4141 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

違いを越えて響き合うもの——星野源と米津玄師

愛を持って表現すること、ポップな音楽だからこそできること

 星野源と米津玄師——この2人は、名実ともに、今の日本のポップミュージックを代表する音楽家たちだ。星野さんも米津さんも、それぞれが唯一無二で、自分にしか作れない音楽を作っていて、そもそも比べることなどできない存在だ。その2人の音楽家たちが、『MIU404』というドラマによって繋がり、必然的な結びつきを持つようになった。私は前々から、星野源と米津玄師という2人の音楽家たちの間に、その違いを越えて共通するものがあると感じていて、それを何とかして言葉にしたいとずっと思っていた。そして、ついに『MIU404』でこのお2人が繋がった今こそ、それを言葉にするタイミングだと思ったのだ。

 星野さんも米津さんも、音楽への半端ない造詣やリスペクトがあり、誰にも真似できない音楽を作っている。すごくマニアックで独特であるにも関わらず、ポップでかっこよくて美しくて、人々の琴線に触れる音楽、最先端なのに老若男女問わずみんなに愛される音楽を作る、とんでもなくすごい人たちだ。私が、そのお2人の音楽に共通するものを強く感じるようになったきっかけが、2019年10月に発表された星野源さんのEP『Same Thing』を聴いたことだ。 

 その表題曲の”Same Thing”を初めて聴いた時、私は感銘を受けた。ものすごく感動した。星野さんがイギリスの多国籍バンド Superorganismと共作したその曲は、全編英語の歌詞で、サウンドもめちゃくちゃハッピーで楽しくてかっこいい。でも、歌詞を読んで私は何だか泣けてきた。こんなにも楽しくてかっこいい曲で泣けるなんてそうそうないと思う。悲しくて泣くのではなく、世の中のみんなへの、音楽への愛がこもっているのがひしひしと伝わってきて、泣けてきたのだ。

《It doesn’t matter to me whether it’s all rain or full of sunshine
You piss me off, I love you a lot
To me, they both mean the same
I meet really cruel guys and sweet angels too, like all of the time
And they’re always around, they’re all crazy too,
I hope you know what I mean

I’ve got something to say
To everybody, fuck you
It’s been on my mind
You know I meant it with love

I just thought it’d be fun
Went through a whole lot so fuck this
They all mean the same thing, you know
We alright, change it up, do your thing

(日本語訳詞 hoshinogen.comより)

僕の中では 酷い雨の日も暖かい晴れの日も
クソ喰らえと愛してるが同じ意味になる
最悪の神も 優しい天使も
いつの日も側にある
狂ってる
言ってる意味わかる?

みんなに言いたいんだ
Fuck youって
ずっと思ってたんだよ
心から愛を込めて
 
「楽しそう」って思うのも
「最悪だ」って落ち込むのも
どっちも同じことなんだ
それで大丈夫 それでいい》
(星野源”Same Thing”より引用)

「酷い雨の日」と「暖かい晴れの日」、「クソ喰らえ」と「愛してる」、「最悪の神」と「優しい天使」、「『楽しそう』って思うの」と「『最悪だ』って落ち込むの」といった、正反対の、相反することが、《どっちも同じことなんだ(They all mean the same thing)》と歌われている。ポジティブなこともネガティブなことも、その方向は違っても、そこへ向かう熱量は同じなんだよ、と言っているように私には思えた。愛するのも嫌うのも結局は同じことで、だったら気負わずに愛を持って楽しく行こうよ、と言ってくれている気がして、私は嬉しくなった。 
 星野さんは、『Same Thing』を制作した時のスタンスについて、インタビューで以下のように語っている。

「わかる人にはたぶん伝わるだろうっていうような、なんかそういうもの。はっきり、メッセージとして投げたいわけでは全然ないというか。音楽として成立するのがいちばんいいっていうような感じですね。で、各曲それぞれ、僕の歌詞の根本にあるのは、ただただfuck youっていうことなんですよね(笑)」

星野さんは、”Same Thing”のMVをシドニーで撮影した際に出会った、ジガという名前のカメラマンとのやりとりを以下のように語っている。

「『ほんとに今の世の中、fuck youって言わないとやってらんないよね』『ほんとだよね』って話をして。『でも、攻撃的に何かを訴えて世の中を変えようってことだったり、何かをこき下ろしたり攻撃するfuck youじゃなくて。僕の周りにはものすごく愛する人がいたり、Superorganismのみんなとか、ジガとか、愛を持って生きている人たちがいて。そういう人たちにそれを投げたくないんだ。だから、楽しくfuck youってみんなが言えるようなものがほしい。今はひどい世の中だけど、音楽やってる時は楽しめるようなものにしたいんだ。』『最高だねっ!わかるよ!』って言ってくれて。『あ、一緒だね!』っていう感じがしたんですよね。国なんて関係ないんだ、みんなそういう気持ちで今、生きてるんだなっていう。それが、すごく嬉しかったんですね」

「だから、愛を持って中指を立てていくことは、悪いことではないというか。当然の権利っていうか(笑)、このひどい世の中の状態で、何も言うなっていうのは無理だよっていう。でも腐って自暴自棄になってfuck youって絶叫するということじゃなくて、俺は楽しんでいくよっていう。そういう感じですかね」
(すべてROCKIN’ON JAPAN 2019年12月号より引用)

