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米津玄師『感電』についての追記

《響き合う境界線》、繋がる世界線

 米津玄師『感電』のMVが公開されてから、様々な感想や考察、解釈が生まれていて、とても興味深い。こんなにも観る人の思考を刺激するMVはなかなかないだろう。私も、他の方たちが書いた文章をとても興味深く読んだ。それぞれが、鋭くておもしろい、愛のある温かい視点から書かれており、自分以外の人の視点だからこそ気づかされること、新しい発見があって、自分自身もインスピレーションを受けた。そこから新たに考えたこと、感じたことを追記しておきたいと思った。 

 私はこの前掲載して頂いた音楽文で、『感電』のMVは「かっこいい」と「へんてこ」の紙一重のギリギリのところをスレスレで行っているからこんなにもかっこいいのだ、という趣旨のことを書いた。すばらしさを伝えるために「へんてこ」というワードを使ったのだが、「へんてこ」なんて書いてしまって自分でもちょっとドキドキしていた。でも、過去の米津さんのインタビューを読み返していくうちに、合点がいった。米津さんは、”Flamingo”の制作についてのインタビューで、以下のように語っている。

「バカだしみっともない、しょうもない奴でいたい。それを頭の中で考えながらやってるんで。それはある種のコスプレでしかないんだなとは思うんですけど、自分の中にあるみっともなさみたいなものは、生まれた瞬間からずっとあるから、それを隠さないようにしようと。それによって、下品な——上品と下品って、世の中にあるものを敢えてふたつに、二項対立にして分けた時に、下品な方向に恥ずかしげもなく行ける人間になりたいと思ったんですよね。そっちのほうが楽しいから。そっちのほうがもっと、下品の中にあるいろんなものが自分の中に入ってきて、それが掻き混ざってまた新たな音楽になる。それが、自分が長く音楽を作っていくにあたって、ものすごく大事なプロセスだと思うんですよ。」(ROCKIN’ON JAPAN 2018年12月号より引用)

このインタビューから、米津さんは、かっこ悪くて滑稽な自分を見せることを恐れていないのが伝わってくる。むしろ、下品さやみっともなさと向き合い、それを作品として昇華させていっている。それが2018年に発表された”Flamingo”であり、2020年現在の『感電』なのだろう。

 さらに過去のインタビューを読み返していくと、米津さんは5年前からすでに、様々な二項対立の片方だけに寄り過ぎず、バランスを保っていくことの重要性について語っていた。そのスタンスは、現在に至るまで一貫し続けている。

「孤独とか非孤独とか、理想と現実っていう、いろんな二項対立はあると思うんですけど、そういうもののバランスを取らなければならない。かたっぽだけにズブズブはまって、理想の暴徒と化すのか、現実の暴徒と化すのか——そういう人たちをやっぱいろいろ見てきたし、過去、自分もそうだったし。その結果、痛い目を見たので。それはバランスを取って綱渡りをしながら、ある面ではその両方から引っ張られて、引きちぎられそうになりながらも生きていくと。」(CUT 2015年12月号より引用)

 加えて、踊ること—ダンスも、米津さんの音楽と表現において、とても重要な要素だ。2016年に発表された”LOSER”のMVでは、舞踊家の辻?本知彦さんの振付けで踊る米津さんの姿が衝撃的だった。辻?本 さんとの出会いにより、米津さんの音楽にダンスという新たな表現が加わり、欠かせないものとなっていった。”Flamingo”や『感電』のMVでも、辻?本知彦さん振付けによる米津さんの華麗な踊りが披露されている。ダンスとは人間の身体性や肉体性の表現そのものである。米津さんは、自身の音楽や表現が精神性や観念性だけに陥ってしまわないよう、ダンスという肉体的な表現も大切にしているのではないか。

 “Lemon”の楽曲とMVにおいても、「踊る」ことはとても重要なモチーフとなっていた。

「ドラマがすごくテンポが良くて、ポンポン進んで気が付いたら1時間経ってるんです。それに似合う曲ってなんだろうと思ったら、平坦なリズムで進んでいくものでは絶対なくて。ある種踊るように、ステップを踏むように人の死を歌う、ってイメージが自分の中に浮かんで。結果ハネたリズムになったっていう。」(ROCKIN’ON JAPAN 2018年4月号より引用)

「ある種踊るように、ステップを踏むように人の死を歌う」という米津さんの言葉がとても印象的だ。『アンナチュラル』というドラマが持つテンポのよさやリズムと、人の死という重要なテーマを、ダンスによって表現したのだ。”Lemon”のMVでも、おそらくもうこの世にはいない登場人物の女性が、そっと胸を締めつけるように、時は戻せないかのように、美しく踊っている。そして、クライマックスのシーンでは、エモーショナルに歌う米津さんの後ろで、教会に集まっていた人たちが祈るように踊っている。 

