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ライブレポート/星野源 十周年記念ライブ “Gratitude"

緻密な演出の数々とバンドのグルーヴが映し出す「星野源の十年間」。その魅力を冒頭三曲に絞ってレポート。

 『Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”』と題された星野源初となる配信ライブが2020年7月12日、東京・渋谷CLUB QUATTROより全世界同時配信された。ソロアーティストとしての活動10周年を記念するこのライブは、2010年7月12日に開催された初のワンマンライブから2019年に行われた5大ドームツアー、そして同年World Tourなど、ソロキャリアを経て星野源が積み重ねてきたであろう「音楽を通じ伝える事・繋がる事」の集積が彼にしかできない方法で表現された、最高のライブパフォーマンスだった。2時間以上に及んだこのライブの魅力を、この記事では敢えて前半20分=三曲分に絞ってお送りしたい。

 開場の18:30からはバンドメンバーが選曲した星野源の楽曲が流れ、開演時刻19:30になると画面が暗くなる。次に映し出されたのは渋谷CLUB QUATTROの入り口であった。その後、カメラはゆっくりと楽屋方面へと移動。フレームインした星野源の後ろ姿を捉えたまま、彼と一緒にステージに上がり、一曲目『Pop Virus』がスタートする。

 この一連の演出を経て観客は「ライブが始まる前の異質感」に引き込まれたのではないかと思う。通常のライブにおいては、期待と緊張に満たされた会場の「ある種、異様な雰囲気」が主役登場の前座を務めるのだが、配信ライブにおいてこの雰囲気を作り出すのは至極難しいように思う。結果、観客側が出遅れる事も多々であるが、今回の、観客目線から始まらず敢えてステージに上がる星野源を映すという演出は「あと数秒でライブが始まる!」という映像的カウントダウンとして観客の緊張と期待感を増幅させる役割を果たす、「ライブが始まる前の異質感」と配信というフォーマットをたった数秒間で共存させた素晴らしい演出だったように思う。

 このように今回のライブは、単なる「演奏のオンライン配信」ではない。「配信ライブというフォーマットを通じてどのように音楽を伝えられるか」という命題に無数の工夫で回答した唯一無二のパフォーマンスであり、さらに、これら一つ一つの緻密なアイデアこそが星野源の「音楽を伝える事を突き詰めた十年間」を表象している、つまり1つのディティールから彼のキャリアを感じ取ることのできるような、そんな愛に満ちた十周年ライブであった。
 
 一曲目『Pop Virus』は弾き語りからスタート。2コーラス目でバンドメンバーの演奏が参加し、愛しさと楽しさと怒りがグルーヴする今夜の星野源サウンドが完成した。今回の『Pop Virus』弾き語り部はいつにも増してテンポ感が動き回る、星野源独自のフィーリングが押し出された名演であったがそこに寸分狂わず打ち込まれるバンドサウンドからもドームツアーやWorld Tourを経て生み出されたであろうバンドとしての一体感を感じる。そして間奏部で星野源はバンドメンバーに合流、客席に組まれた円形のステージに到着する。音源などではストリングスが演奏する重厚なメインメロは武嶋聡(Sax, Flute, Tambourine)と長岡亮介(G, Cho)のレイドバックしたメロディにアレンジされ、その隙間にSTUTS(MPC, Tambourine)と河村“カースケ”智康(Dr)の微かにズレ合うHi-Hatの音が裏打ちで滑り込む。櫻田泰啓(Key, Cho)・石橋英子(Key, Flute, Cho)の包括的なKeyサウンドとカウンターライン、ハマ・オカモト(B, Cho)のバンド全体をドライヴさせるBassサウンドらが8人の演奏を支える。ストリングレスが故に生まれた音像的空白をグルーヴとして抱擁するアプローチは2019年WorldTourから継続されたものであるが世界の舞台を経てより洗練されたであろうその魅力の全てが一曲目『Pop Virus』に集約されている様に感じた。

 二曲目『地獄でなぜ悪い』の印象的なイントロではSTUTSの奏でるノイズがバンドサウンドと融合され、その「地獄感」がより現代的に表現されており、STUTSが「MPCプレイヤー」としてバンドに加わる重要性を再確認できた。続くAメロ・Bメロでは河村“カースケ”智康のスウィンギーなスネア捌きとハマ・オカモトのスタッカート気味のベースラインが曲本来のJazzyなグルーヴをタイトに表現しており、その上で櫻田泰啓のKeyが暴れ回るというストリングレスの強みを活かした構成には思わず心が躍る。

 続くMCでは、星野源自身が「ライブの代わりにライブっぽい配信をやるのではなくこれをやろうと。ドーム真ん中でもやってきた円形のライブを。なるべく近い距離で。普通のライブじゃ見れない角度から。」と今回の配信に対する心持ちと、円形での演奏の理由を語った。

 三曲目『湯気』はメンバーの笑い声と共にスタート。各ヴァース最後のブレイクでは2019年WorldTourでも披露された所謂「だるまさんが転んだ」が登場。この、お互いが演奏を通じ「会話」をする演出は今回採用された円形のライブセットと極めて親和性が高いように感じた。メンバー同士が顔を見合わせ演奏するステージセットが「会話」に適しているのはもちろん、ライブ全体を通じて広義での「星野源バンドのグルーヴ」を全面に押し出す舞台装置として機能していたように思う。「星野源バンドのグルーヴ」とはつまり一種の「ゆるさ」であると表現できるのではないか。演奏中にプレイヤーから思わず笑いが溢れてしまうよな、曲途中にお孫さんが可愛いトークをしてしまう様なそんな「ゆるさ」である。そしてこの「ゆるさ」が各オーディエンスの視聴環境、「おのおの」の精神的なお茶の間とリンクしたのではないだろうか。実際、私は一人の観客として、ライブに釘付けになりながらもどこかソファに寄り掛かった様な心持ちで、興奮と安心感が同居する精神状態でライブを視聴していた。配信ライブでこの様な心持ちになったのは初めてであった。
 去年8月に発売されたBlu-ray『DOME TOUR “POP VIRUS” at TOKYO DOME』の特製ブックレットに収録された『ツアー振り返り鼎談』では、円形のライブについて、MCとして多様な経験を持つ星野源とハマ・オカモトが中心になることで「ゆるさ」を全力で演出できる旨を語っており、今回もこの「ゆるさ」が意図的に、しかし極めて自然発生的に演出されたものである事を伺える。三曲目『湯気』はこのような「ゆるさ」を存分に堪能できるパフォーマンスであった。

 ここまでで三曲、およそ20分間であるが私は既にライブに引き込まれ幸福感に満ち溢れていた。この後も2時間、圧巻の演奏は続きその度に私は感嘆の声をあげずにはいられなかったのだが、その魅力は実際にライブを鑑賞し「おのおの」体感して頂ければと思う。
 ソロキャリア10周年を記念した配信ライブ。これからも続くであろう星野源の歴史の一部を目撃した一証人として今記事ではその魅力を個人的観点からお送りした。新曲ごとに新しい作品世界を提示するという偉業を10年間、そしてこれからも続けていくであろう稀代の音楽家、星野源の活動を熱狂的なファンとして今後も追っていきたいと、そう強く思える配信ライブであった。
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