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aikoの五感

それが衰えた人にも、それを持たない人にさえも届くはずの慈愛

aikoさま

謹啓

いつしか「桜の時」が過ぎ、風薫る五月となりましたが、お変わりなくお過ごしでしょうか。「お変わりなく」などという馴れ馴れしい表現を用いて申し訳ございません。私がaikoさんのお姿を生で拝見したのは、ずいぶんと昔のことになります。母校へライブに来て下さったaikoさんを、あの時、とてもお元気そうにお見受けしました。

いま世界は、こうした情勢にありますが、あるいはaikoさんも<<不安で眠れない夜>>を過ごしておられるのではないか、多くのリスナーが案じていることと思われます(もちろん私も、そのひとりです)。aikoさんの楽曲に励まされてきた一介のリスナーとして、何かしらの形で感謝を伝えられないかと、言うなれば<<小さなたくらみ>>として本文を綴っております。

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あの日、私の通っていた学舎を、ぐるりと巻くように列が作られ、そのなかにいた若き日の私は、とても強い視力を持っていました。それこそ<<肩に付いた小さなホコリも>>、裸眼で発見できるほどでした。それゆえに、会場の後方の席にいながらも、aikoさんのお姿や、バックバンドの皆様の勇姿を目に焼き付けることができたのです。

その視力が今、そろそろ弱まってきています。日に10時間はパソコンに向かっているので、無理もないことかもしれません(画面を見ることで視力が落ちるのかは、まだ解明されてはいないという説を訊いたこともあるのですが)。あるいは、もう私は<<交差点で>>aikoさんが<<立っていても>>、気付くことができないかもしれません。でも、それを思うがゆえに、aikoさんに励まされて長い時を生きてくることができたのだと思うがゆえに、<<何億光年向こうの星>>のようにも思えていたaikoさんの存在が、いくぶん近しく思えてきてもいるのです。

視力の低下に反比例するように、あの尊いライブの日が、クッキリと見えてきたようにも感じられます。

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私がaikoさんの楽曲を聴き始めたのは、高校時代が終わりかけたころのことでした。最初に聴いた曲は、たしか「カブトムシ」でした。まさに私は<<甘い匂いに誘われ>>るように、ご作品の虜になった、と書きたいところですが、正直なところを申しますと、私には「カブトムシ」が<<甘い>>楽曲には感じられませんでしたし、今なお感じられていません。この曲を聴くと<<強い悲しいこと全部>>が、この<<心に残って>>いるかのようにも思え、<<息切れすら覚える>>ことがあるのです。

そしてaikoさんという存在が、その作り出す楽曲が、<<甘い匂い>>だけを漂わせているようには思えないのです。詞に込められた思想は、時に切なすぎるものであり、ある種の怒気を含んでいるようにさえ感じられることがあります。それらは<<落ちぬ取れぬ消えぬ>>ものとして記憶に刻まれています。生活な色々な場面で、私はaikoさんの存在を、ふと思います。街を歩いて(今は、それが難しい情勢にありますが)誰かの衣服に煙草の残り香を感じたりする時(私自身は煙草を吸いません)、この世界が「自分の好きなもの」だけで満たされているわけではないことを思い、aikoさんの楽曲が軽やかなものばかりではないことを思いもするのです。

私は嗅覚を持つがゆえに、aikoさんのお苦しみの一端を、あるいは察せているのかもしれません。

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もうじき<<リンと立つのは空の青い夏>>が訪れますね。その<<空>>が暗くなった時、各地で「花火」が打ち上げられ、それを多くの人が楽しむことになると思われます(そのように世界に平和が戻っていることを、きっとaikoさんも願っておられるのではないでしょうか)。私は楽曲「花火」が好きですし、文字通りの「花火」を観ることも好きなほうです。

打ち上げられる「花火」というのは、いいものですよね。できることなら私も<<夏の星座にぶらさがって>>、鑑賞したいものです。でも、その鮮やかさ、美しさを、視覚を持たない人が見届けられないことを思うと、心が痛みもします。会場で、芝の匂いや土の匂いを嗅ぐのも一興ですが、嗅覚を持たない人のことを思うと、やはり自分は恵まれているのだろうと感じます。

それでも「花火」の「音」というもの、その振動といったものが、きっと目や鼻で何かを感じられない人にも、歓びをもたらしうると考えてもいるのです。まるで次々に打ち上げられる「花火」のように、aikoさんが生み出してきた作品は、どれも耳に残る旋律です。aikoさんは楽曲「花火」を作り出しただけではなく、比喩的な意味での「花火」の音を、いくつも響かせてきたのではないかと、私は不遜にも思います。

