヌのぬいぐるみが守り神的な役割で彼らのLIVEを見守っている。
決して交わることがなかった純心無垢な3人が高校の軽音楽部で運命的に出会い、バンドを組むことになる。彼らがステージ上で自己を開放・大爆発させ音楽を鳴らす姿はとても感動する。

私は突然少年のLIVEを観ているといつも思うことがある。「今、自分が目にしているこの瞬間はマンガ突然少年の第何話・何編の何巻目のシーンなのだろう」
2月に発売された音源「辺りを見渡せばきっと側に誰かいる」の中に収録されている「フロムアンダーグラウンド」という曲は沖縄でLIVEを行った際に撮影されたMVがYouTubeで公開されている。

歌いだしはこうだ。
「耳鳴りがまだ止んでくれない あのメロディが離れてくれない」
そして続く、
「ライブハウスで鳴らして 変わりない日々を」

私が初めて彼らのLIVEを観たのは都内のライブハウスだった。何組か出演する対バン形式のイベントで、もちろん目当てのバンドは突然少年ではない。しかし東京都下(市内)出身というだけで彼らを身近に感じ俄然、興味が湧いた。ちょうどその頃は都下で結成された多くの若手バンドが都下のライブハウスで優劣つけ難い素晴らしいLIVEを行っていた時期でもあった。
その中で出会った彼らのLIVEはお世辞にも魅力的と言えるLIVEではなかった。ステージ上でメンバー同士がケンカをしてしまったからだ。
ボーカルとベースが言い争ってしまい空気が張り詰めた。目をそらし足元を見て静かにチューニングを続けるギター。心配そうに二人を見て何も言わない当時のドラム。それ以上、揉めるのを避けて沈黙。重苦しい空気の中LIVEは続きふてくされて涙目で歌うボーカル。退場時に誰か楽器を乱暴にバタッと放り投げていったように見えた。
ただ、ベースの子が最後の最後に「何か悪い空気にしてしまってすみませんでした!」と一言、挨拶をし退場したのだ。私は驚いた「えっ、全然ロックじゃない…!パンクじゃない!」
お互いに譲れないものがあり、お互いの熱情を恥ずかしいことにこういった形でステージ上でぶつけ合ってしまった。それを目撃した私は少なからず不快感を覚えた。が、しかしそれ以上に彼らの「音楽とLIVEに対するパッション」を確かに感じた。同時にベースのとだげんいちろうが頭を下げて退場した姿には、ステージという神聖なる境地いわば聖域において、ライブハウスの神様に顔向けができない恥ずかしい姿をさらけ出してしまった悔恨、そして懺悔のようにも思えた。
これがあったからこそ今の突然少年がある。真っすぐな少年の瞳をもつ純心無垢なバンド。それを機に私は彼らから目が離せなくなってしまった。

突然少年は2019年に142本のLIVEを行った。その内の大半はもちろんライブハウスだった。今年2020年も各地でのLIVEが次々と発表され勢いよく走り出していた。そんな矢先の出来事だった。それは全世界の歴史の一ページを変えてしまう由々しき事態となってしまい、何が正しいかも判断がつかず自分を見失ないそうになる日々と不安の中で過ごす毎日。未来が見えない日常がこれからも続いてゆく。

3月には私も行く予定だった新代田でのLIVEが残念ながら中止、無観客・配信の映像LIVEとなった。
私はスマートフォンを片手に彼らの登場を今か今かと喰い入るように見つめた。
さあいよいよ突然少年の出番!いつものように上半身裸の少年達4人が画面の向こうのステージに立った、その時だった。ギター・ボーカルの大武茜一郎がこう叫んだ。
「2020年に謎のウイルスがやってきました。だけど最終的にはライブハウスが、音楽が音楽で打ち勝ちます!」
そう言って始まったLIVEは圧巻の30分間だった。ライブハウスにいては覗くことができない彼らの要所要所の表情とプレイ、ほとばしる汗、曲それぞれが持つ意味、それから友達シンガーをゲストに招き入れ裸でぶつかり合う姿には魂が揺さぶられ、涙が溢れた。
なんてことはない、ライブハウスに観客がいてもいなくても彼らは彼らのLIVEをした。それだけだったのだ。

クラスの目立たない男の子が実はヒーローで音楽と楽器を武器に3人で闘う姿は見ている者の心をハラハラドキドキさせる。こんなマンガのような展開を実生活で味わったことがあっただろうか、少なくともそれまでの私は体験した覚えが無かった。

「ひらひら舞い踊って」(さようなら IN MY DANCE.)
「出会って別れて 出会って別れて 出会って別れて」(メモリートレイン)
「限界なんて後で気付く」(火ヲ灯ス)
「廃棄的毎日 流れる音楽 それを鳴り止めないで」(フロムアンダーグラウンド)

きっとこの日の配信LIVEの回のタイトルはこうだ。
「ドラマー探しの旅篇・第25話、謎のウイルス襲来!見えない敵に、見えない音楽を武器に闘う2020年の春」
早く続きが読みたい、見たい、観ていたい、感じたい。
初恋を!思い出せ!

私は突然少年に恋をしている。
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