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星野源が描く、色気と多様性

星野源「Ain’t Nobody Know」のMV感想

見終わった直後に感じたことは、なんだか心がざわざわして、モヤモヤが残る。
もちろん曲は良いし、映像も美しくて、何度でも見たい最高の仕上がり。
でも何だか、とにかくモヤモヤする。なんというか「いたたまれなさ」のようなものを非常に強く感じる。
心の中に、言葉にできない気持ちがずっと引っかかる。発表されたのは今年1月半ばだからもう半年も前だけれど、これに関してずっと心がざわついて、モヤモヤしている。

クールなリズムに甘くセクシーなヴォーカル、美しい映像、出てくる3組のカップルは異性の組み合わせの2人の他に、美形の女性同士、男性同士の同性愛カップル。
星野源は常日頃から発表する楽曲の中で、愛や家族のありようについて、その多様性の細やかなところまで拾い上げる。
多数派には含まれない様々な形もすべて、愛し合う気持ちがあれば離れていても、血が繋がっていなくても家族だ、ということを「Family Song」で歌い、ひとりひとり別々の存在で、ひとつにはなれないけども、触れ合うことでもっと相手を知れることを「肌」で歌い、ひとりの自分と、他の誰かとの間に生まれる距離感について、ここだ!というクリティカルポイントを突く達人の、星野源。
そして、今回のこのMVで感じるざわざわした気持ちは、今までの曲の世界にない人の気配を感じ取ったことにある。
家族のありようや、恋愛対象への多様性があってもいいじゃないか、一般的にマイノリティとされる人たちへの優しい眼差しがあるのが、星野源。その通りだけれど、その先の、もっと突き放した視線と、それを受けるもの。

ずっと考え続けた結果、それはこの曲名に答えがある、という結論にようやくたどり着いた。
Ain’t Nobody Know はつまり、誰も知らない、誰も見ていないよ、という意味である。
誰も見ていないはずのものを、透明人間になった、それを見ているはずのない私が見ている。

この作品は映像が非常にセクシーで色っぽいと評判で、出演者の方々が美形&美肌ぞろいである。なおかつ指先や瞳、唇など、身体のパーツがアップでその質感までよくわかる、近い距離に寄った映像が多用されている。
唐突に現れる身体の一部のアップは、本来、限られた相手にしか見せない場所で、入れない距離感。それが急に目の前に出てくると、ドキドキしてしまう。入れてもらえないはずの場所で、本当なら見せてもらえないものを見てしまっている。
それは何だか、壁に開いた小さな穴の向こうに魅力的なものが見えたのでつい覗いてしまった、という気分になる。

何か色っぽいものが見えたとしても本来見るべきでない距離感なら、そこから目をそらすことがつつましい人間の振る舞いのはず。でも見てしまう。魅力的だから。愛し合う彼女らと、彼らがうらやましいから。
でも、あなたはそこにいるはずのない人だから、関係ないんじゃない?もっと言うと、レスビアンとかホモセクシャルとか、そういうのはきっとあなたの世界にはないでしょう?そうです。でも、それを知りつつもつい見てしまって、そういう自分に赤面する。

「誰も知らないよ」というはずのことを、無断で、こっそり見ているいたたまれなさ。「何を勝手に見てるの?」と、突き放された感じ。
誰と誰がいちゃつこうと、それは彼ら、彼女らの部屋の中で行われていることで、2人以外の人間がそれについてあれこれ言うことの方がまずおかしいことに気づく。関係ないから。
関係ないあなたが勝手に見てる、そのことの方がずっとおかしいし、何なら変態なんじゃないの?と言われた気分。
「何見てんだよ、バカじゃないの?」くらいの感じ。うらやましいのかもしれない。覗き見してしまった、背徳感。
とても、ドキドキさせていただきました。星野源はドSです。
このMVに出てくる女性同士、男性同士のカップルは、実際の恋人同士なのだそう。最後の1組は星野源さんと、相手役は小松菜奈さん。男女の2人は近づくことはなく、離れた距離から、視線を交わし合うだけで終わります。
この2人は、実はまだカップルですらなく、たった今出会ったばかりなのかもしれない。そういう出会いはこの先、今この瞬間なのか来年なのか、10年後なのかわからないけれども、私にもあなたにもあるのかもしれない。
ドキドキ、そしてざわざわする、至高の作品です。
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