 ドラマ『MIU404』と『アンナチュラル』の世界線がリンクしていることはすでに話題になっているが、それ以外にもリンクしている部分がある。

 『MIU404』も、『アンナチュラル』と同じように展開が速くて目が離せない。1話完結型で、24時間というタイムリミットの中でストーリーがものすごいテンポで進んでいく。ひとつひとつのシーンや、登場人物たちのセリフにはとても重要な意味が込められていて、1秒たりとも見逃せない。綾野剛さん演じる伊吹と星野源さん演じる志摩の会話のやりとりもキレがよくてリズムがある。特に伊吹は、しゃべり方が時折ラップのようですらある。

 『MIU404』と『アンナチュラル』は、扱うテーマも重なり合っている。前者は警察官として、後者は法医学者として、置かれた立場は異なれど、どちらも、人の生死の狭間に直面している。まさに、伊吹と志摩は、「死と生の境界線=「死際」で踊るように生きる奴ら」だ(2020年7月26日のrockinon.comの記事「『アンナチュラル』と"Lemon"と同じく『MIU404』中盤から"感電"が深く沁みてきた参照)。『アンナチュラル』と”Lemon”がそうであるように、『MIU404』と『感電』も、「踊る」というモチーフで繋がっている。踊ることと祈ること、踊ることと生きることは、同じことなのかもしれない。

 ここまで見てきた通り、ドラマ『MIU404』と『アンナチュラル』の世界線がリンクして響き合っているのと同じように、米津さんの楽曲とMVも、それぞれが独立した別個の作品であるにも関わらず、どこか世界線が繋がっていて、互いに響き合っている。だからこそ、『感電』の歌詞に出てくる《肺に睡蓮 遠くのサイレン 響き合う境界線》の部分がより心に響いてくる。米津さんの楽曲がドラマとものすごくリンクしているのは周知のことだが、各楽曲とMVの世界観までもがどこかリンクしているのは、驚きだし、やっぱりすごいと思う。こんな風に、米津さんの楽曲のMVには様々な仕掛けや気づきが詰まっているから、みんな何度も目を皿のようにして観てしまうのだな、と感じる。

 『感電』のMVで引き出された米津さんの様々な表情にみんな驚いたように、米津さんにはまだまだ私たちの知らない、見たことのない、わからない面が沢山ある。米津さんと米津さんの音楽について、誰もわかったふりなどできないのだ。私たちが見たり/観たり、聞いたり/聴いたり、読んだりしているのは、あくまで米津さんの一部分であり、様々な側面のひとつなのだ。だからこそ、毎回新たな驚きや発見があり、惹きつけられて、興味や好奇心が絶えないのだ。

 米津さんは、自身のことを「ミステリアス」と言われるのを好まない、と幾度となく明言しているが、では、米津さんが全然ミステリアスじゃないかというと、それも違うと思う。客観的に見て、やっぱり、米津さんは私たちが知り得ないミステリアスな面を持っている。でも、きっとそれも米津さんのほんの一面に過ぎないのではないか。

 8月5日にリリースされる米津さんのアルバム『STRAY SHEEP』の店舗別特典では、米津さんが描いたイラストがプリントされたクリアファイルが付く。クリアファイルなのにマットなメタリック調で、とても美しい。全部で6種類あり、そこに描かれた人物たちの表情がとても不思議で印象的だ。彼ら、彼女らには、表情がない感じがする。「表情がない」、と言うと語弊があるかもしれないが、悲しいのか、うれしいのか、怒っているのか、寂しいのか、笑っているのか、そのどれにもあてはまらない表情、ひとつの感情だけでは言い表せない表情をしている。マスクを被った人物も2人いるのだが、2人ともマスクで顔が隠れていて、その下にある本当の表情は読み取ることができない。様々なものが混じり合っていて、一言では言い表せない表情。米津さんの描くイラストが、米津さん自身と米津さんの音楽そのものが持つ多面性を、どこか暗示しているように私には思えた。

 きっと、『感電』のMVでの米津さんは、ただ楽しくて笑っているだけではない。MVでは、車の中にいる、おそらくもう1人の米津さんが、車窓の外で巻き起こっている目まぐるしい光景に困惑し、そこから逃れようとしているようにも見える。内側と外側、日常と非日常、現実と非現実、正常と異常、冷静と熱狂、正気と狂気、の対比とも受け取れる。きっと、その微笑んだ瞳の奥で、光だけではなく、孤独や恐怖といった、暗闇の中にあるものも見つめているのではないだろうか。アルバム『STRAY SHEEP』の楽曲やアートワークには、米津さんが見つめる様々な光と闇、そして、闇があるからこそ見えてくる光が、映し出されているのかもしれない。
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