 2018年8月20日にリリースされた星野源さんの『アイデア』の歌詞にも、「にこやかに中指を」というフレーズがでてくる。

《生きてただ生きていて
踏まれ潰れた花のように
にこやかに 中指を

つづく日々の道の先を
塞ぐ影にアイデアを
雨の音で歌を歌おう
すべて越えて響け》

世の中や社会に対しての怒りや不安、やるせなさを攻撃的にぶつけて他者を傷つけるのではなく、ポップな音楽によって、愛を持って表現していくこと。人間を、人生を肯定していくこと。楽しむこと。それは、星野源と米津玄師という、音楽性も、人間性も、アプローチの仕方も異なる2人の音楽家たちが、それぞれの違いを越えて、共通している部分だと強く思う。星野さんも米津さんも、紛れもなく、それぞれが唯一無二の音楽家だけれど、ポップな音楽を通して伝えようとしていることは、根本的には同じなのではないだろうか。ポップで普遍的な音楽を真摯に作り続けている方たちが行き着くところは、やっぱりそういうところなんじゃないかと思えてきて、私はとても感動した。

 米津さんの『感電』の歌詞にも、《愛し合う様に 喧嘩しようぜ》というフレーズが出てくる。星野さんが”Same Thing”で「愛を込めてFuck youと言う」ように、米津さんも、ポップな音楽を通して「愛し合う様に喧嘩する」ことを教えてくれる。「愛を込めてFuck youと言う」ことも、「愛し合う様に喧嘩する」ことも、星野さんと米津さんがポップな音楽で伝えようとしていることは、普通に考えたら相反することで、同時にやるのは、普通に考えたら不可能なことだ。でも、ポップな音楽でなら、それが可能になる。そして、聴く人の気持ちや考え方、生き方を、よりよい方向へと変えていく力を持っている。星野さんも米津さんも、ポップな音楽が持つ可能性を常に探究し続けているのだと感じる。

 米津さんの過去のインタビューでも、「笑顔でファック」という言葉が出てくる。それは、アルバム『BOOTLEG』の制作においても重要なスタンスだった。米津さんは、ROCKIN’ON JAPAN 2017年11月号のインタビューで、「過剰なオリジナル信仰に対するファックの気持ちがすごく高まってた」と語っていた。それは、同アルバムに収録されている”Moonlight”でも表現されている。

 米津さんは、ROCKIN’ON JAPAN 2017年12月号での『BOOTLEG』全曲解説インタビューで、”Moonlight”のことを「これが一番最後にできた曲で。アルバムの目玉ですね」と語っていた。

《どこへ行ってもアウトサイダー
夜通し読んだハンターハンター
本物なんて一つもない
でも心地いい

文化祭の支度みたいに
ダイナマイトを作ってみようぜ
本物なんて一つもない》(”Moonlight”の歌詞より引用)

《本物なんて一つもない》というフレーズが、「過剰なオリジナル信仰」へのアンチテーゼとなっている。米津さんは、”Moonlight”を制作したときの心境ついて、以下のように語っている。

「笑顔でファックなんですよね(笑)。それが自分が最近志してるもの。今回、すごいポップなアルバムにしたいと思ったんですよ。こういう曲もありつつも、それこそ小学生くらいが聴いてもわかるようなアルバムにしたいなあと。ポップなものが好きな自分も、先鋭的なものが好きな自分も両方いる。じゃあ自分はどういうふうに舵を切っていくのか。小学生の頃の自分もいるし、ハチの頃の自分、今日この瞬間の自分っていうのもいて。その中でたどり着いたのが、文化祭の支度みたいにダイナマイトを作るっていう、その一節なんです。文化祭っていうピースフルでポップなもの、でも実際作ってるのはダイナマイトであるっていう、その感じなんですよ。文化祭の支度みたいにダイナマイトを作ってる人間って、それこそ俺だと思うし(笑)。それは俺にしかできないことなんじゃないかなあって、周りを見渡してても思うし。だから笑顔でファック。それが俺なりの、今、自分が住んでる世界に対する回答だし。自分が今まで培ってきた過去の集積による現在ですね」
(ROCKIN’ON JAPAN 2017年12月号より引用)

ダイナマイトは、破壊力があり危険で、衝撃が大きく物騒なものだが、ここでは、怒りやフラストレーション、内に潜む鋭さや尖った表現への衝動を、ダイナマイトになぞらえているのだと読み取ることができる。それをそのままダイナマイトとして投げつけるのではなく、そのエッジは失わせることなく、文化祭のように「ピースフルでポップ」なもの、平和で楽しいものに変換して表現していく。やはり、星野源と米津玄師の音楽と言葉には、その違いを越えて共通するものが、確かにある。

  ここまで、星野さんと米津さんの歌詞やインタビューをたどっていると、尋常じゃない回数のFワードが出てきて、自分でも書いていてドキドキしている。英語圏では最高レベルの放送禁止用語。でもこれは文章なので、テレビみたいにピーっと言う音を入れる訳にもいかないし、文字を黒塗りにしたら何を言っているのかが分からなくなってしまう。だから、Fワードをそのまま連発する文章になった。星野源と米津玄師という2人の音楽家たちは、そのぐらいエッジの効いたことを、ものすごくポップで愛のある楽しいやり方で、すばらしい音楽にして私たちに届けてくれている。星野源と米津玄師との間には、その違いを越えて、響き合うものがある。そのポップで美しい音楽を、これからもずっと作り続けていってほしいし、私はそれを聴くことができるのを、これからもずっと楽しみにしている。
  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい