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星野源が繋ぐ"Gratitude"

初の配信ライブに参加して

頭の中に、ライブの記憶がぐるぐる廻る。
ライブ後は、いつもそうだ
目に見えた景色、聴こえた音、熱気、感触、全てが波のように押し寄せてきたり、少し引いたり。
そうやって情景を何度も思い出す。

今回の星野源初となる配信ライブ「Gen Hoshino's 10th Anniversary Concert "Gratitude"」も同じだった。
その情景の全ては、画面の中に存在していたのだから。
  
夕食を作り、それを食べる。
茄子と豚挽肉の炒めものは、いつもより美味しくできた。
食べ終えて、茶碗を洗う。
その合間に、公式さんからのライブ会場画像を眺める。
結構おしゃれな空間だ。

そういえば、まだ洗濯物を干していなかった。
慌てて脱水の終わった洗濯機へと向かう。
またチラリとスマホを見る。
公式さんは物販ブースまで見せてくれた。
あれとあれは通販したから大丈夫。
けど、もうひとつ欲しいのがあったなあ。
そんなことを思いながら、物干し竿と格闘した。

ようやくリビングに戻る。
まず接続確認しておかなきゃ、とライブ配信をテレビに映す。
テレビからは客入れBGMとして「バンドメンバーが選曲した星野源セレクション」が流れている。
あの人がこれを選ぶんだ!と感動しつつ、冷蔵庫からとっておきの飲み物を出す。
クアトロはワンドリンク制だったかな。
テーブルにグラスを飲み物を並べていたら「会場入りした」という言葉がTwitter越しに飛び交っている。
うん、私もそろそろ会場入りできそうだな。
そう思いつつ、エプロンを外した。

会場入り、完了。

こんなライブは、人生初だ。
北海道の辺境住まいの私にとって、ライブとは宿泊を伴う遠征なのだ。
緊張感は道中でふつふつと沸き上がり、そこに思いを馳せることもできる。
けど、今回はエプロンを外しただけで会場入りできた。
これは拍子抜けしそうだと思っていた。

けど、私はエプロンを外しただけでしっかり緊張していたし、ドキドキしていた。
これはたぶん、公式さんの会場見せツイートのおかげだと思う。

ふと、音が消える。
渋谷クラブクアトロの廊下。
星野源が歩いてくる。
イヤモニを直し、ゆっくりとステージに立つ。
  
そうやって「Gratitude」は始まった。
  
配信ライブとは、なんだろう。
とうの昔に購入していた「Gratitude」のチケットを片手に、ふと考えたことがあった。
よくある形なら、客席に置いたカメラからの映像を映し出すライブ。
もう少し凝ったものなら、客席まで演者が降りてきたり、ゲストがリモートで登場したりだろうか。
あとは、観客がそこにいるかのような設定だったり、デジタルとの融合だったり。
考えつくだけでも、まあ色々な形態がありそうだった。

そんな中、我らが星野源はなにを企むのだろうか。
「配信ならではのライブ」という話を、源さんは何度か言っていた。

「たぶん、予想だにしないことが起こる」

そんな根拠のない自信が、私にはあった。
  
ライブは、源さんの弾き語りからスタートした。
Pop Virus。同名のツアーでも披露された楽曲だ。
薄暗いステージの上で、ギターと歌声だけがその空間を彩る。
歌声が、近い。
背中がゾクゾクする。
そして、ギターが止まった瞬間、カウントが入り、バンドメンバーが姿を見せた。そこは…

ライブハウスの「客席」。

クアトロへ行ったことのない私でも、その尋常じゃない事態に気づいた。
円形に並び演奏するメンバー。
前述のPOP VIRUSツアーでもセンターステージで見かけた光景だった。
その輪の中心に源さんが入っていく…のかと思いきや、自身もその輪の一部になった。
不思議と誰からも距離が近くて、いつもより演者さんが近い。
確かにこの布陣だと、通常の客席から内部の様子はあまりよく見えない。
ここが「配信ならでは」なのか…と納得する。

もちろん、これだけじゃない。
「Gratitude」はたくさんの仕掛けがあるライブだった。
ゆるゆるとした進行、まるでリハーサルかと思うような和やかな雰囲気。
途中の遊びも秀逸だった。
なぜかレゲエホーンを鳴らす役になっているMPCのSTUTSくん。
最近産まれた初孫が可愛すぎて本当に「可愛い」しか言わない河村"カースケ"智康さん。
掛け声「各々(おのおの)ー!」が採用されて嬉しいハマ・オカモトさん。
…挙げていけば、きりがない。
そんな嬉しくて楽しい「くだらない」様子までもが手に取るように映るのだから、確かに配信は凄い。

