4042 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

『 拝啓 ― 志村正彦 様 』

フジフジ富士Qから10年。志村が遺した作品と、その影響を受けた世代へ

 7月17日、10年前の今日。あなたの仲間や友人が、あなたの故郷で、あなたの曲を演奏するというので、僕は東京から山梨県は富士吉田市へ向かいました。
 現地に着いたら、吉田うどんを食べながら瓶コーラでも。と、そんな悠長な時間はなく、宿泊もしない、温泉もアトラクションも考えない弾丸ツアーでした。

 当日は、雨予報だったのが、グズつく時間もありながら持ちこたえ、ライブが始まる頃にはキレイな青空になったことを覚えています。それからは、強い日が差したり、燃えるような夕焼けになったり、星が出て、月が見えたり。
 空からあなたが見ていて、いたずらでもしているかのように、その時々で表情を変えていきました。

 くしくもその日は、僕の10代最後の日で、ちょうど10年、歳が離れているあなたは、1週間前に30歳を迎えているはずでした。

 大月駅から富士急ハイランドへ向かう電車の切符には、その日の日付「7.17」。そして、翌日の日付を表すかのように時刻「07:18」と刻まれていました。
 人間というのは、偶然をドラマチックに捉えようとする生き物で、その時の僕は「子供から大人になるための切符」を受け取ったような気がしていました。
 印字もかなり薄れてしまいましたが、今でも御守りとして、手帳に挟んでいます。

 当日の興奮や感動を、僕は記事にしています。
 一度世に放たれた自分の文章を読み返すのは、恥ずかしいので苦手なのですが、フォルダの中から探し出し、目を通しました。稚拙な表現、未熟な言葉が並んでいます。ぎぎぎーっとなってしまいましたが、あの日の熱気や歓声が聴こえてくるようで、その点に関しては「若くて良いな」と思いました。

 そう。あれから10年ということは、僕も10個、歳を重ねたということです。まだまだ青二才という自覚がありますが、当時の記事を僕は「若い!」と思いながら読みました。

 あなたが30歳を迎えようとしていた時、若い頃に作った楽曲はどう聴こえましたか?自分の文章を読み返した僕と同じような気持ちでしょうか。それとも、、、。

 僕はいよいよ30歳の節目を迎えます。10年と1週間、誕生日が離れているあなたの年齢を超えるわけです。あっ、もしかしたらそちらの世界で40歳になられたのかもしれませんね。

 2009年のクリスマスを迎えた後、あなたの尊敬する民生さんは仕切りに「志村はこれからだったのに」と話していました。誤解を恐れずに言えば、その言葉を聞いて「その通りだ」と強く思った反面、「美しすぎる」とも感じていました。

 高校生になったぐらいからだったでしょうか。僕はしばらく「いつ死んでも良い」と思っていました。至極マイナスに聞こえる表現ですが、とてもポジティブにそう考えていました。
 仲の良い友達がいて、好きなものを食べて、自由に行動できる。大した苦労もなく、幸せに過ごしている今なら、「悔いなく終わること」が出来ると感じていたのです。

 それから月日が経って、段々と、知らず知らずのうちに、僕の心境には大きな変化があったのだなと、この文章を書いていて気がつきました。「明日が楽しみで仕方がない」のは当時と変わりませんが、「その明日に生きている自分」を想像して、胸の高まりが抑えられないのです。

 今でも、あなたの先輩や友人は、あの時と同じ、格好いいまま。白髪が交じってシワが増えたり、家庭が出来たり、バンドは形を変えたり、立ち止まったり、また動き出したり。
 もしかしたら、その種類は変わったのかもしれませんが、彼らを見て、楽曲を聴いて、未だにワクワクドキドキさせられています。「年齢は関係ない」と、身を以て体現してくれる人がいることに、僕は大きな勇気をもらっているのです。
 
 今なら、民生さんの言葉を心から理解できている気がします。40歳になったあなたは、どんな容姿で、どんな音楽を僕に与えてくれていたのでしょう。

 ことあるごとに、あなたの声を聴いています。聴き続けています。どうせ忘れちゃうんだと思ったり、忘れることは出来ないなと思ったり。とにもかくにも、今日を迎えました。
 新しい靴をはいて、バスに飛び乗って、暇つぶしに恋をして。パジャマを着て、お地蔵さんの顔を見ながら、チョコレートとコーラでお腹を膨らませたら、いつの間にかテレビの放送が終わっていて。
 遠くの街へ行ってしまったあなたのことを想いながら、全力で走ってきた10年間でした。

 今、僕は「未来」を相手に仕事をしています。僕よりも若者のティーンエイジャーです。彼らに、気持ちを伝えるために、また、彼らの想いをくみ取るために、悩むことも多いですが、そんな日々が好きでたまりません。僕は生きて、彼らのこれからを見守りたいと思います。

 この季節が好きです。あなたのいたフジファブリックは、夏の始まりのようなバンドだと思っていました。今のフジファブリックは、暖かい春のようです。こちらも、僕は大事にしています。だって、新しい出会いがある季節ですから。

 また出会えるかは分かりませんが、しばらく、あなたを直接お目に掛けることは出来ないと思います。これからもあなたの遺したものを大切に、生きていきます。そして、あなたの仲間達が生み出すものに、期待します。どうか、空の上から見守ってあげてください。あの日と同じように。
  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい