4042 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

新たな才能と支える人達

Sano ibuki GLICO LIVE NEXT

最近、“新しい音楽との出会い”“新たな才能を応援”というコンセプトのもと、9年間大阪から菓子メーカーの協賛で、発信し続けているライブがある事を知った。2020.9.11 19:00 “GLICO LIVE NEXT”in大阪心斎橋Music Club JANUS(ジャニス)。その日の出演は4組の若手ミュージシャン。親しみを感じさせるバックステージでのインタビューを挟みながら、3時間に渡り熱のこもったライブ合戦が繰り広げられた。the McFaddin、Sano ibuki、Omoinotake、Attractions(出演順)。今回はこの中から2番目のSano ibukiさん(以下敬称略)について、紹介も兼ねて書いてみる。
シンガーソングライターSano ibukiの曲作りは独特で、架空の世界に架空のキャラクターを住まわせ、性格や好み、プロットまで精細に作り上げる作家性を持つ。今回のライブは計5曲と短めだったが、その内の4曲はメジャーデビューアルバム『STORY TELLER』の楽曲だった。アルバムタイトル=Sano自身かと思いきや、ご本人ではなく他に『STORY TELLER』というキャラクターが存在するという徹底ぶり。なかなか人となりを明かさず、こだわりに満ちた彼ではあるが、そのステージで放たれる音楽は極めて純粋で繊細。「ライブは自分自身を素直にしてくれる」と直前のインタビューでも語っていたSanoのアコースティックライブを、ストリーミング配信ではあるが初めて体験した。

オレンジ色の照明の中、黒い衣装に身を包んだSanoがシルエットで現れる。弾き語りの静かなギター音と伸びやかな声で曲が始まった。
過去の『いつか』の約束が果たされるまで繰り返し夢を見る主人公が、叶わない未来の『いつか』を想うことで生きていく。サビの所で我々は彼の思いに行き当たる。
《いつかの約束を何億回も繰り返して 巻き戻れと神を呪って嗚咽を吐いた  Sano ibuki いつかより》
過去と未来、二つの『いつか』の隙間に落とされた人物の奇跡への願いを、鮮やかに切り取った楽曲。ピアノで始まる原曲よりも、さらに優しさに満ちたアコースティックヴァージョンだった。
2曲目『滅亡と砂時計』。生きている事は当たり前ではない。天災やコロナなど、ここの所、死を身近に感じる機会が多く、社会は暗さに満ちてしまっている。明日この身が滅んでしまう可能性も少なからずあると思うと、今日の自分に出来る事、伝えられる事はなんなのだろうかと、改めてこの曲を聞いて思う。原曲では救いようのない歌詞に加え、ピアノのたたみかけるようなドラマチックな演奏に彩られていたが、アコギのみの演奏では、さらに主人公の“孤”が浮き彫りにされるようだ。自身が砂漠の真ん中に取り残されたような感覚を伴う、文学的かつ臨場感溢れる歌詞とパフォーマンスだった。
3曲目はライブ初披露の新曲『pinky swear』。夏の刹那を歌った、エモーショナルで音源化が待ち遠しくなるような楽曲だった。続くMCでは、ライブが半年ぶりであること。無観客ライブを経て、今までのオーディエンスの存在に、どれだけ救われていたかを静かに熱く語った。
4曲目は映画『ぼくらの7日間戦争』の主題歌『決戦前夜』。タイアップと言うことで、映画の世界観そのものの様な展開を見せる楽曲になっている。勇気を貰える曲で、朝これから仕事なり学校なりに、出掛ける時に聞くと素晴らしくハマる。今回、ラスサビでアカペラした姿が印象に残った。実際のライブではオーディエンスと歌うパートだったのかも知れないと思うと、胸が熱くなる。
5曲目、ラストは映画『his』主題歌として強い存在感を放った『マリアロード』。
《あなたの中に僕がいる事 何も消えやしない事  Sano ibuki マリアロードより》
人の存在が物質的ではなく、他者の精神の中に宿ると語る主人公。自分の所在が不確かな世界で、人は何かを得ては失い、その繰り返しの中で普遍的な対象にめぐり逢い、存在を確かめ合っていくものなのかも知れない。神々しささえ感じるラストソングを終え、深々と頭を垂れる彼に、人の力の及ばない自然界への畏怖の念さえ抱いた。

アフタートークで、今日のライブについて「今を共有出来ている感覚、ちゃんと繫がっている感覚があった」と語ったSano。何かと苦境に追い込まれている音楽界だが、今だから届く音楽が確かにある。配信に形を変えようとも、届けたいと思う人を応援してくれる人達もいる。ライブの在り方も問われているが、納得の行く形で、演者と聞き手を繋ぐものであり続けて欲しいと、強く願った一夜だった。
  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい