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miletの音楽はパラシュート

完全には救われない。でも、前を向かせてくれる音楽

2020年6月3日、miletの1stアルバム『eyes』がリリースされた。私はその日をずっと心待ちににしていて、ようやく手に取ることができてからの約1週間、夜寝る前にこのアルバムを聴くのが毎日の楽しみになっている。全18曲、いい曲が詰まった宝石箱みたいなアルバムだ。1曲1曲にそれぞれのカラーがあって、取り出すのが楽しみになる、そんなアルバムなのだ。 

 私がmiletさんの音楽に出会ったのは、彼女のデビュー曲”inside you”だ。ドラマの主題歌としてタイアップしていたようだが、私の場合は、たまたまitunesのチャートで上位にランクインしていたのを見つけて、試し聞きしてみたのがきっかけだ。初めて聴いた時、低くてちょっとかすれていて、でも重くて力強い、ものすごく特徴的な歌声と、アメリカやカナダの女性シンガーソングライターに引けを取らない楽曲にすごくピンときて、すぐにダウンロードした。2019年3月6日には、この曲が収録された『inside you EP 』がリリースされた。デビューのタイミングで存在を知ってから、いつも新曲を楽しみにずっと追いかけている、自分にとって数少ないシンガーソングライターがmiletさんなのだ。  

 今考えると信じられないが、そのEPを購入した人は、先着でmiletさんのショーケースライブに無料で招待してもらえた。私も迷うことなく購入した1人だ。2019年3月25日の仕事帰りに、EPに同封されていたライブに参加するための整理券を大事に握りしめて、六本木のBillboard Live TOKYOへ向かった。miletさんはデビューしたてにもかかわらず、8曲も歌ってくれた。その時私に浮かんできたのは、「めっちゃ歌うまくてきれいでかっこいい!」という何のひねりもない、でもとても正直な感想だった。よくライブで聴くアーティストの歌声について「口から音源」という言葉を耳にするが、miletさんの歌声は、音源からでも伝わってくる声の力強さが、ライブでは更に伝わってきて、気迫みたいなものが感じられた。そして、やっぱり彼女の楽曲そのものが個性的でクオリティが高いのだと、改めて気づかされた。初めて聴く曲が大半であるにもかかわらず、好きな曲ばかりだった。特に印象に残ったのは、『航海前夜』と”Parachute”という曲だった。初めて聴いたにもかかわらず、すごく孤独な曲だと感じた。歌詞もメロディーも印象的で、また絶対聴きたいと思った。 

 miletさんはバイオグラフィーによると、思春期をカナダで過ごし、英語がネイティブ並みに堪能だ。歌詞にも英語が頻繁に登場するのだが、いつも音だけでなく、意味まで日本語の歌詞の部分とカチッとはまっていて、本当にすごいと思う。そして、聴いていてもすごく心地いい。とはいえ、ただ音楽的な気持ち良さや音の流れでだけで英語が使われているのではなく、そのワードやフレーズに伝えたいことがしっかりと込められている。だから、聞き流すことができず、聴き入ってしまうのだ。英語と日本語が混じっていても全く違和感がなく、むしろこれがmiletさんの音楽なのだ、と納得する。洋楽か邦楽か、英語か日本語かとか、そのどちらかではなく、その両方を兼ね備えているのがmiletさんの音楽なのだ。

 miletさんは、プロフィール上、年齢を非公開にしている。きっと、年齢による先入観に囚われず、音楽で判断してほしいという思いがあるのでは、と想像する。確かに、彼女は、音楽で、歌声で勝負できる人だ。

 それに加えて、人柄も魅力的だ。ショーケースライブで初めて見た時は、まだよく知らない謎めいた存在だったこともあるが、歌う姿や、口数もそんなに多くはない静かな話し方から、クールな人、ちょっと氷のような印象を私は受けた。同時に、肝が据わっている感じや気迫も伝わってきて、いろんな表情が見えた。まるで”inside you”の歌詞のように、「この人の中には誰がいるのだろう?いろんなものを心の中に持っているのでは?」と私は思った。そこから月日が流れ、miletさんのラジオでのおしゃべりやTwitterでのつぶやきなどに触れる機会が増えると、独特な感性を持ったお茶目でおもしろい人だということがわかってきて安心した。また、絵もすごく上手い。ライブグッズにプリントされている絵もmiletさんが描いていて、おしゃれでかわいい。パーカーやTシャツ、トートバッグ、スマホケース、ポーチなど、日常で使い倒す用と予備で2セットずつ買ってしまったのだが、そこまでしたのも私にはこれが初めてだった。

 miletさんの曲は、歌詞もすごくいい。miletさんの音楽はどこかすごく孤独で、安易な慰めや救いの言葉は使われていない。『航海前夜』、”Prover”の歌詞を読んでいると、暗闇の中をそれでも進んでいく強さが感じられる。

《境界線上の端で踊る 
Ice caps 遠く見据えて立ち止まる
Eye to eye for us この声と体
ひとつで
凍りつく前に

I won’t let you go
And I just want you to know
I will prove it ここは間違ってはいないんだと
(I won’t) let you go
And I just want you to know
明けないままで今も声を辿ってる

こんな場所で独りきりでも
深い深い旅路の先が
凍えそうな海の底でも》
(『航海前夜』より引用)
 
《踏み込んだ shadow land 楽園なんてない
錆びる old remedies 確信なんてない

それでも go up the river
しがみつくだけの ladder
涙にさえ灯る火が
ひとつのsign ひとつのlight

明けない夜も歌が途切れないように
当てなく迷う夢がもつれないように
すれ違った足跡たち 振り返らぬように
踏み外したあなたでさえ手離さないように

I’m the prover
I am the prover
終わらない世界にだって立ち向かうように
I’m the prover 命の声が
また響き出すころに あなたと(I’ll be there)
沈まずにゆく舟を》
(”Prover”より引用) 

miletさんの曲を聴いていると、孤独と向き合うことは悪いことではないのだと教えてくれる。すごく孤独だけれど、じめっとした湿っぽさや、うじうじした感じは全くない。安易な共感を求める感じも一切ない。miletさんの音楽は、孤独があるからこそ前を向いていくことができるのだ、と気づかせてくれる。miletさんも、miletさんの音楽も、肝が据わっていてかっこいい。

 私はmiletさんのことを基本的に音楽を通してでしか知らないし、想像してみることしかできないけれど、彼女は本当の孤独や暗闇を知っている人なんじゃないか、という気がする。なぜそう思うかというと、先ほども述べたが、彼女の曲には安易な救いの言葉は出てこず、むしろ、完全には救われはしないのだ、という、普通なら目を逸らしたくなるような事実から逃げないからだ。それが表れているのが、アルバム2曲目の”Parachute”だ。 

 この曲は、最初のショーケースライブだけでなく、2019年6月11日にMt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで行われた2回目のショーケースライブ(『Wonderland EP』購入者を先着で無料招待したもの)と、2019年11月11日にLIQUIDROOMで開催された1stワンマンライブ”eye”においても披露されたが、音源化はされていなかった。それが、1stアルバム『eyes』でようやく音源化されたのだ。私は幸運にも、これら3回のライブに参加することができた。毎回”Parachute”が聴けるのがとても楽しみで、いい曲ばかりのmiletさんの曲の中でも、特に大好きな曲になった。miletさんの曲はいい曲が多すぎて、どれが1番好きかは正直決められない。でも、もしこのアルバムから1曲だけ、たった1人きりで、今まで自分が行ったことのない、誰も知っている人のいない、全く知らない場所に持って行って聴いてもいい、と言われたら、私は”Parachute”を選ぶ。 

《Parachute 行き場のない
Parachute Tonight
Parachute 気流のsigh 乱れる

救いなど求めない 消えてく景色は slowly
戻りたくないほど I got an issue

How long should we go? 》
(”Parachute”より引用)

初めてライブでこの曲を聴いたとき、冒頭の《Parachute 行き場のない》というフレーズがとても印象的だった。始まりからいきなり暗い歌詞だな、と思った。そして、始めから《救いなど求めない》と言っていて、達観しているな、と思った。《How long》のところからどんどん音が下がっていき、空から落下していくイメージと重なってきたところで、次のサビへと移る。