そして何よりも、根幹となる「楽曲」。
今回はギター(長岡亮介)、ベース(ハマ・オカモト)、キーボード(櫻田泰啓、石橋英子)、ドラム(河村"カースケ"智康)、MPC(STUTS)、そしてサックス(武嶋聡)という布陣だった。
武嶋さんが加わったことで、ホーンセクションが効いたアレンジが多く、とても心地いい。
けど、それだけじゃない。

全ての楽曲に「深み」があるのだ。
どの曲も、CDで聴いたはずの曲とは明らかに違う。
ちょっとした間だったり、音のひとつだったりが違うだけなのに、心の奥にズシンと響く。
源さんが目指していた「ブラックミュージックとJ-POPの融合」が、それぞれの楽曲に込められているようだった。
あちこちで「色気が凄い」という話も聞くけど、たぶんその正体はこれなんじゃないだろうか。

これは「熟成」とでも言えばいいのか。
10年という歳月を経て、音楽が熟成されていく様を見ているようだった。
特に源さんが「10周年」を口にしなくても、音楽がその10年を見せてくれる。
どの楽曲も最高にカッコよくて、思わず吐息が漏れる。
歳を重ねて醸し出される音楽って、こんなに凄まじいものなのか。
そんな気持ちをもっと言葉にしたいけど、考えれば考えるほどその音に蕩けてしまう。
どうしよう、星野源が好きすぎる。
そんな感じで、配信ライブは私を音楽の沼にずぶずぶと堕としていった。
  
けれども、私が感じた「予想だにしないこと」は、実は全く違うところにあった。
  
実はこのライブ、円形陣だという話を最初にしていた。
そして、源さんの立ち位置の横には、小さなカメラが置いてあったのだ。
それが「観客用カメラ」だった。

それを観客に見立てて、客がそこにいるかのように振る舞うのかな?と思った。
ところが、源さんはこう言い放ったのだ。

「俺達は、ごまかさない」

一瞬、どういうことかと目が点になった。
ちょっと何言ってるのか分からない。

「お客さんがここにいる体じゃなくて、カメラの向こう側にいる感覚を持っていこう」

それを聞いて、ようやくその意図に気がついた。
  
私達は今、ばらばらだ。
どれだけ「そこにいる振り」をしても、私達はそこにいない。
もちろん、そんな振りをすることで一瞬の夢を見ることはできる。
 
けど、やっぱり、私達の現実は、ばらばらだ。
 
その言葉は、冷酷に感じるかもしれない。
けど私は「カメラの向こうにいるあなた」に音楽を届けてくれようとしてるんだ、と思った。
茶番でも偽者でもない、今ここで、この画面を見てくれている「あなた」に。

そう思った瞬間、ライブ会場と画面が「重なり合った」。
私は今、ここにいる。
そして星野源は、この画面の向こうにいる。
時間がズレていようと、その距離が遠かろうと、そんなの関係ない。
  
渋谷クラブクアトロと10万人は、きっと今、重なり合っている。
  
この言葉は、意味なんてない、些細な一言だったのかも知れない。
けど、私にとって、この言葉は何よりも嬉しい一言だった。
今は会えない人がいることを認識した上で(会えないことを認識するのはきっと辛いことなのに)、その向こうにいる「あなた」に笑顔で音楽を届けてくれる。
そんな音楽家が、今までにいただろうか。
私は、星野源しか知らない。

この言葉の優しさを感じながら、私は配信ライブを見ていた。
だからこそ、最後の源さんのシャウトを聞いて、思いっきり笑ってしまったのだ。
  
「画面越しだって、別にいいじゃん!?」
  
そうだよ、遠いよ、離れてるよ。
けど…配信ライブ、メチャクチャ楽しかったよ源さん!!!
画面越しだって最高だった!
今は会えないよ、だからこそ今を思いっきり楽しもう。
私達はこうやって重なり合うことができるんだ。
思いっきり笑いながら、涙が出た。
また配信ライブがあったら、きっと行こう。
今度もしっかり家事を終えて、また特別な飲み物を用意して。

だって、配信ライブは、こんなに楽しいんだもの。

配信ライブの「うちで踊ろう」はPotluck Mix…ではなく、Potluck Arrangeだった。
もちろんミックスされた楽曲も驚くほどに完璧だったけど、アレンジされたらカッコよさが格段に上がった。
星野源バンド、天井知らずすぎる。
そして星野源バンドが集まってライブを行えたことに、心の底から感謝した。

「Gratitude」は源さんの台詞じゃなく、ファンからの台詞にしてくてれもいいのに。
こんなに最高の配信ライブを見せてもらったのだから、どれだけ感謝しても感謝し切れない。
そう、これは通常ライブの代わりなんかじゃない。
れっきとした唯一無二の「配信ライブ」だ。

そう思いながら、私はテレビの電源を切った。
目の前には、使い終わったグラスがひとつ。

さて、エプロンを結んで、うちへ帰ろう。
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