私は聴覚が少しでもある限りは、aikoさんの楽曲を聴けるわけですし、それを失った時は、歌詞カードを熟読するつもりでおります。

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私は触覚が敏感なほうです。<<白い服も黒い服も>>持っておりますが、色には、それほど強いこだわりがなく、着心地のよいものを選んでおります。aikoさんが紅白歌合戦で歌われるお姿を、何度かテレビで拝見したことがありますが、もしかするとaikoさんは、豪奢な衣類よりも、カジュアルでご自身がリラックスできるものを好まれるのではないでしょうか(色々な趣味の女性がいて、好きなものをお召しになってほしいと思いますが、私はaikoさんのファッションセンスに多くを学ばされます)。

それでも私は、aikoさんがお風邪を引くことがないよう、及ばずながら遠くから願ってもいるのです。四季を問わず、肌寒い日はあり、いつも動きやすい服装でいられるとは限りませんよね。時には「夏にマフラー」を巻くような発想を持つことも、もしかすると大事なのかもしれないと私は考えています。aikoさんが<<皮膚のあたたかさ>>を、いつも感じていられるように、多くのファンが応援していることと思われます。

触覚が敏感であることによって、受けてしまうダメージも、きっとあるものですよね。<<刺さったトゲは抜けなくて>>、<<怖かった>>経験を私は持ちます。aikoさんは「飛行機」で、(たとえば)指先に刺さる物理的な<<トゲ>>を意味したのかもしれませんし、あるいは心に刺さる<<トゲ>>を意味したのかもしれません。いずれにせよ、その傷が癒され、そのご経験が次なる楽曲として結実することを、一介のファンとして待ち望んでおります。

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味覚というのも尊いものだと私は思いますが、人は時に食欲を失くすこともあります。aikoさんの作品には、何かを味わおうという意欲を取り戻させてくれる、そんな楽曲もあるように思えてなりません。たとえば「mix juice」を聴きながら、何かしら果物でも食べるかと考えてみると(そして実際に食べてみると)、いつしか心が<<魔法>>でもかけられたように軽くなっていたりします。

<<弾けるよ 赤いポップコーン>>、これはカラフルで視覚に訴えかけてくるような歌詞にもとれますし、絵画的な楽曲のようにも感じられるのですが、<<一口飲んだらおしまい>>、そのメッセージを私は(身勝手にも)励ましと受け止めて、自分の不調さに<<おしまい>>と語りかけるよう努めています。

野菜「アスパラ」はお好きでしょうか。楽曲「アスパラ」は切ないものに聴こえるので、私は「好きだ」というのが躊躇われるのですが、印象深い作品だとは主張したいと思います。<<アイスは溶けてただまずいだけ>>、そう思わせるほどの心の痛みを、aikoさんは(楽曲の主人公は)味わったことがあるのだとお察しします。それでもaikoさんが時として、たとえ<<あたしの心もおいしくないわ>>と感じるのだとしても、その<<心>>に救われて、味覚や食欲を取り戻しているリスナーが、ここに1人はおります。

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視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚。

どれも大事なものですよね。そしてまた、どれが弱まってしまっても、あるいは失われてしまっても、この世界には愉しめるものがあることを、aikoさんのキャリアは示唆してくれていると、私は感謝しています。aikoさんの楽曲が、そういった「多様な楽しみ方」を教えてくれていると思います。歌詞や旋律や、そこに込められた思想が、多くのリスナーを救っているはずです。

私が切に願うのは、上に述べた「五感」よりも、ある意味では大事であるはずのものを、aikoさんが失わず、誰からも傷つけられずに生きていかれることです。作品を生み出すのは「心」ですよね、きっと。その心を損なうものが、この世界からひとつでも減るように、きっと各地でaikoさんのファンが、何らかの貢献をしようと努めているのではないでしょうか。

<<体を 脱いでしまいたいほど苦しくて悲しい>>
<<想ったり嫌になったり自由で不自由だった>>

これがaikoさんの実体験なのかは存じませんが、そうなのであっても、誰かを代弁するものであるのだとしても、その辛さからいつの日か、aikoさんと、その誰か、そしてリスナーが解放されることを願ってやみません。

どうかくれぐれも、リスナーの期待に応えようとご無理をなさることはせず、その望まれるペースで活動を続けて下さいませ。それは私のみならず、恐らくは多くのリスナーが、共有する思いなのではないかと存じます。

敬具

遊座守拝

※<<>>内はaiko「愛の病」「桃色」「アンドロメダ」「カブトムシ」「彼の落書き」「花火」「白い服黒い服」「夏にマフラー」「飛行機」「mix juice」「アスパラ」「青空」の歌詞より引用
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