《Will you save me, parachute?
Can I just fall into you? If you love me
手を伸ばしても届かない
着地点は it’s not the end

Parachute you can’t save me,so I will do
If you love me
堕ちていってもかまわない
あなたがいれば it’ll be fine》 

ここでも、あなたは私を救えない(you can’t save me)、だから私が私を救う(so I will do)と言っていて、ここにも冒頭の歌詞と同じような達観と同時に、それでも自分自身で進んで行こうとする強さが感じられる。 

 miletさんは2020年5月27日の自身のTwitter で、

「『Parachute』 
パラシュートは助けてくれない。私は私でどうにかする。ねえ、あなたには一緒に堕ちる覚悟がある?
このアルバムのなかでは一番古い子。1回目のショーケースから歌っていたけど、ようやくリリースできるんだ。感慨深いです。
1st full album”eyes”リリース6/3まであと8日。」

とつぶやいている。これを読んでも、”Parachute”は希望に溢れたような、明るい曲ではないことがわかる。本当は重くて暗い意味があるんじゃないかというように感じられる。

《Parachute 絡まりは
Parachute It’s love
Parachute ほどかずに堕ちてみたい 

凍る吐息の音 震える意識は朦朧
だけど後悔はない I know I got you》

この部分の歌詞も、ダークだ。《Parachute ほどかずに堕ちてみたい》という箇所に、はっとさせられる。パラシュートをほどかずに落ちたらどうなるかはわかるだろう。凍る吐息や震える朦朧とした意識も、恐怖や孤独を連想させる。でも、《だけど後悔はない I know I got you》とやっぱり潔くて前を向いている。私はmiletさんのことを本当の意味では何も知らないけれど、暗くて怖いもの、ドロドロしたものを冷静なまなざしで見つめながら、それでも前に進んで行くのが、miletさんの音楽なんじゃないかと思う。

 この曲の歌詞は、《Parachute 行き場のない》で始まり、《Parachute 行き場のない》で終わる。やっぱり、救われはしないのだと気づかされる。ある意味冷徹なまでにちゃんと向き合っている。救われないという事実にちゃんと向き合うことで、自分自身が前を向ける。そして、そのスタンス、距離感に、逆に救われる。パラシュートは急激な落下からひとまず命は救ってくれるけれども、着地してからどうするかは自分次第だ。パラシュートは完全には救ってくれないけれど、まずは何とか着地点まで運んでくれる。だが、その着地点は終わりではなく(《It’s not the end》)、新たなスタート地点なのかもしれない。何だか、miletさんの音楽自体が、パラシュートみたいな役割を果たしていると私には思えた。  

 ここまでは、あくまで、私の解釈であって、きっともっと様々な受け取り方があるはずだ。miletさんの音楽には、様々な感じ方に耐えうるだけの強度やキャパシティがあると思う。

 miletさんは、ダークで重くてドロっとしたものを、その大事な部分や暗さは保ったまま、ポップで美しい音楽に変換できる人なのだと感じる。miletさんの楽曲はバラエティに富んでいて、happyで心躍るような曲、突き抜けていて爽快でポジティブなエネルギーに溢れた曲、聴き惚れてしまうような美しいバラードや、ダークでヘヴィーなドロドロした曲もあり、どれを取っても個性があって、miletさんの音楽として成立している。アルバムを手に取って聴いてみたら、きっと自分の心にフィットする1曲が見つかるはずだ。miletさんの音楽は、聴く人ひとりひとりの中で意味を持ち、聴く人それぞれの中で完成する音楽だと思うから。

 最後に、2020年3月17日のTwitterでのmiletさんのツイートがとてもすてきだったので引用しておきたい。

「私は音楽だから、いつでもあなたのそばに、中にいることができる。どこへでも着いていく。だから、ゆけゆけ。」

 また必ず、miletさんのライブに行って、あの歌声を聴きたい。私はその日を心待ちにしている。
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